いまや5人に1人がマッチングアプリで結婚すると言われています。

また、2022年の調査では、婚活サービスで恋人ができた人は49.5%と年々増え続けており、もはやインターネットやSNSなどを通じて恋人を見つけるのは当たり前になってきています。

国勢調査が始まった1920年からのデータを見てみても、1940年から1944年の調査では、結婚の70%はお見合いであり、恋愛での結婚は15%程度しかありませんでした。

その後、1960年代後半に見合い結婚が44.9%、恋愛結婚が48,7%と恋愛結婚が逆転し、2000年代後半には恋愛結婚が88%に対して、お見合い結婚が5.3%と、恋愛結婚の割合がどんどん大きくなってきています。

5人に1人がマッチングアプリで結婚する時代

そして、2020年のコロナ禍を通じて、マッチングアプリで恋人をつくる人たちが増えていきました。

効率の悪い合コンや人間関係が複雑な社内恋愛よりも、もっと自由でスピーディーな恋愛を求める人たちが増えていったのです。

プロフィールや写真を見て、やり取りをスタートさせ、メッセージチャットでお互いの仲を深めて、恋人の関係になっていくわけですが、どれだけライフスタイルやツールが変わったとしても、人が人に抱く様々な感情は、1000年以上前から大して変化していないのでしょう。

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」では、世界最古の女性文学と呼ばれる源氏物語を生んだ紫式部の生涯が描かれています。

源氏物語は千年を超えるベストセラーとなり、物語の中では、様々な平安貴族たちの恋愛や結婚事情が描かれています。

恐らく、形はお見合いから恋愛、そして、マッチングアプリ、ツールは手紙からメール、そして、LINEと変化をしたとしても、恋愛を通じて、人を突き動かすような感情はどの時代も変わらないのではないでしょうか?

人を突き動かす感情はどの時代も変わらない。

日本はいったいどういった国なのかということを、最も深く考えた江戸時代の国学者に本居宣長という人物がいます。

本居宣長が源氏物語を研究するなかから取り出した「もののあはれ」は、日本人の幸せを考える上で非常に大切なものになっています。

「もののあはれ」とは、男女や親子・友人などの間に生じる様々な情緒や気分をあらわす言葉。

こういった何千年もの間、人間の中に脈々と流れている感情のようなものは、恋愛がどれだけ効率的でスピーディーになったとしても変わらないのでしょう。

源氏物語誕生の地である滋賀県大津市では、観光プロモーションの一つとして、紫式部の句などが書かれた缶バッジをプレゼントしています。

紫式部の缶バッジを身につけることで、ドライだと思われがちなマッチングアプリの恋愛も、良い意味でもっと、人間味のあるものになっていくのかもしれません。

ドロドロした恋愛とスピーディーなマッチングアプリを足して2で割ったくらいがちょうどいい。


最近のマッチングアプリでは、仕事、趣味、年収など、外見と合わせて、相手の多くの情報を事前に得た上で、実際に会うことが多くなってきました。

しかし、ある調査によれば、デート相手に関しては、相手のことを知れば知るほど、恋愛感情は高まるどころか、むしろ薄れていくという結果が出ています。

実際、デート相手のことをよく知らなければ、私たちは想像を働かせて、楽観的な方法で情報の欠如を埋めていくのだと言います。

例えば、相手が運動好きとしか知らなければ、相手はゴルフではなく、自分と同じジョギングや球技が好きに違いないと思い込んで、楽観的な期待を抱いていきます。

しかし、何度か会って、コミュニケーションを取っていくうちに、過剰な期待はどんどん打ち砕かれていくのです。

実は相手のことを知れば知るほど、恋愛感情は薄れていく。

ある意味、マッチングアプリは数えきれない人たちの中から恋人を選ぼうとするため、例え自分の期待が打ち砕かれても、いつか自分に合う人が現れるのではないかと新しいマッチングを繰り返していきます。

ところが、出会いの回数が多い分、もっと良い人がいるのではないかという思いから、結婚ができなくなるというジレンマに陥ってしまうのです。

逆に選択肢があまり多くなかった100年近く前のお見合いでは、自由度が少ない分、限られた制約の中で、小さなお互いの良いところを見つけやすかったのでしょう。

自由な恋愛よりもお見合い結婚の方が、離婚しにくいという話もよく聞きます。

紫式部が生きた平安時代は、当然、恋愛も結婚も自分で選べず、それどころか、男女の関係は政治に大きな影響を与えました。

お見合い結婚の方が、離婚しづらい。

源氏物語は平安時代に繰り広げられる恋愛や、そこから生まれる憎しみや悲しみが赤裸々に描かれていますが、むしろ、こういったドロドロした人間関係の中にこそ、本当の意味での純愛を感じ取れるのかもしれません。

恋愛を通じた憎しみや悲しみも、後で振り返ってみれば、人生で必要な経験であり、自身を成長させてくれる大切な要素なのでしょう。

ダメならどんどん次に行けるマッチングアプリでは、憎しみや悲しみというものは生まれにくく、ドロドロした人間関係がないのは良いことかもしれませんが、自由過ぎるからこそ、どうしようもなく人を突き動かす感情のようなものも生まれにくいのかもしれません。

恋愛は人生で一番楽しいものの一つです。

もし、現代の世の中に紫式部や源氏物語の主人公、光源氏(ひかるげんじ)が生きていたら、どのようにマッチングアプリを使いこなすのかは分かりませんが、きっと、平安時代のドロドロした恋愛と現在のスピーディーなマッチングアプリを足して二つに割ったくらいの純度の恋愛が一番楽しいのかもしれません。

マッチングアプリとドロドロした恋愛を足して2で割ったくらいが丁度良い。

マッチングアプリを使う時も、紫式部の句などが書かれた缶バッジをどこかに身につけておきましょう。

現代の無機質になり過ぎてしまった恋愛が、千年前のドロドロした恋愛に包まれて、ちょうど良い純度の恋愛にしてくれるかもしれません。