円安の影響もあり、コロナが本格的に明けてからは、数多くの外国人が日本を訪れており、東京の繁華街を歩けば、まるで外国の国に来たようにも感じられます。
インバウンド需要が本格化する2010年代後半まで、日本という国は、海外の人達が見れば、まだまだ遠く閉ざされた国というイメージが強く、気軽に旅行で訪れられる国ではなかったのかもしれません。
ここ数ヶ月だけでも、ジェイZ、ビヨンセ、マーク・ザッカーバーグ、ジェニファー・ロペス、オプラ・ウィンフリーなど様々な著名人が日本を訪れており、SNSを通じて、様々な日本文化を世界に発信しています。
これまで日本は、車や電化製品などの「ハード」を海外に輸出することで、世界に対して影響力を持ってきたわけですが、過去数十年にわたって、アジアの国々に少しずつシェアを奪われており、グローバルの市場において、日本の存在感が弱まってきています。
日本の「ハード」の部分が弱くなってきているのに対して、近年では、日本の「ソフト」の部分であるアニメなどの文化的な部分が影響力を持つようになってきています。
一昔前は、少し気持ち悪がられた日本のオタク文化が、現在では外資を稼ぐ立派な産業になっているのは、SNSなどを通じて、オタク文化が少しずつ世界に広がっていったからなのでしょう。
2024年4月27日・28日の2日間にわたって開催されたニコニコ超会議では、日本のオタク文化を最大限に発揮した様々な缶バッジが販売されました。
ある意味、ここまで缶バッジに個性を詰め込むことができるのは、世界の中でも日本人だけなのかもしれません。
1990年代から2000年代にかけて、日本は物価の高い国として知られていましたが、現在、先進国では物価の安い国となり、海外の人たちも気軽に訪れられる国になっています。
10年、20年前のベルリンやブルックリンのように、次の時代をつくるクリエイターたちは、ゆっくりと自由に創作活動ができる物価の安い街に移り住みます。
2022年には、チャンネル登録1億人以上を誇る世界一のYouTuber、PewDiePieが日本に移住したことが話題になりました。
日本国内では、日本悲観論ばかりを聞きますが、実は今や日本が世界で一番面白い国になっているのかもしれません。
ディズニーは「広く、浅く」、漫画やアニメは「狭く、深く」
日本ではまだまだ「オタク」と言うと少し近寄りがたいイメージがありますが、海外で「Otaku」と呼ばれる人達の中には、名門大学で教育を受け、コンサルタントや投資銀行で働く人も多いのです。
将来、こういったオタク・ネイティブとして育った世代の人達が世界のリーダーになっていくことを考えれば、日本のオタク文化は世界に大きな影響力を持っていると言えるでしょう。
2016年のリオデジャネイロ・オリンピックの閉会式におけるリオから東京への引き継ぎセレモニーでは、安倍晋三元首相がスーパーマリオになって登場しました。
恐らく安倍元首相は、日本が持っているソフトパワーの影響力をしっかりと理解していたのでしょう。
そもそも「アニメーション(Animation)」の語源は、ラテン語で「霊魂」を意味する「Anima(アニマ)」に由来しており、生命のない動かないものに命を与えるという意味があると言われています。
米国がつくるディズニーの世界観は、人々に「広く、浅く」刺さりますが、日本のアニメはディズニーとは対極の立ち位置で「狭く、深く」刺さるのが一つの特徴です。
予算感を見ても、世界的に大ヒットとなった「アナと雪の女王2」の制作費は160億円とも言われますが、「千と千尋の神隠し」の制作費は20億超だと言われており、かかるお金もディズニーと日本のアニメでは大きく違います。
恐らく、日本のソフトパワーはウルトラニッチ、グローバルニッチと呼ばれるユーザーの心を掴んでいるのでしょう。
日本のアニメや漫画のコンテンツは、各国それぞれ人気作品が異なり、それぞれのファンがいるのが特徴です。
一昔前であれば、世界中の多くの人は、テレビや映画の世界で見るアメリカ文化に憧れ、ニューヨークやロサンゼルスに行って、それを実際に感じてみたいと思ったことでしょう。
現在では、一昔前のアメリカ文化のように、アニメや漫画などの日本文化に憧れを持ち、日本を訪れる人達が増えています。
漫画の中で見た満員電車やコンビニなど、日本人の私たちにとっては当たり前のことであっても、海外の人たちにとっては一つの憧れなのでしょう。
缶バッジとオタク文化は切っても切れない関係にあります。少数単位で個性を表現できるため「ウルトラ・ニッチ」と呼ばれる日本のオタク文化と非常に相性が良いのです。
現在、円安で日本人が海外に行きにくくなっていますが、少し見方を変えれば、海外の人達が日本を訪れやすくなっており、直接日本文化に触れる外国人が増えることで、より日本文化が海外に広がっていくことになるでしょう。
これからの時代は1億総クリエイター社会とも言われ、缶バッジなどの様々なツールを通じて、「ウルトラ・ニッチ」のコンテンツを表現するのが当たり前の世界になっていきます。
21世紀は日本のソフトパワーを輸出する時代になっていくのでしょう。