出版業界は業界全体の売上高が約2兆6000億円だった1996年をピークに現在も右肩下がりを続け、現在ではその市場規模は約1兆2000億円と、ピーク時の半分を割り込むようになりました。

そんな出版不況の中、東京・高田馬場に拠点を構える サンマーク出版 は、稲盛和夫さんの名著『生き方』から近年話題の『スタンフォード式シリーズ』に至るまで、幅広い大ヒット作品を次々と世に送り出しています。

そんなサンマーク出版では、企画会議でボツとなった本を編集者の判断で出版できる「編集者特権」という制度を始めとした、他の出版社とは一線を画す変わった取り組みをしているようです。

またサンマーク出版の特異な取り組みの中には、なんと缶バッジも含まれているのだそうで、今回はサンマーク出版宣伝部の新井俊晴さんと、営業部の男澤涼介さんにお話を伺いました。



斜陽産業とも言われる出版産業において、サンマーク出版が次々とヒット作品を世に送り出すことに成功してきた要因の一つとして、編集者特権があると宣伝部の新井さんは話します。

「弊社には、編集者が強い思い入れのある作品に関しては、企画会議に通らなかった企画でも、年に1冊だけ、編集者の判断でその企画を進めることができるという制度があります」

「その一例として、『コーヒーが冷めないうちに』が挙げられます。2015年に発売されたこの作品は、85万部の大ベストセラーになったのですが、これは若手の女性編集者がある芝居に大変感銘を受けて、その場で脚本家に本を書いて欲しいと依頼して生まれた本なんです」

「企画会議に通らず、編集長や社長からOKが出ていないものを出すわけですから、売れない可能性もありますし、会社としてはリスクを抱えることになります。その意味でいろいろな考え方はありますが、編集者の力を引き出す上では、重要な制度だと考えています」



缶バッジで社内マネジメント「缶バッジがキッカケで編集部・営業部・宣伝部の足並みが揃った」

デザインを考えて、缶バッジに落とし込むまでのプロセスを全て「自炊」できるのが出版社の強み。

サンマーク出版では、編集者特権のような特異な取り組みがある一方で、社内連携にも力を入れており、その一環として缶バッジが活用されていると営業部の男澤さんは話します。

「弊社では編集者の熱意を尊重する社風があって、それは編集者特権という制度にもよく現れていると思います。しかし出版社の構造上、本を作る『編集部』、書店に営業にいく『営業部』、本のプロモーションを担当する『宣伝部』といった具合に、本を作る人と売る人が違うので、社内ですれ違いが起きてしまうことがあります」

「そのギャップを埋めてくれるものの一つが缶バッジです。弊社では本の発売前にプロモーションの一環として、本に関する缶バッジを作ることがあるのですが、編集者から『次はこんな本を作るから、こんなふうに売っていきたい』と営業部や宣伝部に提案があると、一緒に缶バッジを制作します」

「『本を売りたい』という気持ちは、部署に関わらずあるので、本の作り手と売り手が一緒になって缶バッジを使ったプロモーションを考えることによって、一冊の本に対する理解度が高まり、編集部、営業部、そして宣伝部の足並みが揃うようになりました」




続けて男澤さんは、実際に缶バッジを運用し始めてから、書店への営業に少しずつ成果を感じ始めていると話していました。

「実際に缶バッジを作って、書店に営業するようになってから変化がありました。書店員さんに『この本が売れています』『次はこんな本が出ます』と営業しても、書店員さんからすれば、普段からいろんな出版社の人間が営業に来ているわけですから、あまり印象に残らないんです」

「でも、缶バッジを持って『ぜひエプロンにつけてください』と営業すると、印象が変わってくるんですよ。発売前から本に関する缶バッジをお配りすると、実際に書店員さんがエプロンに缶バッジをつけてくださることが多いです」

「書店では、書店員さんが本を発注し、本棚に並べるので、書店員さんに本を覚えてもらうことで、本を多めに発注して頂いたり、本棚の目立つところに置いて頂くことに繋がっています。その意味では、この小さな缶バッジが、注文冊数に大きな影響を与えていると言えますね」



サンマーク出版の社内ベンチャーによって、出版社の強みが引き出される

画像:ペンギン飛行機製作所の公式ホームページ

編集者特権や缶バッジの活用など、新しい取り組みに次々と挑戦してきたサンマーク出版ですが、2017年には「ペンギン飛行機製作所」という社内ベンチャーを発足しました。

ペンギン飛行機製作所では、「暮らしの『不都合』を『うれしい』に変える」をテーマに、SNS、グッズ、イベントなどを企画しており、公式ホームページに登場する「ぺんた」と「小春」というキャラクターを使ったキャラクタービジネスに力を入れています。

キャラクタービジネスの一環として、ペンギン飛行機製作所では、ぺんたを使った児童書を出版しました。



ペンギン飛行機製作所の「ぺんた」(左)と「小春」(右)

出版業界は業界全体で右肩下がりを続けている一方、児童書は常に一定の水準を保っていることから、出版業界では児童書への注目が高まっているのだそうで、宣伝部の新井さんは次のように話します。

「ペンギン飛行機製作所ではぺんたを使って『できなくたって、いいじゃないか!』という児童書を作りました。これは動物豆知識みたいな本がベースなのですが、この本には『読んだら自信がつく』という裏テーマが設定されているんです」

「この本は、動物のダメなところを紹介するもので、『動物たちは不得意なことがこれだけあるけど、それでも上手くやっている』というストーリーです。本の最後には、ナビゲーターのぺんたが『人間は何を諦めてきたの?』と問うシーンがあって、それに対して『人間は一人で生きるのを諦めて、みんなで生きられるようになったんだ』と答える一節があります」

「得意なことがあまりなくても、何か一つだけあれば人は生きていける。そういったメッセージを子ども達に伝えたいと思っているんです。現在、出版業界は児童書ブームでいろんな児童書が出版されていますが、これまで自己啓発本など、読んで自信をつけるような本を作ってきたサンマーク出版ならではの児童書を作っていきたいと思っています」



できなくたって、いいじゃないか!
(サンマーク出版、2019)

これまで、「読者の暮らしを良くすること」をテーマに、数々のビジネス書や実用書を出版してきたサンマーク出版ですが、今後は、得意のビジネス書に限らず、児童書やキャラクタービジネスなど、様々なコンテンツ制作に挑戦していくようです。

よく出版社は斜陽産業だと言われますが、サンマーク出版が児童書やキャラクタービジネスなど新しい分野で活躍しているように、出版不況の今だからこそ、「人材を発掘し、磨き上げ、コンテンツを生み出していく」という出版社の強みが見えてくるようにも感じます。

常に新しい取り組みに挑戦し、新しいコンテンツを生み出し続ける、サンマーク出版の今後に目が離せません。