都市部や地方に限らず、どんな街にも必ずあるパチンコ屋は街の風景を構成する一部と言えます。
しかし、プレイ人口の減少に伴いパチンコ業界は縮小傾向にあり、1995年には約1万8200店舗あったパチンコ屋も2019年末の時点では1万店舗を割り込みました。さらに近年はパチンコ依存症が社会問題化し、世間からの風当たりも厳しいと言います。
そんな中、パチンコ業界ではイメージ刷新の動きがパチンコホール・パチンコメーカー共に進んでおり、今後よりPRの重要性が高まっているそうです。
パチンコ業界各社が様々な取り組みを行う中、愛知県名古屋市に拠点を構えるパチンコメーカー、 豊丸産業株式会社 では缶バッジを活用したPR活動を行っています。
そこで今回は同社営業統括グループの小南亮介さんにお話を伺ってきました。
街の居場所としてのパチンコ屋「パチンコを打たない方でもご利用いただけます」
缶バッジの具体的な取り組みを説明する前に、まずはパチンコ屋の実態を多くの人に知ってもらいたいと話す小南さん。
普段パチンコと接点がない人は「大きな音がする怖い場所」というネガティブなイメージを持つ傾向にありますが、実際は街の「居場所」としての側面が強い空間なのだそうです。
「世間の人が思っているパチンコ屋と実際のパチンコ屋とのギャップは予想以上に大きいかもしれませんね。実はパチンコ屋はすごく敷居が低いものなのですよ」
「コンビニでトイレを借りることがあると思いますが、パチンコ屋を使っていただいても構わないんです。もっと言えば、漫画コーナー、無料のドリンク、充電プラグも完備していて、中にはマッサージ機が設置されている店舗もあります。最近は遊技しながらの喫煙も禁止になっているので、たばこの煙が苦手な方も快適にご遊技いただけます。」
「もちろん、パチンコを打たなくても街の休憩所として使っていただいて全く問題ありませんし、お店側も『出て行け』なんて絶対に言いませんから(笑)パチンコはたまにしか打たないけど、休憩所としてパチンコ屋を利用するというお客様も少なくないんですよ」
こうした街の居場所としての側面以外にも、近年は社会貢献に力を入れるパチンコ業者が増えてきたと小南さんは話します。
例えば、震災の際にはパチンコ屋の駐車場や食べ物を提供するなど防災ステーションのような役割を果たし、2020年に入って流行したコロナウイルスの拡大に際しても備蓄用マスクを供給するなど、私たちが想像しているパチンコ屋の姿と実際の姿との間には大きなギャップがあるようです。
しかし、こうした活動がまだまだ認知されていないのはパチンコ業界のPR不足が原因だと小南さんは指摘します。そのため、パチンコと接点のない層に対するPRが今後重要になってくると言います。
一方で既存の顧客に対するPRも同時並行で行わなければなりません。そこで同社がPRのために導入したのが缶バッジでした。
メーカーが作る缶バッジは、ファングッズとして価値が高い
「弊社の場合、パチンコの新台が出るたびに新台と同じデザインの缶バッジを制作します。その缶バッジを営業マンが胸につけて営業活動を行うのです。もちろんこれだけでもしっかりとした宣伝ツールとして機能するのですが、ユーザーのファン会での役割が大きいと思います」
「従来、缶バッジの活用先はパチンコの台を置くホールさんに対する営業活動がメインだったのですが、近年は弊社のショールームに一般のお客様を招き、新台の導入前に試し打ちをしていただくイベントを開いています。その際にお客様に缶バッジをお配りしているんです」
「試し打ちに来られるお客様は熱心なパチンコファンの方が多いので、新台のデザインを施した缶バッジは好評なんです。最近では他社のメーカーさんも缶バッジマシーンを導入し、共同で缶バッジスタンプラリーなどのイベントを開くこともあります」
新台の試し打ちイベントで配布する缶バッジは当然宣伝ツールとして機能しているものの、缶バッジを運用していく中で思いもしない二次的な宣伝効果があったと小南さんは話します。
「イベントではスタンプラリーという形で計11種類の中から1つの缶バッジを選んでいただいてプレゼントするのですが、イベント会場の外ではお客様同士が缶バッジの交換会を開くなど、単なるノベルティ以上の価値を見出してくださるお客様が多いのです」
「こうした場で弊社の缶バッジが一般ファンの方にとって人気のグッズになることは当初全く想定していませんでしたが、見方を変えれば、人から人へ流れれば二次的な宣伝にもなるのかもしれません」
社員教育の一環としての缶バッジ
パチンコファンからの反響が高いことから、豊丸産業では年間約2000個もの缶バッジを制作すると言います。
ここで興味深いのが、営業統括グループに新しく入ってきた新入社員が缶バッジ制作を担当することが社内で慣例となっているということ。
「私はこの部署に異動してきて2年目になるのですが、最初に任された仕事が缶バッジ制作だったんです。新人にとって異動してすぐに、宣伝やマーケティングのアイデアを出すことは難しいですよね。それでも仕事はこなさなければなりません」
「そこで専門知識を持たなくても誰でもできる作業という位置付けて缶バッジ制作という仕事を任されるのです。制作した缶バッジは実際に現場で使われ、一般ユーザー向けのプロモーションとしても使われます」
「自分が作った缶バッジがどんな風に使われていくのかを考えるキッカケになりますし、そこを入り口として徐々に宣伝やマーケティングの知識を身に付けていくのです」
パチンコメーカーから総合エンタメ企業へ「老舗企業にとって50年は一つの節目」
缶バッジが既存のパチンコユーザーに対するPRに活用されている一方、パチンコと接点がない層に対しては新しい取り組みを行っているそうです。
豊丸産業は1969年の創業からパチンコ台の製造で「娯楽」を提供してきた企業ですが、これからは娯楽の概念を拡張して「総合的なエンターテイメント」を提供する企業へとその姿を変えつつあります。
そこで50年以上に渡って培ってきたエンタメ技術の応用先として選ばれたのが福祉業界でした。
「我々のパチンコの技術を福祉業界に応用できないかという議論が社内で何度も行われてきたのですが、現在はデイケアサービスへの応用が進んでいます」
「デイケアは高齢者の方が歌を歌ったりお遊戯をしたりする場ですが、男性の入居者の方は抵抗がある方が少なくないんです。やはり男性特有のプライドのようなものがあるため、幼稚園児のようなことをやらされることに難色を示す方が多いんですね」
「しかし、パチンコなら男性の方でも楽しんでいただけるのではと考え、足漕ぎをしながらでないとプレイできないパチンコ台などを開発し、提供させていただいております」
「また、最近では『元気はつらつ トレパチ!テーブル』という、食卓テーブル兼ゲーム機のような新商品を発売し、大好評をいただいております。こうした新事業を通じて、パチンコ業界のイメージを少しでも変えていければと思っています」
こうした取り組みに対して社内では当初戸惑いがあったそうですが、取材の最後に小南さんはこんなふうに話していました。
「弊社の代表がブログで書いていることなのですが、この先100年、200年と続いていく会社になる上で、50年は一つの山場なんです。自社の強みを活かしてどんどん新しいことをやっていかなければ将来にわたって続いていく会社にはなれないと代表はいつも口にしています」
パチンコの老舗企業から総合エンタメ企業へとその姿を変えつつある豊丸産業。今後も同社の取り組みから目が離せません。