現在の和食ファストフード業界の生みの親とも言われ、大手牛丼チェーンの一つとして親しまれ続けている牛丼の老舗、吉野家。
そんな吉野家の大きな特徴の一つは、券売機を設置せずに、注文や会計を人の手で行っているという点です。
注文や会計時間の短縮、そして金銭に触らないことによる衛生面の向上など、券売機がもたらすメリットは多岐に及びますが、それを踏まえた上でも吉野家が券売機を設置しないことにこだわる理由とは、一体どのようなものなのでしょうか。
一見すると不思議にも思える吉野家の取り組みを紐解くことで、缶バッジにも応用できるポイントを見出すことができるかもしれません。



その他の和食チェーンと異なり、券売機を設置しないことにこだわり続けている吉野家。その取り組みを紐解くことで、缶バッジにも応用できるポイントを見出すことができるかもしれない。

吉野家が券売機を設置しないことにこだわり続ける理由は諸説ありますが、その一説としては、あえて非効率的なアナログな業務を残すことによって、お客さんとコミュニケーションを取れる接客の機会を作るためという理由があるようです。
例えば、券売機を使えば業務を簡略化することはできるものの、それは裏を返すと、お客さんに対して投げかける「注文は何にしますか?」という接客のタイミングを失うことになります。
さらに、お客さんは代金を券売機で前払いするため、食事をした後は黙って立ち去ることもできるでしょう。それは店員からすれば、お客さんに対して「ありがとうございました」とお礼を言うタイミングを逃してしまうことにも繋がるのです。

接客の機会を作るという工夫は一見、効率化を進める外食チェーンがやるべき事とは対極にあるものだと捉えられるかもしれません。しかし、こうした取り組みの背景には、一号店である築地の店舗で培った吉野家ならではの企業文化が関係していました。



注文時や会計時に、あえてアナログな業務を残している吉野家。缶バッジの特徴の一つもアナログな点だということを踏まえると、吉野家の取り組みと缶バッジには親和性があると考えることができるかもしれない。

築地店の開店当時、小さな店舗で売上げを拡大するために吉野家がとっていた戦略は、来客頻度主義。つまり、単価ではなく取引件数を増やすというもので、「うまい、やすい、はやい」というキャッチフレーズが有名なように、当時から吉野家は効率や回転率を突き詰めてきました。ただ、来客頻度を上げようとした吉野家が特徴的だったのは、効率化を進めて回転率を上げるだけではなく、何度もリピートしてくれるような常連客も増やしていこうと考えた点です。

そのためには、お客さんから見えない部分は徹底的に効率化を図る一方で、お客さんの目に入る接客などは丁寧に行わなければいけません。そこで、短い来店時間の中でもお客さんとのつながりを大切にするという、吉野家独自の接客の文化が発達していくようになりました。
その後、徐々に券売機を導入する飲食店が増えますが、もともと効率化を進めてきた吉野家の場合は、ただでさえ少なかった接客の機会がなくなると、来店者に対して素っ気ない印象を与えてしまう可能性があります。
そうした理由から、あえて注文や会計などはアナログのままにし、お客さんと接するタイミングを残すことによって、他社との差別化を図ったり、顧客満足度を高めていこうと考えたのです。



全ての業務を効率化するのではなく、短い来店時間の中でも接客の機会を大切にするという姿勢は、効率化を進めつつ常連の顧客を大切にしてきたからこそ生まれた、吉野家ならではの文化。

こうした吉野家の取り組みは缶バッジとの関連性が低いようにも思えますが、「部分的にアナログの良さを活用する」というポイントを抽出すれば、形を変えて缶バッジにも応用することができるのではないでしょうか。
例えば、既存の業務に缶バッジのアナログな側面をうまく組み合わせることで、顧客満足度を高めようとしている団体がすでに弊社のお客様の中にはいらっしゃいます。
その一例が、市原ぞうの国です。





毎日開催している「ぞうさんショー」の様子。市原ぞうの国には、現在13頭のゾウとその他100種類ほどの動物たちが暮らしており、それぞれのゾウには「りり香」や「結希」などと名前がつけられている。

もともと、ゾウの誕生記念品として缶バッジの導入を始めた市原ぞうの国は、その他の場面においても缶バッジを活用することができないか模索していました。

そこで始めたのが、開催しているイベントの参加券として、缶バッジをお渡しするという取り組みです。
難しいとされるゾウの繁殖に数件成功している市原ぞうの国では、年に一度、生まれたゾウたちと同じ誕生日の方や、氏名にゾウの名前と同じ文字が含まれている方を、無料で園内に招待するというイベントを行なっている日があります。
そのイベントに対象者に入園券として缶バッジを配布し、園内を歩くときに胸の辺りに付けてもらうことにしたのです。



ゾウがプリントされた缶バッジ。イベントの日には、同じ誕生日や同じ名前の文字を持つゾウの缶バッジが渡される。

缶バッジを作って配布することは、一見、通常の入園券を利用するより手間もコストもかかる非効率的な取り組みのように思えるかもしれません。

ですが、お話を伺った広報担当の佐々木さんによると、ひと工夫として始めた入園券の缶バッジが、今ではサービスの向上に役立ち始めているのだそうです。
というのも、胸につけている缶バッジは、ゾウと誕生日や名前の文字が一緒であるという目印になるため、「うちのリリカと同じ誕生日なんですか?」や「お名前のどの文字が一緒なんですか?」という風に自然と来園者と会話を始めることができます。
そして会話が進むと、「どうしてゾウは頭が良いんですか?」というように、逆にお客さんの方から質問してもらえることがあり、園内を歩いているだけでは知ってもらうことのできないような動物の話を、来園者に伝えることができるようになったのです。
そのような会話を通して来園者の疑問を解消することが、顧客満足度を高めることにつながり、動物のことを詳しく知ってもらうためにも有効なのだと佐々木さんは教えてくださいました。



市原ぞうの国、広報担当の佐々木さん。一見すると非効率に見える缶バッジの取り組みが、今では来園者の疑問を解消するような会話を生んだり、来園者に動物のことを伝えるための良いきっかけとなっていると教えてくださった。

今回は吉野家の事例から、アナログを部分的に活用することによって顧客満足度を高めるというポイントを紐解き、缶バッジを活用しながら類似した取り組みを行っている、市原ぞうの国での活用事例を取り上げました。
近年、人手不足などの影響によりサービスの効率化が叫ばれ、デジタル技術などの導入が著しいように感じますが、本来目指すべきなのはサービスの向上だという事は忘れられがちです。
その意味では、効率的な券売機のようなデジタル機器も、非効率的なアナログの取り組みもサービス向上の手段の一つでしかないため、効率化に偏るのではなく、広い視点を持ってデジタルとアナログを上手く使い分けていかなければいけないのでしょう。
その一助として、缶バッジにも目を向けていただけますと幸いです。