空を覆っていた分厚い霧が晴れるように、2年以上にわたる巣篭もり生活から視界が開け、久しぶりの遠出やイベントに多くの人々が期待を膨らませています。

例えば、今年グッドデザイン賞を受賞した格安航空会社の Peach  の行き先を選べない「押売り旅くじ」も、開催が告知されるたびに多くの人が列をなすそうです。

「押売り旅くじ」は、Peach の社員が持ち運び用のガチャガチャ「旅くじ特別マシン」を背負い、並んだ人々が一人一人ガチャガチャを回してその中からどんな “行き先” が飛び出すのかと、まるでおみくじのようにして楽しむものです。

巣篭もりの反動が本格的に動き出す。

旅くじに何が書かれているのかというと、韓国もしくは日本全国北海道から沖縄までの行き先と、その行き先への航空券購入に使える「ピーチポイント」の交換コード、旅先での「ミッション」といった内容です。それが、ガチャガチャの気分を盛り上げる Peach オリジナル缶バッジとともにカプセルに収められています。

ピーチオリジナル缶バッチのデザインは数種類あり、コンプリートを目指して並ぶリピーターも出てきているそうです。

寺社のおみくじでもマスコットが入ったおみくじを見かけることが増えたように思いますが、人気の旅くじにおいてもきっと、カプセルの中から出てくるのが紙の案内だけではもの寂しく感じるでしょう。

コロナで急速に進んだデジタル化の反動もあってか、クーポンとともに缶バッジが飛び出す旅くじのように、缶バッジがアナログな観光マーケティングツールとして用いられて人々に喜ばれる機会が着実に増えているようです。

電車と相性のいい缶バッジが、スケールアップ


旅といえば電車の人気も根強く、今年は鉄道会社と缶バッジを掛け合わせた観光イベントの話題もよく目にするようになりました。

三浦半島の海岸線を走る京浜急行電鉄は、さかなくんをモデルにした今年話題の映画『さかなのこ』や「八景島シーパラダイス」に絡めて、“海について考える”ことをテーマとしたイベントを開催し、夏休みの子供から大人まで広く楽しまれたようです。

その名も「京急ギョギョギョッフェア」では、さかなくんの頭に乗っているお馴染みのはこふぐをヘッドマークにしたラッピング車両が用意され、さかなくんの構内アナウンスも聞けるようになっていました。

長い休みには、忘れられない電車の旅を。缶バッジと電車は相性がいい。

本マグロなど豪華景品が狙えるクイズラリーのほか、「京急全線1日フリーパス」「京急線・京急バス1日フリーパス」「横浜・八景島シーパラきっぷ」のいずれかを購入した人に先着で、さかなくんや京急のキャラクターが描かれたオリジナル缶バッジがプレゼントされたそうです。

久しぶりのお出かけを、駅で、電車で、八景島シーパラダイスで、と心ゆくまで満喫することのできる企画になっており、SNSでは帰宅後のイベント参加者から喜びの感想が、オリジナル缶バッジの写真とともにアップされていました。

また、秋を迎えた京都では、京福電鉄嵐山線(通称「嵐電(らんでん)」)が今年10周年を迎えた大人気キャラクター「すみっコぐらし」にジャックされ、東映太秦映画村で『すみっコぐらし えいがむら かくれんぼ』というイベントが開催されているそうです。

アナログな缶バッジを通じて、思い出が記憶に刻まれる。

このイベントは、立体化して東映太秦映画村の町にかくれんぼしている「すみっコぐらし」のキャラクターたちを見つけてキーワードを集め、 “秘密のコトバ” を完成させることができたら限定ドデカ缶バッジがもらえるというものです。

お気に入りのキャラクターの路面電車に乗って、キャラクターとかくれんぼをし、イベント限定キャラクター缶バッジをゲットする…アナログな体験が盛りだくさんにデザインされた企画です。

これまでも各鉄道事業者が、それぞれに工夫を凝らした缶バッジを制作し、物販やイベントに活用してきましたが、そうした文化が根付いたことで、さらにスケールアップしたプロモーションに缶バッジが用いられ、観光気分を盛り上げる大きな役割を担うまでに発展しています。

コロナによって定着した「自県旅行」と缶バッジ


昨年11月に発表された EY Japan の調査によると、コロナ禍においては他県へ移動するのを控える行動から自県旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」が目立って見られたそうです。

ここ最近は、外国人観光客の受け入れが始まり、円安という状況も伴って、インバウンド需要の急回復を目指す動きもあります。

それでも、コロナ禍以前よりも国内、そして県内を意識した、地域の子供から大人までが楽しめるような缶バッジ・イベントが盛んに企画されるようになったことには、コロナ禍で育まれた県内回帰の風潮が背景にあるのかもしれません。

わざわざ遠くに行かなくても、行くべき場所は近くにたくさんある。

一度出かけてみたら、知らないうちに溜まっていたものが堰を切ったように弾け、自粛していた時間を取り戻すようにして人々がアナログな体験へと繰り出しています。

コロナ禍の暮らしで、ネットがあれば完結するエンターテインメントによって救われてきた一方で、実際に体を使って飛行機や鉄道に乗るところから目的地まで移動し、缶バッジを手に入れて持ち帰る体験は、デジタル化によって一層価値が増したようにも思うのです。

コロナが収束に向かう中、旅の始まりから終わりまで、アナログな過程を楽しむための最適アイテムとして、缶バッジが多くの人の手に渡っていくことを願っています。


参考資料:
■ EY Japan ニュースリリース「コロナ禍で変化した観光客の行動と今後のツーリズムに関する分析結果を発表」2022年11月2日 https://www.ey.com/ja_jp/news/2022/11/ey-japan-news-release-2022-11-02