どれだけ一時的に贅沢な体験をしても、日々の日常レベルの生活が良くなっていかなければ、人生の質は上がっていきません。

何十万円もするブランド物の服をTシャツ代わりに着たり、ホテルのスイートルームをビジネスホテル感覚で使えるレベルになって初めて、本当の贅沢の価値が分かるのだと言います。

そういった意味では、一般人が日々の日常のクオリティーを上げていくためには、年に数回の一時的な贅沢を求めるのではなく、もっと日常的に実行できる小さなことから始めていかなければなりません。

今年の夏、兵庫陶芸美術館では、19〜20世紀にかけてコーヒー文化の中で浸透していたデミタス(エスプレッソを飲むときなどに使用する小容量のカップ)の様々なデザインを展示する特別展が行われました。

この展覧会では、展示作品の写真が描かれた缶バッジが人気なのだと言います。

展示中のデミタスカップの中から選んだ20種の画像をもとにつくられた缶バッジのガチャガチャが設置され、子供からお年寄りまで様々な人に楽しまれています。

ある調査によれば、健康レベルが「普通」から「ちょっといい」に改善された時の幸福度は、年収が上がった時の幸福度よりも高いものになるのだという。

そういった意味では、年に数回贅沢をし、それをSNSで自慢するよりも、毎日使っている食器を少し良いものにする、毎日食べる食事に少し工夫を加える、毎日に笑う回数を一回でも多くするなどといったことに日々のリソースを使った方が、確実に人生の幸福度は上がっていくことでしょう。

私たちは、毎日何を食べる、誰と会う、どんな服を着るなどと言ったように様々な選択をしますが、そういった小さな選択が積み重なることで、人生の質が決まっていきます。

確かに、おしゃれなデザインの食器や家具、もしくは質の高い調理道具などは少し値段が張ります。

でも、次の5年間、毎日の食事が5%分楽しくなるのであれば、少しくらい高い食器や家具はリターンの高い投資だと言えるでしょう。

5年後に良い食器を購入しても、日々の日常から生まれる5%分の幸福度を取り戻すことはできないのです。

どれだけお金を貯めて、健康に気をつけても、最後に残るのは「思い出」だけ


多くの人は、若い時は、頑張って様々な節約をし、ある程度の歳になってから少し贅沢をして人生を楽しもうと考えます。

もちろん、その考えも正しいと言えるかもしれませんが、「若さ」とは日々確実に減っていくリソースであることを忘れてはいけません。

例えば、20代の海外旅行から得られる体験と、60代の海外旅行から得る体験では、得られるものが全然違ってくることでしょう。

米国でコンサルティング会社を経営するビル・パーキンスは著書「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」の中で、人生で一番大切なことは思い出づくりで、結局、人生の最後に残るのは、思い出だけなのだと言います。

若い時に、思い出づくりに投資をすれば、人生を通じて、その思い出を思い出すたびに、配当を得ることができます。

そういった意味では、むしろ、若い時は、将来のために楽しいことを後回しにするのではなく、少しくらい借金をしてでも、楽しい思い出に投資すべきなのでしょう。

過去100年の間、平均寿命が比較的長い国では、10年間で2〜3年という驚異的なペースで寿命が伸び続けている。しかし、どれだけ寿命の「量」が伸びても、寿命の「質」が上がっていかなければ意味がないのです。

思い出の配当を多くするという意味では、お金の価値を最大化できるのは、30代後半くらいまでがピークなのだと言えるのかもしれません。

幸福度のアップに一番効果的なのは、まずは自分の一番身近なものを上質なものに変えてみることです。

結局、一流のモノを買った方が、長く使うことになるため、結果的にお金を節約することにもつながります。

コーヒーカップ、食器、普段身につけている服を少し上質なモノにし、次に旅行や美味しい食事など、等しく消えてしまうものに惜しみなくお金を使うことが、思い出の配当を最大化させるセンスの良いお金の使い方なのでしょう。

お金持ちは何でも買えてしまうため、お金の使い方のセンスが悪い人が多いのです。手持ちのお金が限られているからこそ、何が自分や自分の周りの幸福度に繋がるのかを必死で考えるようになります。

恐らく、多くの人がデミタスカップの特別展を訪れ、デミタスカップがデザインされた缶バッジを持ち帰っているということは、多くの人が無意識のうちに、身近なものを上質なものに変えることが幸福度をアップさせるということに気づいているのでしょう。

手持ちのお金が限られているからこそ、使い方を真剣に考える。

資産運用の世界では、20代の1000万円は1億円以上の価値があるのだと言われます。つまりは、1000万円を5%で50年運用すれば、1億円以上の価値を生み出すという意味ですが、これは思い出の配当という意味でも全く同じことが言えるのでしょう。

20代の時につくる思い出は、70代の時につくる思い出と比べて10倍以上の価値があると言えるのです。

これからは、お金を稼ぐ量ではなく、お金の使い方にセンスが求められる時代になっていくのでしょう。

身の回りのものを全部上質なものにするのは難しいかもしれませんが、まずは上質なものが描かれた缶バッジを身につけることで、自分の潜在意識を変化させていくことが大切なのかもしれません。