人間の悩みの90%は人間関係なのだと言われます。
対人関係が上手くいっている状況では、緊張がほどけて脳が健康に保たれる一方で、対人関係が上手くいかない場合は、病気になる確率が高く、寿命が短くなる傾向も見られました。
戦後の日本は、急激な人口増加の時代でした。こういった時代は、集団で一本の道を登る時代で、人生設計、職場、教育など、様々な場面において多様性というものは考慮されませんでした。
むしろ、日本特有の同調圧力が強く求められ、多くの人が生きづらさを感じても、なかなかそれを表に出すことはできなかったのでしょう。
平成という時代を象徴するキーワードに「生きづらさ」をあげる人たちも多くいます。
これからは、「集団で一本の道を登る」高度経済成長のような時代は終わり、人口が減っていく中で、生き方にも多様性が求められる時代になっていきます。
これまで同調圧力によって押さえ込まれてきた生きづらさが少しずつ解放され、多様性から生まれる創造性こそが、経済成長の原動力になっていくのでしょう。
石川県鳳珠郡の地域活動支援センター「ピアサポート北のと」では、「言葉で伝えるのが苦手です」「感覚過敏です」などといった
精神障がいや発達障がいの特性を理解してもらうために、当事者が身に着ける「意思表示缶バッジ」の販売をスタートさせました。
缶バッジには、「人見知りなんです」「お金の計算が苦手です」などといった精神障がいや発達障がいのある人の特性が具体的に書かれており、意思表示缶バッジをつけることで、言葉にしなくても自分の意志を相手に伝えることができます。
「幸」という字と「辛」という字は、意味としては真逆の意味を持ちますが、漢字そのものは、横棒が一本入るか入らないかの違いに過ぎません。
つまり、その一本の横棒は、現在の自分の状況を自身がそのように解釈するのか、相手がどのように解釈してくれるのかという違いに過ぎないのでしょう。
精神障がいや発達障がいも解釈一つで、「幸」にもなれば「辛」にもなりうるのです。
幸福度に影響するのは、友達の数ではなく、友達の多様性
世の中で、俗に言うクリエイティブと呼ばれる人たちは、精神障がいや発達障がいを持っている人が多くいます。
芸術という部類の仕事をしている人たちは、色が聞こえたり、匂いの味がするといったように、一つの刺激に対して、ふたつ以上の感覚が反応してしまうことがよくあります。
芸術家はこういった感覚を使って、新しい芸術を生み出していくわけですが、同時に様々な感覚が頭の中で混じり合ってしまうため、精神的におかしくなってしまうことも多くあるのです。
作品を作り続けることが、日々の不安や怖れから逃れる唯一の手段と述べる芸術家もおり、芸術と精神障がいは常に紙一重の関係なのかもしれません。
経営学者の楠木建さんは、障がいは「欠点」ではなく「違い」なのだと述べています。世の中で障がいと呼ばれているものの裏側には、普通ではないことをやる可能性があるというポテンシャルが潜んでいるのです。
また、胎内記憶研究の第一人者として知られる池川明さんは、次のようにも述べています。
「たましいのレベルでは、試練も貴重な体験であり、すべての出来事には意味があるのです。 病気や障がいについても、それを一つの個性、それどころか長所ととらえて、自分らしい人生を歩んでいる人はたくさんいます。 『障がいは不便であっても、不幸ではない』という言葉は、そのことを指しているのではないでしょうか。」
ケネディ大統領は、もう60年近く前の演説で「私は、この国を、障がい者が税金を払えるような国にしたい」と述べましたが、これは様々な障がいを抱えている人が生きづらさを感じることなく、仕事ができる社会のことを指しているのでしょう。
現在、科学技術の時代が終わり、心の時代にシフトしているのだとしたら、多様性を「欠点」と見るか、「美しさ」と見るかで、世の中の見え方は大きく変わっていくはずです。
幸福学研究の第一人者、慶応義塾大学の前野隆司教授は、人生の幸福に影響するのは、友達の数ではなく、友達の多様性なのだと言います。
人はどうしても似たもの同士で集まってしまいがちですが、自分とは違った考えを持つ人や自分とは異なった生き方をしている人と積極的に接することを心がけることで、自分自身も心地よく生きやすさを感じられるのかもしれません。
多様性が認められる世の中は、流行りの「ダイバーシティ」という言葉を使うだけでは、意味がありません。
企業経営者はよく「多様性」という言葉を使いますが、経営者がわざわざそんなことを言わなくても、人間はもともと多様性を持っており、強い同調圧力を持つ企業や世間という枠組みが人間の多様性を失わせているのでしょう。
缶バッジを通じて、同調圧力に対する意思表示がでれば、少しずつ生きづらさというものも無くなっていくのかもしれません。
生きづらい時代から生きやすい時代へ、まずは小さな缶バッジから意思表示を始めてみるのはいかがでしょうか。