「Zoom疲れ」が聞かれるようになるほど、私たちのコミュニケーションはオンラインに偏っています。
オンラインでは直接人と接するよりもストレスがかからなそうに思われがちです。
しかし、脳科学的な観点からは、画面越しで話す方が実際に会って話すよりも人は消耗しやすいと説明できるのだそうです。
私たちは直接会って話すときは、その場で五感から入ってくる情報や、相手の仕草などから読み取れる情報で、状況把握をしています。
しかし、オンラインではそうした非言語に頼る情報が得られない分、余計に脳が働くことになってしまうのです。
特に、画面に5名10名など参加者が並んで見えているギャラリービュー状態ですと、脳は複数の人の表情や仕草を読み取ろうと働きます。その結果うまく読み取れないために、ストレスは大きくなります。
実際、世界トップ企業の社員も参加している匿名のネットワークで、6000人以上が回答したオンライン会議に関するアンケート調査があります。
「会議に集中しようと努力しつつも、だいたいぼんやりしている」
「ほかのことをやりつつ、自分の名前に反応できるよう耳をすませている」
アンケートでは上記のように回答した人が4分の1以上という、ドキッとするような見過ごせない結果となりました。
こうした状態がニューノーマルになる前に、コミュニケーションを疲れないものにするにはどうすればいいのか、立ち止まって考えてみる必要がありそうです。
「自分らしく、正直に」
これは、25年続いたアメリカのトークショーで、毎日違う人と、生放送で会話してきた“トークの帝王”、ラリー・キングが大切にしているコミュニケーションの原則です。
歴代大統領からマイケル・ジョーダン、ダライ・ラマなど、国も分野も違うさまざまな人とコミュニケーションを重ねてきたラリー・キング。
テクノロジーによってこれまでのコミュニケーション技術は時代遅れになっていくという見方もある中、「テクノロジーが進歩するたびに、前よりもたくさん話すようになっている」「私たちは話さずにいられない」というのがラリー・キングの主張です。
実際、オンライン会議ができたことで、より多くの人と話す場面が増えたと感じている人は少なくないのではないでしょうか。
昨今、缶バッジがイベントで来場者とのタッチポイントとして活用されるようになったのも、「私たちが以前よりも話すようになっている」ということの表れかもしれません。
過去にはグッズとして扱われていた缶バッジですが、缶バッジはその場でつくる体験を提供するものになり、新しい出会いを広げ、人と人とのコミュニケーションを生み出しています。
緊張している心境や、立ち位置のわからない不安など、ラリー・キングの言うように自分の状況をありのままに伝えると、私たちはまわりの人と「運命共同体」となり、その場を乗り切ることができるのでしょう。
缶バッジづくりの場合も多くの人は初めて体験することで、人々はその戸惑いも発見も、「あーでもない」「こーでもない」と気持ちを正直に喋りながら缶バッジを完成させます。
缶バッジづくりの作業ステップ自体はとてもシンプルですが、デザインなどアレンジできる幅は大きく、缶バッジづくりはその場に居合わせた人と新しいチャレンジを達成する、コミュニケーションの楽しさを与えてくれます。
缶バッジづくりに見られるように、その場の緊張も期待も不安も隠さずに誰かとその場を乗り切ったとき、人はコミュニケーションを楽しいもの・有意義なものと感じることができるのではないでしょうか。
今、オンライン会議でコミュニケーションに疲れてしまっている人も、イベントでまた集まるようになったら、コミュニケーションの楽しさを思い出すような気がします。
ミレニアムに変わろうという頃、ITバブルのアメリカでは「閉鎖的なオフィスではなく、南仏のコテージで仕事をするビジネスマンが続出する」といった予測がされたことがあったそうです。
コロナによってその変化のスイッチが押されたような感覚はありますが、テクノロジーが進んでも話さずにいられない私たちが疲れずにいるために重要なのは、「リモートであること」ではなかったのでしょう。
どんなテクノロジーを用いるとしても、まずは「自分らしく、正直に伝える」ことが気持ちが楽になる近道なのかもしれません。