毎年選挙の時期になると、ラーメン専門店「一風堂」が一風変わったキャッチーな広告を打つようになりました。

「ラーメンは伸びない方が良い。投票率は伸びた方が良い」

これは投票率の向上や若者の積極的な社会参加を促す目的で一風堂が2016年から始めた取り組みで、投票済証明書を持参した客を対象に「替玉1玉」または「半熟塩玉子1個」を無料でサービスするというものです。

このキャッチーな広告はまたたくまにTwitter上で拡散され、「ほぉ〜!」「誰がうまいこと言えとw」など称賛の声が次々と上がっています。

また、アウトドア用品店のパタゴニアに関しても、社員の投票を促す目的で選挙日に全店舗休業を告知してSNS上で話題になるなど、社会問題を絡めたPRに注目が集まりつつあります。



江戸時代に生まれたことわざ「三方よし」は、最近“流行り”の社会貢献型PRの源流


近年はSNSの登場によってこうした社会貢献型PRが多くの人の目に止まるようになったため、こうしたPRの手法は一時的な「ブーム」のように捉えられがちです。

しかし、経済活動に道徳や倫理を絡める行為は、実は日本でも昔から行われてきたものでした。

例えば、Win×Winを意味することわざ「三方よし」は、伊藤忠商事の創業者である伊藤忠兵衛もその1人に数えられる近江商人の考え方が由来となっており、「売り手良し、買い手良し、世間よし」の状態を作ることが利害関係者との連携を円滑にすると考えられていたのです。

これは近江商人だけに止まらず、江戸時代の三井家や住友家など、現代に続く息の長いビジネスを展開してきた企業は当たり前に導入してきた考え方でした。



売り手、買い手、世間の三方にとって意義のあるPRを行う際、ウェブ広告ではなくあえて缶バッジを使うことで他社と差別化できるかもしれない。

企業活動は、株主と労働者はもちろんのこと、顧客、取引先、事業所がある地域社会など多くの関わりの中で行われており、彼らを無視して企業の活動は成り立ちません。

例えば、コンビニ弁当一つとっても、弁当を作るために仕入れた材料は、途上国の劣悪な労働状況下で作られたものかもしれませんし、材料を輸入する過程で大量のCO2を排出して地球環境の悪化に伴いに第三国に影響を与えているかもしれません。

企業の活動範囲がグローバルに拡大した現在、企業が一つの製品を生み出す過程で多くの国や人に何らかの影響を与えており、関係ないと思っていた国や人が利害関係者になりうる時代なのです。

そうした背景もあり、自社ブランディングやPRに社会問題を絡め、社会問題解決を促す取り組みを重視する企業が増えてきました。



社会貢献型PRを実施する企業の業績が良い理由「社会問題の理解=顧客理解」


ここで興味深いのは、社会問題に正面から向き合う企業はどこも業績が良いケースが多いということです。

一風堂やパタゴニアはもちろんのこと、例えば、2006年に設立されたTOMS Shoes(トムスシューズ)は良い例かもしれません。トムスシューズは、靴を1足買うと途上国の子供に靴が1足提供されるというビジネスモデルが有名な企業で、同社はまたたくまに世界60か国に展開し1000万足を売り上げる企業に成長しました。



社会貢献型PRを行うということは、社会が現在どのような状況にあるのかを理解することを意味する。その缶バッジが何を社会のどんな問題を解決するのか考えながら作れば、おのずと差が出てくる。

同社は靴のビジネスの成功後にメガネ産業にも参入し、世界に約2億8000万人いるとされる視覚障害者に対して、メガネが1つ買われるごとに1人に視力矯正などの治療を提供するなどビジネスを拡大しています。

社会貢献型PRを行っている企業の業績が良い傾向にあるのは、社会から長期的な信頼を獲得できるのは当然のこと、本質的には社会問題と向き合うことは「変化への対応力」を磨くことに繋がるからだと考えられています。

常に変化し続ける社会の中で「今、誰が、何に対して、どんなふうに困っているのか」を的確に把握することは、消費者理解に繋がります。だからこそ、社会貢献型ビジネスを展開する企業は、顧客が満足する商品やサービスの提供に成功しているのでしょう。



認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン「缶バッジ1個でボルネオの森1畳分を守れる」


パタゴニアのCEOは「我々の考え方を広めることこそが、もっとも効果的なマーケティングになる」と言いますが、弊社のお客様の中にも同じような考えのもと活動されている方がいらっしゃいます。

それは「認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン」さんです。同NPO法人はオランウータンやゾウの生息地として有名なボルネオ島の森を買い取って森林を守っており、缶バッジと社会的なメッセージを掛け合わせることで活動を行っています。

利益を生み出すことを目的としないNPO法人と言えど、活動を継続していくためには、営利企業と同じくマーケティングやPRの視点が欠かせません。

そこで今回は、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンさんの取り組みを紹介します。






同NPO法人が森林を購入する際の資金となるのは一般の方から集めた寄付金ですが、この寄付金を集める手段として缶バッジの販売を行っています。

缶バッジを販売する際に缶バッジそのものを売るのではなく、あくまでも団体としての「考え方」を伝えることが缶バッジの購入に繋がっているとして、事務局長の青木崇史さんはこのように話していました。

「『缶バッジ1個200円でいかがですか』という売り方ではなく、何に対してお金を払うのかというメッセージを伝えているんです。その中で私たちが伝えるのが『缶バッジ1個のお金で、オランウータンの森が1畳分守れるんです』というメッセージです」

「アイスクリームやポテトチップスの成分表示表をみると『植物油脂』という成分が書いてありますよね。世界でもっとも大量に生産されているのがアブラヤシの木からとれるパーム油と呼ばれる植物油で、そのアブラヤシはボルネオのような熱帯地方でしか育ちません」

「私たち日本人は1日に大さじ1杯分のパーム油を消費しているので、間接的にではありますが、森林破壊に関与しているのです。そうした事実をお伝えし、共感していただいた上で缶バッジを買っていただきます」




イベントなどでの無料配布とは異なり、有料で缶バッジを販売するとなると、缶バッジの有料販売は簡単ではありません。

それにも関わらず、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンさんがイベントを開催するたびに200〜300個もの缶バッジが売れるのだそうで、その規模は年々拡大傾向にあるそうです。

企業のマーケティングやNPO法人の資金調達手段として社会貢献型PRが注目される中、そうした取り組みの中で缶バッジの存在を垣間見ることができたこと、嬉しく思います。