2018年1月にシアトルでオープンした、アマゾンが運営するレジなしコンビニ「Amazon Go」が、2019年8月時点で15店舗まで店舗数を拡大しています。

購入したい商品を手に取ったら、ゲートを通って店を出ていくだけでアプリで決済が完了するという、AIや画像センシングなどの技術を駆使した顧客サービスが、人気の一因となっているのだそうです。

しかし、物を売るという目的に限っていえば、実店舗よりもネット通販(EC)の方がコストもかからずターゲット層も広げることができるはずで、あえてアマゾンが実店舗を拡大しているのは不思議なことのように感じるかもしれません。

それでも店舗に力を入れている理由の一つには、売り上げを伸ばすことに加えて、購買行動などの顧客情報を集める、という目的があると言われています。



EC最大手であるアマゾンが実店舗を構える一つの理由は、リアルの場でないと得ることができない顧客の情報を集め、さらなるサービスの向上に繋げるということ。

アプリ上で決済が完了するのは、商品を棚から取ったり戻したりする顧客の行動がセンサーやカメラによって正確に追跡されているからですが、そこで得られる情報はアマゾンに蓄積されていくことになります。

そして、どのように店内を動き回るかということや、商品を選ぶ順番など、ECでは得ることができない顧客の情報を、さらなるサービスの改善やその他の事業などに活用することができるのです。

当たり前の話ではありますが、もともと実店舗といえば、「商品を売る」ということが一番重要な目的とされている場所でした。

しかし、ECで商品を売るためのプラットフォームを確立しているアマゾンの場合、店舗が持っていた「売り場」という役割は変化して、どちらかと言えば、顧客のことを知るためのメディアのような場所として実店舗を利用していると言うことができるかもしれません。



「Amazon Go」は、顧客のことを知るためのメディアのような場所と言うことができるかもしれない。

アマゾンとは対照的に、ブランドの認知力を上げ、顧客に企業のことを知ってもらうために店舗を利用しているのが、シューズブランドのTOMS(トムス)です。

もともとオンライン販売と卸売を柱に事業をスタートしたTOMSは、最初の実店舗を2012年にカリフォルニアのベニスビーチに構えました。

その店舗が特徴的だったのは、エスプレッソバーや、くつろぐことができるラウンジ、さらにはペット可の屋外スペースなども併設されていたということで、そこはお店というよりは、センスの良いたまり場のような場所だったのだと言います。

創業者のブレーク・マイコフスキーは当初、同僚などの様々な方面から、そのような店舗は上手くいくはずがないと批判されました。

それでも認知度が高まるに連れてお店も軌道に乗り、オープンしてから18ヶ月後には黒字化を達成。そして2019年9月時点において、アメリカ国内で9店舗にまで店舗数を拡大しているのです。



商品を売ることよりも、「くつろぐことができる空間」という顧客サービスに重点を置いているTOMSの実店舗は、お店というというよりは、センスの良いたまり場のような場所になっている。

Amazon GoやTOMSのように店舗の形が変化し始めているのは、ネット通販が普及したことによって、「何かを売るための場所」としての店舗が徐々に成り立ちにくくなってきているからなのでしょう。

むしろ今後さらにECの利用が拡大すると、売り場としての店舗の価値は相対的に下がっていくことが考えられるため、顧客のことを知ったり、顧客にブランドを認知してもらうための場所という、これまでとは違った役割を、実店舗などのリアルの場が担うようになっていくのかもしれません。

店舗が、顧客と企業をつなげるメディアのような場所に変わりつつある現在、缶バッジならではのアナログの力を、リアルの場で利用できる余地があるのかもしれない。

実は弊社のお客様の中にも、普段はネット通販を主として行いながら、もともと商品を売るための場所とされていた「物販ブース」を、顧客のことを知るためのメディアのような場として利用している企業様がいらっしゃいます。

それは、子ども用の文具や玩具、そして雑貨類の販売を行なっている、株式会社あぶらびです。





代表の田口智章さんによれば、地域のイベントに呼ばれる機会があり、物販ブースへの出店を繰り返すようになったものの、販売活動だけを行なっていてもメインの顧客層である子どもたちと接する機会があまり持てなかったのだと言います。



左手の男性が、株式会社あぶらび代表の田口智章さん。右手の女性は、似顔絵缶バッジでコラボをしているイラストレーター兼漫画家の長澤真緒理さん。

アマゾンの場合は「レジなしで買い物ができる顧客体験」、TOMSの場合は「くつろぐことができる空間」というような付加価値が顧客が店舗に足を運ぶ理由となっていたことに対して、田口さんのブースの場合、子どもたちに足を運んでもらうために工夫したのは、参加型のゲームを増やすということでした。

売り物の数は減って、缶バッジ体験や絵描き体験、子ども向けのゲームなどが徐々に加わるようになり、田口さんのブースは、何かを売るための場所から、子ども達とコミュニケーションを取るための場所に変化していくことになります。



ものを売る場所ではなく、子どもたちの遊び場のようになっている田口さんたちの物販ブース。

田口さんよれば、ブースへの出店は事業を行う上で欠かすことができないものになり始めているそうで、それは、通販事業だけを行なっていては知ることができない子どもたちの様子を、自分の目で確かめることができるからなのだと言います。

というのは、通販事業において商品の仕入れをする際、画像やレビューだけを参考にしても上手くいかないことがあるため、実際に子どもたちが身につけているバックや帽子などのキャラクター商品を見て、今流行っているものを知ることが一番役に立つのだそうです。

中でも特に「缶バッジ体験」のワークショップは、オリジナルの絵を描くところから制作までの作業時間が長く、交流も深まるため、そこで生まれる会話が事業を行う上でのヒントになることもあると田口さんは教えてくださいました。

その意味において缶バッジは、顧客との自然なコミュニケーションを引き起こすことに向いているツールだと言えるかもしれません。



絵を描くところから製作まである程度の時間がかかり、必然的に参加者との交流が深まる缶バッジ体験は、顧客のことを知るためのツールにぴったりだった。

今回のケースは、もともと何かを売るための場であった物販スペースが、顧客とのコミュニケーションを取る場所として活用されており、その中で事業者と顧客をつなぐツールとして缶バッジが活躍しているというものでした。

ネット通販事業を主として行なっている場合、顧客と対面する機会がなくても事業を進めていくことができますが、その中でもあえてリアルの場でコミュニケーションを図り、そこで得た学びを通販事業に還元するという取り組みには興味深いものがあります。

コミュニケーションツールにもなり得る、という缶バッジの特徴を活かした事例として、参考にしていただけると幸いです。