日本酒好きの経営者や個人事業主などが集まって結成されたNPO法人サケネスは、酒蔵や日本酒業界全体を応援する活動を行っています。

日本酒というのは気候に左右される敏感な飲み物で、これまで震災や豪雨などで日本酒を製造する酒蔵は大きな影響を受けてきました。

サケネス発起人の一人、中村克己さんはデザイナーということもあり、酒蔵から提供された日本酒のラベルを使って缶バッジを制作し、販売で得た利益を酒蔵やサプライチェーン各社に還元することで日本酒業界を応援する取り組みを行っているようです。

そこで今回はNPO法人サケネスの中村さんに缶バッジを活用した取り組みについて詳しくお話を伺いました。



NPO法人サケネスの中村さん。緊急事態宣言下での取材となったためZoomにてお話を伺った。

バッジマンネット:
日本酒のラベルを活用した缶バッジはデザインが個性的で目に止まりますよね。この取り組みはどのように始まったのでしょうか?

中村:
酒蔵や日本酒業界全体が盛り上がればいいなと思い作ったのが最初なのですが、最初は酒蔵に全く相手にされなかったんです。でも、根気強く交渉していくうちに良い返事をもらえるようになってきました。

取引する酒蔵が30蔵を超えたあたりから、酒蔵さんの方で認知度が広がってきて「知り合いの蔵から話を聞いたことがあるよ」と言っていただけることが増えてきたんです。



写真提供:NPO法人サケネス

バッジマンネット:
実際に缶バッジを購入される方は日本酒好きの方が多いのでしょうか?

中村:
ショッピングカートを管理しているのですが、実は日本酒絡みで購入している方はそんなに多くないんですよ。ジャケ買い的な感じですかね?パッと見たときに「絵柄」が良いものがよく売れます。

お客様からメールで声をいただくこともあって、その多くが「可愛い絵柄なので購入しました」というものなんです。そもそも購入したラベルの日本酒のことを知らない方もいらっしゃいます。

バッジマンネット:
日本酒に詳しくない人が買っていくというのは面白いですね。当初の狙いはそうした日本酒に関心がない人だったのでしょうか?

中村:
はい、日本酒に関心がある方はこちらから何を言わなくても購入されるので、ある意味狙い通りですね。日本酒に興味のない人にアプローチしたかったわけですから。



写真提供:NPO法人サケネス

バッジマンネット:
日本酒をPRするのであれば、Tシャツやタオルなどノベルティグッズは他にもいろいろありますよね。その中で缶バッジを選ばれた理由は何だったのでしょうか?

中村:
缶バッジを作る前から何か日本酒の銘柄を使ったグッズを作りたいと思っていました。デザイナーを生業としていることもあって、すごく感覚的な発言になってしまうのですが、漠然と「丸くてピカピカしているもの」が良いと思っていました。なおかつ立体的であるものが良いと思ったんです。周りから「缶バッジ作るなら、シールも作りなよ」と言われたのですが、シールは立体感がないからダメなんです。

バッジマンネット:
なぜ立体感が重要なのでしょうか?

中村:
長年デザイナーをやってきた経験から感じるのですが、立体的な物はもらった時に納得感があるし、手元にとっておきたくなると思うんです。ペラペラなシールだと、どうしても存在感に欠けてしまう。




バッジマンネット:
立体感という意味では、サケネスさんでは缶バッジのパッケージにすごくこだわっていますよね。立体感を演出する上でパッケージも重要な要素なのでしょうか?

中村:
その通りです。実はこのパッケージは首掛け兼用で、日本酒の瓶にかけられるようになっているんです。また、台紙に折り加工がしてあって、折るとガチャガチャに収納することもできるし、ディスプレイ用の台紙にもなります。



写真提供:NPO法人サケネス

バッジマンネット:
ここまで凝っている台紙は他に見ないですね。実は以前、缶バッジを制作しているデザイナーの方にお話を伺った際に、「台紙を工夫すると反応が全く違ってくる」というお話を伺ったことがあるんです。

中村:
そうだと思います。デザインの業界では「パッケージ4割」という言葉を使っていて、裸で缶バッジを売るよりも、きちんとパッケージングされている方が、お客さんが手にとってくれるんですよ。

バッジマンネット:
ビジュアルの重要性をひしひしと感じますね。近年だと海外で日本酒ブームが起こっていて、海外進出するにあたって、非言語のデザインやパッケージングは大きな武器になりそうですね。

中村:
実はコロナ前には缶バッジを使って海外でのイベントも計画していました。日本には1万種類以上の日本酒があると言われていて、日本酒の数だけラベルが存在しているんです。これだけ種類があるにも関わらず、一つ一つデザインが個性的で、外国人にもすごく評判が良いんですよ。



写真提供:NPO法人サケネス

バッジマンネット:
今後海外展開していく中でどのような展望をお持ちでしょうか?

中村:
日本酒のラベルは他のお酒とは全く異なる個性的なものが多く、きっとそれを目にした外国人は「何だこれは?」と食いついてくるはずなんです。そこを入り口として日本酒の奥深い世界に足を踏み入れるようになると思います。

バッジマンネット:
先ほどおっしゃっていたジャケ買いですね。

中村:
実はお酒に限らず商品を買う時ってジャケ買いのケースが多いのではないでしょうか。パッと見た目が気になって手にとってみたら「これ美味しかったな、また飲みたいな」といった感じで。



写真提供:NPO法人サケネス

バッジマンネット:
確かにそうですよね。実際、サケネスさんにお声がけしたキッカケとなったのは缶バッジを紹介するホームページだったんです。「かっこいいな」「これってどういう意味なんだろう」と思えてきて、思わず連絡してしまいました(笑)

中村:
ありがとうございます。実は今後、インバウンドが回復した際には羽田空港や成田空港と連携して日本酒缶バッジをガチャガチャでも販売したいと思っています。

訪日外国人は帰国する際にみんな小銭を余らせていて、空港に設置したガチャガチャでみんな消費していくんですよ。こんなふうに缶バッジを起点として、様々なシーンで日本酒のPRを行っていきたいと考えています。