ローソンとミスタードーナツは、元々は米国発祥のブランドですが、現在本国では、これらの企業の看板を見ることはありません。

逆に、ローソンやミスタードーナツは日本では誰でも知る企業であり、多くの人が日常的に店舗を訪れますが、なぜ同じブランドの企業であるにも関わらず、米国では上手くいかず、日本では成功し続けているのでしょうか?

これは恐らく文化的な背景が関係しているのでしょう。

米国は、0→1のオリジナルのアイディアを出すのが得意なのに対して、日本には「カイゼン」の文化があると言われる通り、既存のものに「工夫」を加えて、1→10、10→100にするのが得意なのだと言えます。

ローソンとミスタードーナツの他にも、米国では消滅してしまったのに対して、日本ではまだ元気に残っているブランドとして、タワーレコードがあります。

本国では消滅してしまったのに、日本では元気に残っているものも多い。

米国のタワーレコードは2006年に倒産してしまっていますが、日本のタワーレコードは運営を続けており、タワーレコード渋谷店はリアル店舗で世界最大級のCDショップとなっているのです。

日本のタワーレコードでは、音楽の魅力を伝えるためにスタッフが自作した手書きのPOPを作ったりするなど、小さなカイゼンを繰り返すことで、米国とは違った独自の文化を築き上げていきました。

最近では「NO MUSIC, NO LIFE」と書かれた缶バッジも作成しており、音楽好きにとっては、タワーレコードのグッズを身につけることは、一つのファッションのようなものなのでしょう。

ちなみに、世界的に有名になった「NO MUSIC, NO LIFE.」というフレーズも、最初は日本支社で開発されて、その後、米国や海外でも採用されるようになっていきました。

(Tower.jpより)

また、タワーレコード独自のCDを予約すると缶バッジがもらえるというキャンペーンも多くあり、小さなカイゼンを何個も何個も積み上げてきたことが、米国と日本のタワーレコードの違いを生み出したと言えるのでしょう。

現在、かつては世界で存在感を持っていた日本のブランドの影響力が低くなり、日本企業に関しては悲観的な声ばかりが聞かれますが、いまこそ、タワーレコードのような小さなカイゼンを繰り返すことで、成功している企業に目を向けるべきなのかもしれません。

iPhoneのような大きなイノベーションではなく、ごく小さな変化を常に意識した「ミクロ・イノベーション」を繰り返す。


自動車の生産技術は米国から日本に伝わったものですが、「現状に満足せず、今よりもっとよくする」という日本人のカイゼンのマインドセットが、いつしか米国の技術を追い越してしまいました。

最終的には、トヨタの生産方式をデトロイトにあるフォード本社でレクチャーすることになり、地元紙には「かつての生徒が先生になる」になるという大きな見出しが載ったのだと言います。

セブンイレブンも元々は米国の企業ですが、米国セブンイレブンを運営するサウスランドが1991年に経営破綻してしまったのに対し、日本のセブンイレブンはどんどん成長しています。

米国は破綻したが、日本のセブンイレブンはどんどん成長している。

セブンイレブンが自らの業務を小売業であると同時に「変化対応業」だと述べています。

つまり、iPhoneのような大きなイノベーションはないかもしれませんが、ごく小さな変化を常に意識し日々「ミクロ・イノベーション」を繰り返すというやり方が日本のイノベーションの起こし方なのかもしれません。

高度経済成長期に日本の工場の「カイゼン」を支えたのは、地方から出稼ぎでやってきた兼業農家の人たちだったのだと言います。

四季や天候、そして、自然の様々な原理を理解しながら作物を育ててきた農家の人たちにとっては、自主的に常に業務を見直し、より良いものにしていくという「カイゼン」は、日々の業務としては当たり前のことだったのでしょう。

「カイゼン」を支えたのは地方からの農家。

米国のタワーレコードはデジタルの音楽が普及したことで、CDが売れなくなり倒産してしまったわけですが、ストリーミングですべての音楽が無料で聴けるようになったことが、音楽を聴く体験を豊かにしたかは定かではありません。

米国のかつてのタワーレコードは、店舗に行けば好きな音楽の共通の話題で盛り上がれるという商品以上の価値を提供してしました。

タワーレコード創業者ラス・ソロモンは、2015年に制作されたタワーレコードの盛衰を描いたドキュメンタリー映画の中で次のように述べています。

「若いヤツの社交場がなくなってしまった。街でどこに行きゃいいのかわかんなかったら、とりあえずタワーレコードに行けばよかったんだ」

1960年代、タワーレコードは服装規定も設けず、道端にいる人を店員としてスカウトし、昇進させたりして、タワーレコードを若者の社交の場として提供していました。

行き場に困ったらとりあえずタワーレコードに行けばよかった。

これまでリアルの店舗というのは、お客さんが最終的に商品やサービスを購入するという「出口」としての機能を果たしていましたが、これからのリアル店舗はお客さんが何か新しいものに興味を持つキッカケとしての「入口」の機能を果たしていくことになるのでしょう。

企業はこれまでオンライン上にメディアをつくってマーケティングをしてきました。しかし、これからはリアルの店舗そのものが「メディア」としての機能を果たしていくことになります。

アップルの店舗で製品を知り尽くしたスタッフとコミニュケーションを取りながら製品を選んでいくプロセスはオンラインでは代行できません。

むしろ、店舗は商品やサービスを流通させる場所ではなく、新しい文化や体験を流通させる場所になっていく必要があります。

アップルストアの体験は代行できない。

顧客は常に変化し、商品やサービスにも常に変化を求めていることを考えれば、常にどれだけリアルの場で顧客と接点を持ち続けられるかが、小さなカイゼンを繰り返すための原動力となっていくはずです。

缶バッジはリアルな店舗から体験を流通させるための強力なツールになっていくことは間違いないでしょう。

米国のように画期的なアイディアで業界を一気に変えてしまうイノベーションもあれば、日本のように小さなカイゼンを日々繰り返すことで、振り返った時に大きなイノベーションが起きていたというものもあります。

商品やサービスはオンライン上でどんどん販売されていきますが、日本のイノベーションの源泉であるカイゼンは常にリアル店舗という現場に残っているのでしょう。