多くの人は、身体に良いものを食べ、定期的にしっかり運動をすれば、健康的に長生きできると考えてしまいがちです。

現代では、健康の分野は大きなビジネス市場の一つであり、食品産業やスポーツ産業は、身体の健康管理さえすれば、健康で長生きできるというマーケティングを積極的に行っています。

しかし、病気を治すのではなく、病気にならないためにはどうしたら良いという観点で考える「予防医学」の研究によれば、健康に一番大きな影響を与えるのは、食事や運動ではなく、どれだけしっかりとした人間関係を構築しているかという部分なのだと言う。

良い健康のためには、運動よりも良い人間関係。

もともと、スポーツは遊びから始まり、楽しいからこそスポーツを続けていたものが、日本ではいつの間にか勝つことに目標が切り替わってしまい、スポーツを心から楽しめない人たちが増えています。

ドイツでは、日本で言うNPOのような組織が様々なスポーツ活動を行っており、スポーツが人々を繋げる様々なキッカケをつくっている。

最近では、サッカーチームや野球チームなど、スポーツチームの缶バッジをつくる人たちが増えていますが、自身の好きなチームの缶バッジを身につけるということは、人間同士の間に見えない繋がりを生み出します。

自分があるスポーツチームのファンであることを周りにアピールするために、派手なユニホームを着たり、チームの帽子をかぶったりする必要はありません。

楽しむべきはずのスポーツが、いつの間にか競争に変わっている。

カップルでも付き合いはじめた頃は、ペアルックなどの分かりやすいものをお互い身につけますが、関係が安定してくると、小さくあまり目立たない同じアクセサリーなどを見つけるようになります。

恐らく、これはスポーツチームなどでも同じことで、缶バッジなどの小さなアクセサリーをつけて小さくアピールする方が、本当の意味で、長期にわたって強い繋がりを維持できるのでしょう。

もしかすると、スポーツは勝ち負けにこだわったり、一人でストイックに取り組んで身体を鍛えるものだけと捉えるのは非常に勿体無いことなのかもしれません。

スポーツを人間を繋げるための一つのツールと考えることで、人間はもっと健康になっていくのではないでしょうか。

きつい運動を一人で行うよりも、ライトな運動を誰かと一緒に行うことが大切。


カンザス大学のジェフリー・ホール教授の調査によれば、カジュアルな人間関係を構築するためには、約40〜60時間一緒に過ごす必要があり、比較的近い人間関係を構築するのは、80〜100時間、そして、親友をつくるためには、200時間以上が必要なのだと言います。

運動するにしても、ただランニングマシーンの上で走るのではなく、誰かと一緒に走ったり、ランニングをして誰かに会いに行ったりすることが、本当の意味での健康寿命を作り出していくのでしょう。

よく同じ困難を一緒に乗り越えた人とは、友人関係が長く続くと言われます。

学生時代を振り返ってみても、同じクラスだった友人よりも、同じ部活であった友人の方が関係が長く続いていますし、何より戦争を共に戦った人たちの関係は、恐らく生涯途切れることはないのでしょう。

走ることではなく、「一緒に」走ることが本当の健康を作り出す。

よくビジネスマンはお互いの人間関係を深めるためにゴルフを一緒にします。

しかし、最近は、ビジネスマンの間でも、一緒にフルマラソンを走ったり、登山をすることで、お互いの関係をより深めようとする人たちが増えている。

SNSやZOOMなどのデジタルツールが普及したことで、人間関係の量は一気に広がりましたが、逆に深い人間関係がどんどん少なくなってきてしまっています。

SNSを長く使っている人ほど、幸福度が低いという調査は様々なところから出ていますが、恐らく、これからの時代は、対面でしっかり話したい人、SNSやZOOMだけの関係で大丈夫な人、常に一緒に時間を過ごしていたい人を明確に選別するようになっていくのでしょう。

100歳以上の長寿の人たちが多く集まる「ブルーゾーン」と呼ばれる地域を調査したリサーチによれば、健康的なライフスタイルを持続的に続けていくためには、自分一人の力だけではなく、周りを巻き込んだエコシステムを作り上げていかなければならないのだと言います。

周りを巻き込んだ健康のエコシステムを作り上げていく。

きつく身体に負担をかける運動よりも、ライトな運動を誰か一緒に行う方が、健康寿命を伸ばすという意味では、効果的なのだと言えます。

友人と毎週一緒に食事をするのは少し変かもしれませんが、週に一回、一緒にランニングするということであれば、お互い対面で会う立派な理由をつくることができます。

日々、誰かと一緒に運動する習慣ができれば、次第に地域のスポーツチームとの間にも縁が生まれてくることでしょう。

一人一人が、誰かと一緒に少しずつ運動を始め、地域のスポーツチームとも繋がって、スポーツチームの缶バッジを身につけることで、自分の存在を周りにアピールするようになれば、自然と自分の周りに良いスポーツのエコシステムができていきます。

缶バッジのような小さなアピールが地域のエコシステムを作り出していく。

近年では、「プライバシー」という言葉に多くの人が敏感になっています。

ギリシャ語にはこの「プライバシー」を表す言葉が存在せず、みんながみんなのことを知っているということが、強い繋がりや安心感を生み出しているのだと言います。

最近では、遺伝子調査や様々なヘルステックなど、どんどん新しい健康のノウハウが出てきていますが、どれだけ自身のDNAを調べても、本当の意味での健康の秘訣は解明できないことでしょう。

寿命は友達の数で決まると言われる通り、スポーツは一人で追い込みながらするものではなく、人間関係を作り出すために誰かと一緒に行うことによって、本当の効果を表していくのです。