人間の幸福は、お金、健康、そして、人間関係のバランスで成り立っているのだと言われます。

目標を決めて、一生懸命働き、定期的にジムに通って、食生活に気をつければ、人並みのお金と健康は手に入ることでしょう。

しかし、人間関係に関しては、他人が関わることであり、どれだけ成功の方程式通りに進めようと思っても、他人の感情を自分の思い通りにコントロールすることなどできません。

ハーバード大学メディカルスクールが80年間にも渡り、268人の男性を対象に行った調査では、幸福に直結する一番大切なことは、他人との人間関係であることが分かりました。

つまり、人生でしなければならない一番大切な仕事は、他人との思い出づくりなのでしょう。

多くの人は、年を取って、仕事を引退してからゆっくり家族や気の合う仲間と旅行などを楽しんで思い出をたくさん作りたいと思っているかもしれません。

でも、20代と60代では健康状態や行動力は全然違いますし、60代になって、急に何でも話せる親友をつくることはできないのです。

若い時にたくさんの思い出をつくれば、その瞬間だけではなく、

その思い出を振り返ったり、友人と一緒に話したりすることで、株式のように、常に思い出から配当を得ることができます。

最近では、様々なイベント事、鉄道会社、観光地などが缶バッジを作成していますが、缶バッジは楽しかった思い出を振り返る一つのツールになっていくことでしょう。

スマホで写真を撮ることが当たり前となった現代では、たくさん写真を撮っても、プリントアウトしてアルバムにする習慣がないため、実際に撮った写真を見る機会が減ってきています。

缶バッジは物理的に存在し、それを家のどこかに置いたり、身につけたりして、常に目に入る場所に置いておくことで、見るたび過去の思い出にアクセスし、そこから配当を得ることができるのです。

缶バッジで濃度の高い時間をしっかり形として残す。


お金は快適な人生を送る上で、なくてはならないものですが、お金の価値を最大化し、お金から最も高いリターンを生み出すことができるのは、30代、遅くても40代の前半ぐらいまでなのでしょう。

例えば、仲の良い友人とヨーロッパにバックパックの旅に出て、ドミトリーに泊まったり、夜行列車で移動したりする楽しみは、30代後半になってからではもう味わうことはできません。

ハーバード大学の心理学者、ダニエル・ギルバートの調査によれば、現在好きなバンドを10年後に見るために支払う金額は、10年前に好きだったバンドをいま見るために支払う金額よりも、平均して61%も高いのだと言います。

そういった意味では、思い出をつくるための一番のリソースは「若さ」であり、若さというリソースは日々確実に減っていくのです。

元お笑いタレントの島田紳助さんは、まだ全然売れていない若手の芸人に向けたある公演の中で、次のように述べました。

「神様が 、『今 、 お前に夢と若さと売ったるで』と言うんだったら、僕は10億払う。ということは、みんなは、今、10億円の価値を持っているということなんです。」

また、お金では日々生きる意味の価値を測りきれないという例えで次のような表現もあります。

もし、誰かがあなたに「10億円差し上げます」と言ったら、普通の人は「ありがとう!」と言って受け取ることでしょう。しかし、「10億円を受け取ったら、あなたは明日死んでしまいます。」と言われたら、当然、ほとんどの人はお金を受け取ることを拒否します。

つまり、あなたが明日を生きる価値というのは、少なくとも10億円以上の価値があるということなのです。

SNSやLINEのやり取りだけで繋がっている人が果たして本当の友達なのでしょうか?

カンザス大学のジェフリー・ホール教授の調査によれば、カジュアルな友人関係をつくるには、約40〜60時間一緒に過ごす必要があり、近い友達になるためには80〜100時間、そして、親友になるためには、200時間以上の時間を一緒に過ごす必要があるのだと言います。

本当の意味での人間関係とは、一緒にどこかに行ったり、人生の苦境を一緒に乗り越えるなど、同じ場を共有し、五感を通じたコミュニケーションを通してでなければ、生み出すことはできません。

ジャパネットたかたの創業者である高田明さんが、まだカメラ屋として独立したばかりの頃、撮った写真をたくさん買ってくれたのは、戦争を共に戦った戦友同士の方だったのだと言います。

きっと、日常的に写真を撮る習慣がなかった時代の人たちは、濃度の高い時間を何とかして形に残そうとしていたのでしょう。

イベントで一緒につくったり、旅行先で手にいれる缶バッジも、濃度の高い時間をしっかりとした形に残すための重要なツールになっていくのかもしれません。

旅行先で一緒に缶バッジをつくれば、さらに時間の濃度は上がりますし、楽しい時間が過ぎ去っても、缶バッジを毎回見るたびに、思い出の配当を得ることができます。

若い時は将来のためにお金をしっかりと貯めておくことが大切だと言われますが、思い出の配当を最大化させるという意味では、若い時はむしろお金を借りてでも、気の合う仲間と思い出をつくる努力をするくらいの気持ちで良いのかもしれません。


現代では、人間関係も思い出を残すためのコンテンツもデジタルに頼りすぎてしまっています。

SNSやテクノロジーは便利ですが、これらが無くては、もう人間関係が成立しない状態になってしまっているのであれば、もう私たちはテクノロジーを使っているのではなく、テクノロジーに「使われて」しまっているのでしょう。

写真にしても、思い出を残すつもりでたくさん撮っても、スマホの大量のデータの中に埋もれてしまって、写真を見る機会がなければ、思い出の配当は受け取れないのです。

そういった意味では、缶バッジと思い出は非常に相性の良いものなのかもしれません。

人生で一番大切な仕事とは、思い出を残すことなのでしょう。

結局最後に残るのは、人間関係を通じた思い出だけなのですから。