それまで億万長者や大きな企業のランキングで注目されてきたビジネス誌「Forbes」は、2016年に初めて、アメリカの中小企業を取り上げた「スモール・ジャイアンツ」ランキングを発表しました。
この記事が反響を呼んだのは、「スモール・ジャイアンツ」が目指しているのは会社が大きくなることではなくて、「偉大になること」だったことです。
GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)のような圧倒的な支配力を持つ巨人に対して「スモール・ジャイアンツ」は新しい歴史をつくる、新しい価値をつくる者とみられるようになってきています。
そこでまず、実際に大企業に従事している人がどのくらいか確認してみると、例えばアメリカやドイツ、オーストラリアでは、従業員250人以上の企業で働く人の割合が30〜50%。それに対して、日本では20%を切っています。
2014年の統計になりますが、日本では従業員5名以下の小規模企業は全企業数の9割近くに及んだそうです。
世界の先進国と比べて、日本は「スモール・ジャイアンツ」の土壌が肥沃であるのは間違いありません。
小型車や盆栽、カプセルホテルなど「小さい」ものを追求する考え方が日本にはありますが、はるか昔からこの国では、小さくても偉大な「スモール・ジャイアンツ」も決して珍しいコンセプトではありませんでした。
例えば、昔から親しまれてきたおとぎ話の「一寸法師」は、小指ほどの大きさでありながら知恵を働かせ、人々を苦しめていた鬼たちをお腹の中から針で攻撃し、退治します。
そうした物語が途絶えずに受け継がれてきた背景には、そもそも、日本の成り立ちのところが関係しているようです。
古事記を紐解くと、出雲のオオクニヌシ(大国主神)が「国づくり」をする際に、パートナーのような役割を担ったのがスクナヒコナ(少彦名神)という神様でした。
名前も対照的ですが、スクナヒコナは実際、ミノムシのミノをかぶったような格好をしたとても小さな神様だったのです。
「編集工学」を提唱し、日本文化を編集の視点から読み解いた松岡正剛(まつおか・せいごう)氏の言葉を借りると、小さな者によって大きな成長が生まれる「インキュベーション(育成)」のシンボルこそが、この小さな神、スクナヒコナ。
その伝承が根付いたこの国には、小さくても大きな価値がある、大きなことを成し遂げられるという美学が今も存在しています。
「小さい」に疑わない価値を感じることができる私たちは、缶バッジにおいても「小さきもの」の美学を共有できる仲間を増やしてまいりました。
実際、弊社の缶バッジのパーツは、小さなパーツを質にこだわって提供してくれる国内企業に協力を受け、缶バッジパーツの国産化が着々と進んでいます。
缶バッジは低コストなところで評価されがちですが、小さな缶バッジによってどれだけ大きな価値を生むことができるか、影響を与えることができるかは「スモール・ジャイアンツ」の考え方にも通じます。
缶バッジは、手にした瞬間は嬉しくても、小さいので、そのうち存在を忘れてしまったり、失くなりやすいアイテムです。
同時に、冷蔵庫につい貼りたくなるようなマグネットの缶バッジ、あるいは応援しているチームと一緒にいる気分になれるようなファンのための缶バッジなど、コレクターを生み出しやすいアイテムでもあります。
小さな缶バッジの効果を最大化する戦略が必要で、弊社では缶バッジの運用に関するコンサルティングもしています
2018年の国際NGO「オックスファム」の発表では、世界の富の82%を、世界で最も豊かな1%が独占していると報告されました。
貧富の差が開き続けていることに世界の不満は高まっており、「富」ではなく、「偉大さ」によって企業がランクされつつあります。
そうした流れの中で、メッセージ性の高いアイテムである缶バッジは、小さくても多くの人の共感を得て、社会に大きな影響を与えるきっかけとなる可能性を秘めています。
世界史的にも、兵力に10倍の差がある小国と大国が戦ったケースにおいて、誰もが大国が100%近い圧勝だと考えそうなものですが、実際のところは30%弱のケースにおいて小国が勝利しているのだそうです。
国づくりのコンサルタントであったミノムシサイズの神様のように、私たちは缶バッジを通じて「スモール・ジャイアンツ」の成し遂げたいことに携わるインキュベーターでありたいと思います。