90年代にブームになった缶バッジをファッションとして活用する文化が、最近イギリスで再度ブームになってきているのだと言います。
歴史を振り返れば、政治のキャンペーンからマハトマ・ガンジー率いるインド独立運動、1960年代には若者のカウンター・カルチャー、1970年代から1980年代にかけてはパンク・ブームなど、
缶バッジはそれぞれの時代において、重要な自己表現の一部になってきました。
90年代、まだタトゥーを入れることができない若者ができる自己表現の一つが、好きなバンドの缶バッジをカバンにつけることだったのです。
最近、日本の若者の間では「平成レトロ」という平成ブームが起こっていると言いますが、人類の歴史というものは、どんどん新しいものが出てきているように見えて、古く懐かしいものが何度も何度も復活したりしながら、少しずつ変化していくものなのかもしれません。
多摩大学の田坂広志教授は、著書「知性を磨く『スーパージェネラリスト』の時代」の中で、物事の変化というのは、らせん階段を上るように変化していくのだと述べています。
らせん階段を登っていく人を横から見ると、どんどん上に上がっているように見えますが、これを階段の真上から見下ろすと、階段を一周まわって、また同じところに戻ってきているように見えます。
ただし、また同じところに戻っているように見えても、これはらせん階段なので、一段上の階に上がっているのです。
缶バッジの進化もらせん階段を上がるように、再ブームを繰り返し、その時代によって使われ方が変化しながら、前に進んでいっているのでしょう。
会話のキッカケをつくる缶バッジ。神様は運を与える時に必ずメッセンジャーを送る。
例えば、最近若者が缶バッジを好む理由の一つに、会話のキッカケをつくるということがあります。
SNSが普及したことで、人間関係は大きく広がりましたが、アルゴリズムによって、同じ属性の人たちだけとコミュニケーションを取るようにデザインされてしまっているため、なかなか自分とは違う属性の人たちと接点を持つキッカケが無くなってしまいました。
服にユニークな缶バッジをつけることで、自分から何も言わなくても、他人に自分の個性を知ってもらうことができ、SNS上では生み出せない新しい人間関係を生み出すことができます。
神様が何か運や偶然のご利益を人に与えようとする時は、直接与えるのではなく、必ずメッセンジャーを送って、人を仲介させるのだと言います。
したがって、どれだけ神様がご利益を送りたくても、ずっとスマホの世界にへばりつき、偶然現れる神様からのメッセンジャーに話しかけるキッカケを与えなければ、幸運はよってこないのです。
また、ユニクロなどのファストファッションが国民服になり、なかなか外見で個性をアピールしにくい世の中になっていますが、手軽かつスタイリッシュに大胆な個性をアピールできる缶バッジは、いつの時代でも若者にとって使いやすいアイテムなのでしょう。
ドバイのファッションブランド「Max Fashion」のデザイン担当副社長のKamakshi Kaul氏は次のように述べています。
「もし、ジーンズとTシャツというシンプルな服装に、何か一つ熱の入ったものを取り入れようとしているのであれば、服の上にピンバッジをつけるといい。」
常に多種多様なファッション文化を持つイギリスでは、あらゆる年齢層の人たちが、缶バッジや様々なアクセサリーを使って、自身の個性を表現しています。
缶バッジやピンバッジの良いところは、ジャケット、シャツ、バック、リュックサックなど、どこにつけても似合うことで、その人の想像力が許す限り、様々な表現をすることができます。
最近では、Pinterestで個性的なアーティストが色々なデザインを公開しており、手頃な価格で身につけられるアートがどんどん出てきている。
どんな服を着ていてもさりげなく目を引く缶バッジは、1つのデザインに飽きたら、違うデザインに交換するのも簡単で、自身のアイデンティティを追求するためのリスクの低い方法なのだとも言えます。
小さな缶バッジが生み出すインパクトを理解したければ、企業や団体のプロモーションの効果を見るべきでしょう。
オーストラリアでは、多くの有名な慈善団体が缶バッジを使って、何百万ドルの寄付金を集めています。
成功事例としてよく知られているのは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の研究資金を集める「赤い鼻の日キャンペーン」(Red Nose Day campaign)です。
このキャンペーンは当初、ピエロの鼻をモチーフにしていましたが、多くの人がその鼻をつけるのを恥ずかしがりました。
ピエロの鼻の代わりに、様々なスローガンが書かれた缶バッジを提供したところ、ピエロの鼻よりもキャンペーンが上手くいきはじめたのです。
きっと、どんなモノやサービスでも、時代と共にその時代に生きた人たちが、新しい使い方を生み出していくのでしょう。
そして、らせん階段を登るように、少しずつ変化しながら、ゆっくりモノやサービスというものは変化していくのです。
弊社も常に時代を先取りしながら、その時代に必要とされるモノやサービスを生み出せるよう努力していければと思っております。