「ガキ大将」という言葉が死語になりつつあるように、学校が終わった後に近所の子どもで集まって、野球やサッカーをしている風景を見ることは少なくなりました。

最近では、「サッカー禁止」や「花火禁止」というように、自由に使うことができない公園が増えていたり、ゲーム機や動画サイトが普及したこともあって、子どもが外で遊ぶ時間が減っているのは仕方がないことなのかもしれません。

そうした状況の中、キャンプやハイキングなどを通した、屋外での遊びの場を提供しているのが、ボーイスカウトと呼ばれる公益財団法人です。

そこで今回は、静岡県の御殿場小山地区で活動に取り組んでいる濱田敏彦さんにお話を伺います。



外での「遊び」の時間は、少しの工夫で「学び」の時間に変わる


キャンプファイヤーやハイキングの遊びから、イベント活動のボランティアやゴミ拾い活動など、地域によって活動内容が異なるボーイスカウト。

富士山の麓に位置し、緑に囲まれた御殿場小山地区では、週末になると近くのキャンプ場や広場に隊員達が集まって、火の起こし方やロープの結び方、テントの組み立て方などを学んでいるのだそうです。

6歳くらいの小さな子どもから、60代の大人まで混ざった6〜8人の班になって行われるボーイスカウトの野外活動。子どもたちは「大人たちから何かを教わる、それを年下の子たちに教える」というサイクルを繰り返すことで、年齢が違う人との関わり方を学んでいくと濵田さんは語ります。



ロープの結び方を学ぶワークは、ボーイスカウトの中でも基本とされている活動。

日々の活動の集大成として、子供達の夏休み期間などに行われているのが、キャンポリーと呼ばれる、地域の隊員たちが集まるキャンプです。

そのキャンプの記念品として、もともとはワッペンを配布していた濵田さん。しかし、子どもたち自身に記念品を作ってもらえれば、それを作る過程の時間も有効に使えるのではないかと考え、利用を始めたのが缶バッジでした。

さらに濵田さんは、缶バッジの絵の色ぬりを担当する子どもたちに、10分間の制限時間を与えたそうで、その経緯について次のように語ります。




「キャンポリーで行う遊びの一つに、『団サイト』という、それぞれの班が作ったテントを巡っていく遊びがあるんです。その時に、それぞれのテントを訪ねた時の決められた時間の中で、子どもたちに缶バッジの色を塗ってもらうという遊びを組み込みました」

「極端な話をすると、色ぬりは誰にだってできることですけど、『10分の間に色を塗ってね』って制限時間を与えるだけで、子どもたちの集中力がすごく高まるんですよ」

「それに、時間が限られていると、どこから色を塗ろうかとか、色の濃さはどうしようとか、頭を使って考えながら遊んでくれるようになるんです」




雨が降ると火が消えてしまったり、テントがなかなか立たなかったりなど、思い通りにならないことも多いボーイスカウトの活動は、子どもたちに飽きられないようにするための工夫が必要だと濵田さんは語ります。

軍服もその一つで、子どもたちが持つ軍服への憧れが、ボーイスカウトの活動への興味を高めることに役立っていたのだそうです。

その意味でも、想像力を働かせる缶バッジの10分という制限時間は、長すぎず短すぎないため、子ども達が飽きずに何かに取り組むには、ちょうど良い時間なのかもしれません。



今すぐには役立たなくても、大人になった時に役立つことを学べるボーイスカウト

濵田さんが指をさすのは、ボーイスカウトのシンボルである、ユリの花びらの缶バッジ。

ボーイスカウトの時に濵田さんは「覚える」ことと「できる」ことは違うんだぞと、よく子ども達に言い聞かせていると語ります。

「『覚えた』っていうのは、言われたことをそのままできるようになること。『できた』っていうのは自分で考えて展開して、状況に応じてそれを使えるようになることを言うんです」

例えば、親から「挨拶はするものだ」と教えられたら、表向きにはそれに従うけど、教えられた以上の事はやらないような、「覚えた」で満足してしまう子どもが増えてきているように感じるのだそうです。




そこで、缶バッジ制作のように、制限時間を与えて頭を使わせたり、普段の活動のなかでも、子どもたちの発想を引き出すような接し方を意識していると濵田さんは語ります。

「全てを教えるわけじゃなくて、子どもたちに考えさせることが大事なんです」

「例えばテントを立てる時だったら、どこに立てるかっていうのをそのまま伝えるんじゃなくて、『ご飯を食べる場所はどこにしようか』とか『雨が降るかもしれないね』ってアドバイスの仕方を工夫するんです」

「そうすると子ども達は、どのようにテントを張るかって一生懸命考えながら活動に参加してくれるようになります」



日本で最初にボーイスカウトが始まったのが静岡県。2021年に100周年を迎える。

ヒントを与えて、子どもたちの「考える力」を引き出すボーイスカウトの教え方は、何かの大会に出たり、賞がもらえたりする他のサッカークラブや野球クラブと比べると、成長の成果が見えにくいことが難点ですが、それを踏まえた上で濵田さんは次のように語ります。

「今すぐに役に立たないかもしれない。でも大きくなった時に役に立つものを学べるのがボーイスカウトなんです」

もちろん、キャンプの上手なやり方や、年齢が違う人との上手な付き合い方を知っていることも役に立つのでしょうが、社会に出たあとにずっと活きてくるのは、ボーイスカウトでの活動を通して身につく、自分の考えを行動に移す力なのかもしれません。

富士山の麓にある山奥のキャンプ場で、子どもたちを惹きつける遊びの一つとして、缶バッジが活躍しているようです。