「学費満額なんて納得いかない!」
コロナによって大学に通えず、さらにはアルバイトもできず、多くの学生が料金据え置きの授業料に対して不満を表しました。
文部科学省の発表では、国公私立大や短大、専門学校で9割以上が授業料納付の猶予をしているそうですが、同時に、コロナによって浮き上がった「何に対して自分たちは料金を支払っているのか」という学生たちの問いに対する回答も猶予の状態にあるように見えます。
そうした中でふと思い出されたのが、窮地に陥ったところから「笑い」で価値を決める料金体系をつくり、観客を取り戻したスペインのコメディ劇場です。
スペインでは2012年、財政赤字にあえぐ政府の施策により、劇場のチケットにかかる税率が、8%から21%へと大幅に引き上がることになりました。
その結果、観客数が前年比3割減となり、深刻な経営難に直面したのが、バルセロナのコメディ劇場「TeatreNeu」です。
その場しのぎではなく、何か全く新しいことを始めないと劇場が潰れてしまうということで「TeatreNeu」が導入したのは、世界初の「笑い課金」システムでした。
どのようなシステムかというと、まず入場料は無料で、お客さんは演劇観賞後に自分の笑った回数に応じて料金を支払います。
「つまらなければ払わなくていい」と、コンセプトはシンプルですが、この課金システムは笑顔を検知するセンサーやクラウドなど、テクノロジーによって初めて実現可能になったものです。
“チケット”ではなく“笑い”に対して払う“笑い課金”「Pay Per Laugh」では、1笑いごとに0.30ユーロ(約40円)課金され、1回の鑑賞で課金される上限は80笑いなので心おきなく笑えます。
よく通うお客さんのため、300笑い、500笑いなどまとめて事前購入できるプリペイドシステムもつくられました。
こうして劇場はチケットで受け取っていたときよりも一人当たり平均6ユーロ高い料金を受け取ることに成功し、観客数は35%も伸びたそうです。
観客それぞれに払う金額が異なるのは、投げ銭システムに近いところはありますが、投げ銭ではなかなか、支払う側と受け取る側の両方が納得のいく形で価値を分かち合う結果にはなりません。
バルセロナの劇場においても、その上演内容に観客が納得していなかったら、劇場は自分の首を絞める結果になっていたことでしょう。
テクノロジーによってより正確な量が測れるようになったことで、「成果」に忠実な料金システムを持つサービスは、ほかにも様々な分野で登場しつつあります。
最近では、アメリカの自動車保険会社「Metromile」が、アプリをダウンロードするだけで走行距離に応じた保険料を算出する自動車保険を始めました。
アメリカでは日本の人口に匹敵するくらいの多くの人が自動車保険に対して年間10万円近くも払いすぎているのが現実で、特に今回コロナによって運転する機会や距離が激減した人々から関心が集まっているようです。
そもそも車というのは90%以上の時間ただ駐車されているのが通常のため、車は“世界で最も活用されていない資産”とも言われます。
日本でも20代を対象にした調査の結果では、車を買いたくないという回答が半数を超えており、そのうちの4分の1以上の人は車にかかるお金を理由に挙げていたそうです。
解決策として人の密集している都会ではシェアリングサービスが盛況ですが、一方でたとえ1日1時間にも満たない使用状況だとしてもどうしても車を所有しなければ生活ができない地方の人々もあります。
走った分だけ支払う自動車保険は、そうした人々の負担を軽くすることにつながるかもしれません。
実際にモノやサービスが使われた「成果」で測る料金システムの導入は、現在多く取り入れられている定額制と比べ、サービス提供側としてリスクが大きく見えるものです。
しかし、同じ演劇を見ていても、同じ車種に乗っていても、ユーザーの感じ方や使用量はさまざまです。
バルセロナの劇場も、“笑い課金”導入以前はチケット一律2割引で対応したけれど効果が見られなかったそうで、確かに、原点に帰って価値の測り方を知ろうとすることから、ビジネスが飛躍するきっかけは掴めるものなのかもしれません。
実際、大学はこれまで、多くの人にとって新卒で就職活動をするために重要な場所で、学生でいる間のことよりも卒業後、企業側の視点で価値が測られてきました。
それなら単位取得が保証されればいいのかと思いきや学生側は、「通えないのなら、授業料を払いたくありません」と言っています。
このように、ユーザーと提供者側の間でボタンの掛け違えが起きていながら見過ごされてきたことは、ほかにもありそうです。
例えばノベルティグッズの業界においても、手頃な金額で提供することや小ロットから受注可能というような制作側の涙ぐましい努力に反し、ユーザー側の不満がもっと別のところにある場合も少なくありません。
通常、ノベルティグッズを発注すると、発注から納品までに2週間、3週間とかなりの時間がかかってしまうことがあります。
あるいは、ノベルティグッズを配布してみて数が足りなくなってしまったり、あるいはそうならないように作りすぎてしまったり、という数量のコントロールもユーザー側にはストレスになりがちです。
一方で缶バッジの場合、そもそもバッジ制作そのものがイベント来場者へのサービスとなっていることが多く、また、制作済みのものを配布するにしても、いざとなれば当日に手の空いている人が裏で足りない分を追加制作して補充することが可能です。
缶バッジのコスト面に関する満足の声は多く届きますが、それは費用という見える部分だけでなく、時間や数量をかなり正確にコントロールできるために削られるストレスといった見えないコストも含まれていると感じます。
お互いがどこに価値を置いているのかを見直し、その価値を提供できた分だけ課金する「成果」型のサービス。これからテクノロジーが進歩するほどに正確さを増していくことは間違いありません。
広告や安売りよりも、納得いくお金の使い方を追求することが、停滞していたマーケットを動かす大きな手段となるでしょう。
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