出版業界では、「活字離れ」などの影響による出版不況に対応するため、現在多くの出版社で、これまでの出版の枠を超えた取り組みが行われています。
そうした状況の中、登山やアウトドアに関する書籍・雑誌を出版している 山と溪谷社 は、屋外でのイベントを主催するという戦略を行っています。
そこで缶バッジが活躍しているとのことで、今回は、山と溪谷社出版営業部の新田由里子さんにお話を伺わせていただきました。
リアルの場でのイベントは、読者とコミュニケーションを取るための一つの手段
山岳雑誌として著名な『山と溪谷』が昨年8月号で1000号を迎え、来年は創立90周年を迎える山と溪谷社。
長きにわたり雑誌や書籍の出版に取り組んできた山と溪谷社が時代に対応する手段として、書籍や雑誌のデジタル化やWEBの強化に取り組むほかに、リアルの場でのイベントにも力を入れようとした背景には、専門性や趣味性の高い出版社ならではの理由があったと新田さんは以下のように語ります。
「マスを対象としている媒体とは違って、私たちが出している趣味性の高い媒体というのは、読者であるファンの方たちを大切にし、皆さんと一緒に成長していくということが大事になります」
「だからこそ、リアルなコミュニケーションが取れるイベントの場を、お客さんと情報交換ができる場として重視しようということになったんですね」
「それに加えて、山に興味を持ってくれている人たちを新規ユーザーとして巻き込んでいくことも大切です。特にイベントの場は、そういった方たちに山やアウトドアの世界を身近に感じてもらうための、ハードルの低いものとしても役に立っています」
「何かに興味を持って調べようとした時、以前は、紙の媒体が主体でした。だから、私たちも紙媒体に力を入れることで、これまで”重要な情報源”として、たくさんの方に手にとってもらえていたと思うんです」
「でも、情報を得る手段が多様にある現在では、最初に紙媒体を手に取るのではなくて、ウェブで調べてみたり、イベントに参加してみたりすることが、何かを知るための第一歩になってきています。比較的若い世代を中心にその傾向があるのではないでしょうか」
「だから、気楽に参加できるイベントの場を皆さんに提供して、そこでこの世界をもっと知りたいと感じてもらえた時に、私たちが刊行している雑誌や書籍を手にとってくれたら良いなと思っているんです」
山と溪谷社が主催しているイベントの中でも、登山好きではなくても参加できるようなハードルの低いイベントが、「山モリフェス」です。
会場では、アウトドア関連のワークショップやボルダリングなどのアクティビティが行われていたり、アウトドアメーカーのブースが出店されていたりなど、気楽に登山やアウトドアの世界に触れることができる設営になっています。
そんな中、子どもも大人も交えて賑わっているブースで行われていたのが、缶バッジのワークショップでした。
イベントのコンテンツでありつつ、ノベルティにもなる缶バッジのワークショップ
一見すると、缶バッジのワークショップは他のアクティビティと比べて、アウトドアとの関連性が薄いように感じるかもしれません。
しかし、登山好きなどが集まる「山モリフェス」と缶バッジのワークショップは実は相性が良かったものだと、新田さんは以下のように教えてくださいました。
「これは日本だけではなく、海外のヨーロッパアルプスなどでも共通しているのですが、登山業界では山域ごとや山小屋ごとに金属製のピンバッジなどを作っていて、自分が登った山の記念として、そのバッジを集めていくっていう文化が根付いているんですよ」
「缶バッジのブースが人気のワークショップになっているのは、目の前で缶バッジが作れるというコンテンツとして面白さもありますが、そういった登山業界ならではの文化背景が影響しているからかもしれません」
さらに缶バッジは、ノベルティグッズとしても「山モリフェス」と親和性があったそうで、新田さんは次のように続けます。
「ノベルティとして、大人がもらって喜ぶものと、子どもがもらって喜ぶものが分かれる場合があると思うんですけど、缶バッジはどの年齢層の方がもらっても喜んでもらえるところが強みだと思います」
「山モリフェスの場合は、ファミリー層にも多くお越しいただいているイベントになっているのですが、缶バッジだったら、子どもはもちろん喜んでくれますし、大人の方でもお子さんのために作ろうとしてくれるんです」
「それに、缶バッジ自体はイベントの記念品にもなるので、持って帰ってもらえれば他の人に話すきっかけにもなるし、つけて貰えればイベントの宣伝にもなったりして、すごくお客さんとのタッチポイントを増やせるアイテムなんですよね」
そのように、お客さんに楽しんでもらうためのコンテンツとしても、イベントのノベルティグッズとしても役立つようになった缶バッジ。
一般的にノベルティグッズは、主催側が既製品を準備して渡すことが多いものの、オリジナルの物を作ってもらえれば、思い出に残りやすくなったり捨てられにくくなったりするという側面もあるのでしょう。
山モリフェスは順調にお客さんの数を増やしているそうですが、その一端を缶バッジが担っているのかもしれません。