これまでは、子どもたちが参加する地域の災害への取り組みとして、子どもたちが描く防災ポスターが一般的でした。
その優れた作品が街に飾られたりもしている一方で、子どもたち自身が取り組みを代表して自らデザインして身につける、防災缶バッジの活用も広まっています。
子どもたちがデザインした「キッズ防災士」認定缶バッジ
2018年の西日本豪雨災害によって、広島県で151人という多くの人が犠牲となったのはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。
被害の大きかった坂町小屋浦地区では被災後、人々に元気がないのを感じた子どもたちが、地域のみんなの笑顔を守ろうと自ら動き出したそうです。
子どもたちは、防災の知識を得て命を守るため、あの恐ろしい災害に関する勉強に真剣に向き合いました。専門家に話を聞いて、土石流が発生するメカニズムを理解し、ハザードマップを作るなど、自分たちが主導となって地域に根ざした役立つ災害の知識・対策をみんなと共有しようと前向きに発信し始めたのです。
こうした子どもたちのアイデアは、認定書と記念バッジを授けられる「小屋浦キッズ防災士」という地域の小学校の取り組みへと発展しています。
「小屋浦キッズ防災士」の缶バッジのデザインは、地域の小学校の4年生の生徒13人が、思いをひとつにしようと全員のアイデアを一つのデザインに組み込んだものだそうです。
4年生を受け持っていた担任の先生は、子どもたちに災害のことを思い出させていいのかと悩んだそうですが、この地域の取り組みは2020年、全国の学校や学生団体の優れた防災教育を顕彰する「ぼうさい甲子園」で、小学生部門の「ぼうさい大賞」に選ばれることになりました。
少し前の調査になりますが、2013年にスイスの再保険会社スイス・リー(Swiss Re)が発表した「自然災害で最も危険な都市ランキング」でも、日本の「東京・横浜」が1位、「大阪・神戸」が4位、「名古屋」が6位と、私たちの暮らす国はトップ10に3都市もランクする災害大国だと知らしめられました。
このランキングは、世界616都市を対象に調査されたもので、地震、暴風雨、高潮、津波、洪水という、5つのカテゴリーで被災する可能性のある人の数を推計したものだそうです。
子どもたちが犠牲にならないよう、そして主体的に地域を守る意識が育つよう、子どもたちが自分も一人の立派な「防災士」なのだと胸を張れる缶バッジの活用が、ますます広まることを願います。
いじめをなくして、命を守る缶バッジ
缶バッジを身につけて自ら地域の問題に挑む子どもたちの取り組みは、災害対策にとどまりません。深刻化するいじめの問題にも自作の缶バッジで取り組む地域が出てきています。
鳥取県では、生徒自身がいじめを防止するための缶バッジデザインを考える「あったかい風をみんなで吹かそう缶バッジデザインコンクール」が県内の児童生徒を対象に、今年も開催されました。
子どもたちがデザインを考えて終わりではなく、自分たちの生み出したデザインを缶バッジにして身につけることができるよう、部品や缶バッジマシンも無料で借りられるようになっているのだそうです。
こちらの缶バッジコンクールは、小学校の児童から高校の生徒まで、みんなが安心して過ごせる場をつくろうという思いを込めた缶バッジのデザインをつくるもので、表現すべきものなどの制限は特にありません。
年によっては、デザインの応募数は2000以上に上ることもあり、泣き顔のデザインがある一方で、ひまわりのようなデザインもあり、子どもたちのそれぞれの思いが丸い缶バッジの枠内に込められています。
コロナ禍で授業がオンラインや休校などになる前の2019年、全国の小中高校などでいじめを認知した学校は、全体の82・6%に及んだそうです。
いじめに関しては昨今、デジタルタトゥーというように、狭い人間関係に止まらないデジタル時代のいじめの怖さがクローズアップされています。
SNSを用いたいじめは、友達をいじめることに止まらず、自分に対する悪い書き込みをしたりして自分をいじめる「デジタル自傷」にも及び、アメリカでおよそ5000人の中高生を対象に行われたリサーチでは、最大約9%が「デジタル自傷」を行っていることがわかり、これらの子どもたちは実際に自殺してしまう可能性も高いという結果になったということです。
こうした状況も踏まえ、今の時代、加害者がどこの誰であれ、いじめを見つけた際には見て見ぬ振りをしないこと、そしてそれ以前に親切な気持ちを持つことが大切であると示唆されています。
あったかい気持ちでいじめを無くそうとデザインした子どもたち自作の缶バッジは、子どもたちが友達だけでなく、自分を守る一歩になることに違いありません。
地域の一員として、子どもの主体性を育てる缶バッジ
従来の防災ポスターのように、子どもたちが自分や友達、地域のみんなを守るにはどうしたらいいかと考えて表現する場を増やしていくのに、缶バッジは一つの有効な手段です。
直径数センチの小さなキャンバスは小さな子どもから忙しい中高生までが取り組みやすく、缶バッジはさらにそれを身につけて、一人一人がその取り組みの代表となって行動を起こすことも助けます。
子どもたちが自分たちで安心して暮らせるまちをつくろうという主体性を育てる活動に、缶バッジはますます役立てられていくことでしょう。
参考資料
■ ぼうさい甲子園事務局取材「坂町立小屋浦小学校」2020年、令和2年度ぼうさい甲子園特設サイト
■ Swiss Re「Mind the risk: A global ranking of cities under threat from natural disasters」2014年
■ Justin W. Patchin,Sameer Hinduja,Ryan C. Meldrum「Digital self-harm and suicidality among adolescents」2022年、Association for Child and Adolescent Mental Health