ムーミンの様々なグッズを販売するPEIKKO アンテナショップ(東京都墨田区)では、先着で、一定の額を購入したお客さんに、ムーミンの缶バッジをプレゼントするという企画を行いました。

また、埼玉県飯能市にある「ムーミンバレーパーク」では、ムーミンのイラストを使って、オリジナルの缶バッジをつくるワークショップが行われたり、ムーミンの缶バッジが入った1回400円のガチャガチャに人気が出るなど、日本でのムーミンの人気は根強いものがあります。

ムーミンは、フィンランド生まれのキャラクターですが、世界での認知度は日本がフィンランドに続く世界第2位となっています。

2019年に「日本リサーチセンター」が行った「全国キャラクター調査」によれば、15〜79歳の男女1200人のうち、認知度が9割を超えたのは、「ハローキティ」、「ムーミン」、「くまのプーさん」の3種類のみだったのだと言います。

ムーミンの日本の認知度は9割。(Xより)

海外から日本に入ってきたキャラクターとしては、ムーミンが一番認知度が高く、日本では大人から子供まで幅広い世代に愛されていることが分かります。

日本のムーミン市場は、2010年の約80億円から、10年間で、約450億と6倍近くに増え、日本が世界市場に占める割合は、北欧と同等の4割ほどになっています。

現在、伊藤忠商事がムーミンを中国に広げようとしています。ムーミンは発祥地である欧州よりも日本での人気の方が圧倒的に高く、海外のコンテンツが日本を経由してアジアの国々に広がっていくという流れも、これから増えていくのかもしれません。

中国は日本のコンテンツに対して、非常に理解が高く、1976年まで約10年間続いた文化大革命が終わった時、中国で一番に上映された海外映画は日本映画でしたし、いまや「ワンピース」、「ナルト」、「ドラえもん」などは、中国では、国民的なキャラクターとなっています。

日本のムーミン市場は10年で約6倍に。

お気に入りのキャラクターと、そのキャラクターを気軽に身につけられる缶バッジは、切っても切れない関係にあります。

そう言った意味では、お気に入りの漫画やアニメのキャラクターを缶バッジと一緒に身につけるという文化も、日本から世界に広がっていくのかもしれません。

ムーミンには「陰」の部分も隠さず描かれている。


そもそも、なぜ遠く離れたフィンランドで生まれたムーミンが、ここまで日本で受け入れられるのでしょうか?

フィンランドには、「森は私の教会である」という言葉があります。

この言葉は、自然豊かな森の中に入って、自分と対話するという意味が込められていますが、日本の国土も70%が山地で、山は、世界的に見ても、霊界と繋がる場所とされています。

もう千年以上前から、日本の修行僧は山に入って、自分と対話しながら、精神を鍛えていったわけですが、同じ山の中で、自然に敬意を払いながら暮らすムーミン一家は、どこか日本人と近い感覚があるのでしょう。

自然に敬意を払うのは、日本人に近い感覚がある。

欧米の考えは基本的に、自然を自らの手で支配しようとするのに対して、日本は自然災害なども含めて、自然と調和して行こうという考えが強くあります。

また、ムーミンの世界には不思議な魔法や妖精などが登場しますが、これは日本の妖怪や神話と非常に近いものがあります。

ムーミンの原作者、トーベ・ヤンソンは、元々画家でしたが、第二次世界大戦の影響で画家に行き詰まり、ムーミンの物語を書き始めました。

ハフィントンポストのある記事では、ムーミンが子供だけではなく、幅広い世代に受け入れられている理由は、明るいポジティブな部分だけではなく、自然災害や孤独などといった「陰」の部分もしっかりと描かれているからだと指摘しています。

ムーミンの物語の中には、原作者が第二次世界大戦から受けた価値観が反映されていると言われており、「陰」を部分を隠さず描くからこそ、明るいポジティブな部分がより強調されて意味を持ってくるのかもしれません。

ムーミンには「陰」の部分もしっかりと描かれている。

ムーミンの物語には起承転結もなければ、分かりやすい勝ち負けや派手なシーンもなく、ハリウッドの作品とは真逆のコンセプトなのだと言えるでしょう。

ムーミンのような日常的でシンプルなのだけど、ちょっと分かりにくいストーリーは、欧米などでは中々受け入れられず、世界の先進国で唯一近い感覚を持っていた日本だからこそ、受け入れられたのかもしれません。

もともと、日本人は自然と調和する文化を持っていましたが、近年では少しずつ、自然を破壊し、欧米のように自然を自らの力でコントロールしようとする考えが少しずつ出てきています。

女性は、男性よりも直感が優れ、世の中の変化に敏感だと言われます。

ムーミンは特に大人の女性に人気であることを考えれば、日本人は、失われつつある自らのアイデンティティを、ムーミンという物語を通じて取り戻そうとしているのかもしれません。

日本人はムーミンを通じて、自身のアイデンティティを取り戻そうとしている。

日本の職場でも、成果主義の意識が強くなり、いまや日本は米国よりも個人主義の国になりつつあると言われますが、ミイやスナフキンのように、自分の好きなことをやりつつも、周りと上手く調和しながら多様性を受け入れていくという考え方が、いまの日本には求められているのでしょう。

缶バッジを含めたムーミンのグッズが日本で人気であるという背景には、自然や周りと調和しながら生きていくというライフスタイルが、自分たちには、一番合っているということを、日本人が意識のどこかで気づいているからなのかもしれません。

ムーミンの缶バッジをつけて歩くということは、少しずつこういった概念を周りに伝えるということにもなります。

きっと、日本人は、ムーミンを通じて、本当の日本的な感覚を取り戻そうとしているのでしょう。