アニメのキャラクターなどを模した子供向けのキャラクターとは異なり、大人にしか理解できない「前衛弁当」というカテゴリがあります。
そこで取り扱われる題材は、ある程度年齢を重ねた大人であればクスッと笑える一昔前の映画や音楽のジャケット、あるいはアート作品などをモチーフにしており、現在、インスタグラムで多くの話題を集めています。
前衛弁当というカテゴリを自ら開拓し確立させていったのは、広島県広島市在住のデザイナー、松浦美喜さんです。
そんな松浦さんは前衛弁当作家としての活動の一部に缶バッジを活用しているそうで、今回はクリエイター目線で缶バッジについて語っていただきました。
バッジマンネット:
インスタグラムを拝見したところ1万3000人もの大勢のフォロワーの方々に支持されている様子が伺えました。ただ、よくあるキャラ弁とは何が違うのでしょう?
松浦:
具体的な定義があるわけではないのですが、前衛弁当とは要するに「大人のキャラ弁」みたいなものなのです。もともと趣味で主人に向けてキャラ弁を作っていたのですが、ある日インスタグラムで「松浦さんのお弁当は前衛的だね」とコメントされ、そこから前衛弁当作家を名乗り始めました。私が勝手に作った職業なので、他にはいらっしゃらないと思います(笑)
バッジマンネット:
大人のキャラ弁と言いますと、子供向けのものとどう違うのでしょうか?
松浦:
モチーフが違うんです。キャラ弁というのは一般的にキャラクターを模して作られるものですが、私は主人向けにキャラ弁を作ってきたので、主人が若い頃に触れてきた映画や音楽のジャケットや、アート作品のパロディなど、ある程度の年齢の大人が見たら思わず反応して面白がれるものを題材にしているんです。
バッジマンネット:
それは興味深いですね。インスタグラムには「アベノマスク」とか「ムンクのシャケび」といった題材のお弁当がありましたが、社会情勢に対する理解やある程度の教養がないとクスッと笑えないですよね(笑)
前衛弁当作家として活動される松浦さんですが、もともとデザイナーとして活躍されていたのですよね?お弁当を作り始めたキッカケは何だったのでしょうか?
松浦:
現在もデザイナーは続けているんですよ。昔から印刷物などのデザインを手掛けていまして、現在はデジタルでデザインすることも多いです。Macがない時代からやっているので、画面上で何か作るよりも手を動かすことが好きなんです。お弁当は生活の延長線上にあって、なおかつ仕事の延長として表現の場にもなると思いお弁当を作り始めました。
デザイナーという仕事柄、若い方と一緒に仕事をすることが多くて、お弁当のことを話したら、「インスタグラムって知ってます?やった方がいいですよ!」と勧められ、少しずつやり始めたら現在のような規模になったんです(笑)
バッジマンネット:
大きな話題を呼ぶインスタグラムですが、缶バッジはどのように活用されているのでしょうか?
松浦:
実はコロナの問題で広島市内で美術館の閉鎖が取り沙汰されるなど、アートに携わるものとして何かできないかと考えたのです。そうした中、ウッドワン美術館さんが「前衛弁当展」を開いてくださることになって、「※アマビエ」という妖怪を模したお弁当を作って、その写真を展示していただいたのです。(※SNSで話題になった疫病退散を謳う妖怪)
前衛弁当展は入場無料で撮影もOKというかなり自由な展覧会で、ご来場のお客様にはお弁当のデザインのポストカードをプレゼントしていたんです。その中に、お弁当のデザインのキーホルダーや缶バッジが欲しいというお客様も大勢いらして、だったら作ってみようと思い作ったんです。
バッジマンネット:
展覧会の記念品として缶バッジを希望される方が多かったのでしょうか?
松浦:
記念品という側面もあると思いますが、デザインが疫病退散の「アマビエ」だったので、お守り的な意味合いで欲しがる方が多かったのでしょうね(笑)実際、様々なデザインの缶バッジを作りましたが、アマビエの缶バッジが一番人気だったんです。
バッジマンネット:
松浦さんは展覧会以外にも屋外の似顔絵イベントなどで缶バッジを制作するなど、様々なシーンで缶バッジをご利用ですが、デザインーの視点から見ると、缶バッジの強みはどのように捉えますか?
松浦:
そもそも私が初めてプロ仕様缶バッジマシンの購入を検討したのは、似顔絵イベントで缶バッジを作りたかったからなんです。目の前で即興で似顔絵を書いて、それを缶バッジにしてお客様にプレゼントする。その場でワッと驚いてくださったり、喜んでくださる姿を自分の目で見ることができます。
客観的に見れば何てことないシーンかもしれませんが、我々クリエイターにとってユーザーの生の反応を目の前で見ることができることは大きな価値なんです。特にデザイナーという仕事は黒子に徹して作業するため、普段、ユーザーの喜ぶ顔や驚いた顔を直接見ることはできませんからね。缶バッジを通じて、改めて「ものを作る喜び」を再確認することができたことは大きかったと思います。
バッジマンネット:
確かに、クリエイターさんにとってユーザーの表情を生で見ることができることは、大きな糧になりますよね。デジタルでのものづくりが当たり前な時代において、缶バッジにはクリエイターさんに作り手としての再確認を促す力があるとは興味深いです。
ちなみに、松浦さんはお弁当の缶バッジを作る際、丸い缶バッジを使われていますよね?
松浦:
はい、お弁当の写真を丸くくり抜いて缶バッジの台紙として使っています。
バッジマンネット:
お弁当箱は四角形なので、四角い缶バッジをお弁当箱に模して使うとリアリティがでますし、お弁当のデザインを隅々まで表現できそうですよね。
松浦:
それはいいかも!四角形の缶バッジ…その発想はなかったです。面白いアイデアをありがとうございます!
バッジマンネット:
インスタグラムで反応の良かったものを中心に缶バッジにしていくことで、商品化も計画しやすいと思い、ご提案させていただきました。
松浦:
家事の延長であったお弁当作りとお弁当をかけ合わせたことで前衛弁当が生まれて、インスタグラムに載せたことで多くの方々に認知され展覧会の開催にまで至りました。缶バッジを活用することも含めて、想定外のことばかりで、今後どのように缶バッジを活用するか見当がつきませんが、新しい取り組みを行う際はご相談させていただきたいとお思います。
バッジマンネット:
もちろんです!お気軽にご相談くださいね。