子供、大人に関わらず、多くの人が読書の大切さを理解していますが、読書を習慣化させることは簡単なことではありません。

人間が人生の中で経験できることは限られており、自分の経験を唯一飛び越えられるものが読書なのだとすれば、読書を特別なものとは考えず、食事をするように本を読む人と、本を全く読まない人では、大きな差が出てくるのは間違いないでしょう。

最近では、読書時間がゼロという大学生が遂に過半数を超えたという調査もあります。

確かに本で文章を読まなくなった分、ネットで文章を読む量は圧倒的に増えたのかもしれません。

しかし、教育学者で明治大学文学部教授でもある齋藤孝さんは、ネットで文章を読む時、私たちは「読者」ではなく「消費者」になるのだと言います。

ネットの文章はこちら側が主導権を握っていて、面白いものにどんどん流されていってしまうため、浅い情報ばかりが集まって、深い知識が身につかないのです。

テレビやネットは、電源さえ入れれば向こうからどんどん情報がもらえますが、読書は自分で努力し、内容を噛み砕いて理解しようとしなければ、知識になっていきません。

北海道の十勝地方にある池田町立図書館では、毎年読書を促進するための「読書マラソン」が行われており、本をたくさん借りて読むと、「金メダルチョコ」と手作り缶バッジを貰うことができます。

すぐに役に立つものは、すぐに役に立たなくなると言われる通り、読書はすぐに役に立つものではありませんから、読書を習慣づけるための試作のようなものが必要でしょう。

少し前に、イギリスのフィットネスクラブが週に決められた回数通うことができたら、毎月の支払いが無料になるというキャンペーンを行いましたが、読書にしても、運動にしても、一定の習慣が身に付くまでは、モチベーションを維持するための様々な工夫が必要です。

会社、学校、もしくは家庭内など、社員、生徒、子供がもっと読書をしてくれたらなと思う人たちは多いことでしょう。

賞状やメダルなどもそうですが、人間は意外と単純で何か物理的に残るものを貰えるとモチベーションが上がっていきます。

中々、習慣が身につかない人たちにとっては、色々な面白い缶バッジをつくってモチベーションを上げるのも、習慣を身につける一つの方法なのかもしれません。

読書は一定の量を超えると、一気に知識が増えていく。


読書に関して、ある面白い調査があります。1810年から1850年の間にアメリカでは、創造的で目標を達成する子供向けの物語がそれ以前の40年間と比べて66%も増加したのだと言います。

すると、次の1850年から1890年の間に商業における特許査定が7倍に広がっていきました。

つまり、創造的な物語を7倍読んだ世代は、7倍多くの発明をしたということになります。

また、エジンバラ国際ブックフェスティバルと英国ガーディアン紙が共同で行った調査によれば、413人の回答者のうち7人に1人が、読書中は登場人物の誰かがまるで部屋にいるような鮮明な声が聞こえたと述べ、さらに5人に1人が本を離れても、その本のキャラクターが自分の中に実在する感覚を持ったことがあると述べています。

こういった体験をネット文章から得ることは難しいでしょう。

物語を読むことで、文章を映像化する力、目に見えないものを感じ取る力が付きます。

クリエイティブな力というのは、クリエイティブな人のモノマネをしていれば良いというわけではなく、ある意味、読書のような退屈と思えることを乗り越えて初めて身に付くものです。

ある意味、退屈を乗り越えるための一つのモチベーションが池田町立図書館が行っている金メダルチョコや手作り缶バッジなのかもしれませんが、読書を勉強と捉えるのではなく、スポーツのような身体的な行為と考え、自分を鍛えるというイメージを持った方が持続しやすいのかもしれません。

読書は一定の量を超えると、一気に知識が増えていきます。知識がさらに知識を呼び、専門知識がさらに新しい専門知識を読んで、成功が成功を呼ぶという感じで、どんどん良い循環に入っていくのです。

また、読書は孤独な作業だと思われがちですが、読書をすればするほど、コミュニケーション能力が上がり、会話がどんどん上手くなっていくのです。

実際、私たちは他人の話の7割を聞き逃し、3割を誤解しているとも言われますが、読書を通じて読解力を上げることで、人の話を順を追って理解し、要点を押さえて、相手とコミュニケーションが取れるようになっていきます。

経営学者の楠木建さんは、読書とは人生経験豊富な人とありえない価格で対話できるという意味で次のように述べています。

「僕に言わせれば、読書というのは、女好きの人が世界の大女優と取っ替え引っ替えデートするようなものだ。それを現実にやったら 10 億円はかかる(消費税別、推定)。」

「ところが、本だとたったの100円。 超絶的コストパフォーマンス。もはや奇跡としか言いようがない。」

全く運動する習慣がない人が、運動するモチベーションを維持するのが難しいのと同じように、読書習慣がない人が持続的な読書習慣を身につけることは簡単なことではありません。


特に、子供の頃に自然と身につけた習慣は、大人になっても持続する可能性が高いことを考えれば、缶バッジのような物理的に残る勲章のようなもので、モチベーションを維持するのも一つの方法と言えるでしょう。

どれだけお金をかけても、身につかない習慣は身につきませんが、簡単なアイディアひとつで身に付いてしまう可能性があることも忘れてはいけません。