美術館に入ろうとする黒猫と、それを阻止する警備員との攻防がツイッターで話題となりツイートが10万いいねを超えたことで一躍人気のスポットとなった広島県の尾道市立美術館。
市民による草の根運動をキッカケに昭和55年に開館した尾道市立美術館は、開館20周年をへて地域社会に貢献する本格派の美術館という新しいコンセプトのもと、安藤忠雄さんの設計による改修工事を終えて、平成15年にリニューアルオープンしました。
同美術館は尾道市にゆかりのある作家さんの作品を中心に収蔵・展示している地域密着型の美術館で、イベント時など地域住民との接点作りに缶バッジを活用しているのだそうです。
そこで今回は同美術館の麓百合さんに詳しくお話を伺いました。
バッジマンネット:
尾道市立美術館さんは以前ツイッターで黒猫と警備員さんの攻防が話題となり、当時のツイートを見たら「あの美術館か!」とピンと来る人がたくさんいると思います。ツイッターで拡散されてから大きな変化はありましたか?
麓:
ツイッターでの一件があって、来場者数は例年ゴールデンウィークの倍以上に増え大変驚きました。どうやら海外のニュースなどでも取り上げられたようですね。
黒猫ばかりが注目されがちですが、当美術館は地域社会に貢献することがコンセプトでして、その辺りのお話もしっかりさせて頂ければと思っています。
バッジマンネット:
ありがとうございます。缶バッジは主にイベントで活用されるお客様が多いのですが、尾道市立美術館さんではコロナ禍における支援として県外在住の学生に地元の名産品を送付し、その中に缶バッジを同封したとのことでした。そのことに関して詳しくお話を伺えますか?
麓:
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アルバイト収入の減少などによって生活が困難になっている尾道出身の市外在住の学生さんたちに向けてマスクやラーメンなどを届ける「尾道学生応援箱」という取り組みを尾道市がはじめました。
尾道市の複数の企業さんも参加され、各々が支援物資を提供したのですが、当美術館では「ゴマビエ缶バッジ」をお届けしたんです。ゴマビエとは、疫病を祓うとされる妖怪「アマビエ」を尾道市立美術館の人気ネコ「ゴッちゃん」を元にアレンジして職員が描いたオリジナルキャラクターです。
このゴマビエ缶バッジを尾道学生応援箱に同封して、感染収束を祈ると共に、地元尾道市のことを思い出してもらおうと考えました。
バッジマンネット:
実際に尾道学生応援箱を受け取った学生からゴマビエ缶バッジに対する反響はありましたか?
麓:
反響はかなりあったと聞いています。やはり移動が制限されてなかなか地元に帰省できない学生が多い中、地元を連想させるものが手元に届くと安心するのだと思います。
バッジマンネット:
尾道市立美術館さんでは物販やノベルティなど様々なシーンで缶バッジをご利用いただいており、缶バッジの活用ノウハウを数多く蓄積されていると思うのですが、他にもコロナに関連した缶バッジの活用例があれば教えていただけますか?
麓:
コロナ禍での缶バッジの活用ということでしたら、「マスク着用の啓蒙」を目的とした缶バッジを作りました。
感染が拡大し始め、皆さんがマスクを着用するようになった頃、張り紙などで「マスクのご着用をお願いします」と啓蒙活動をしていたのですが、当館にはデザインができる者がいるので、せっかくだから缶バッジで啓蒙活動をしようと思ったんです。
バッジマンネット:
確かに、文章だけで啓蒙を行うと味気ないですが、そこにデザインを施すと、とっつきにくさは解消されますよね。実際に啓蒙用の缶バッジを作ってみて来館者の反応はいかがでしたか?
麓:
予想以上の反響でした。もともとは啓蒙用缶バッジを当館の職員が胸元につけていました。頭では分かっていても、「マスク付けてください」と声をかけられると嬉しい気持ちにはなりませんよね。だから缶バッジに施されたイラストを通して、マスク着用をお願いしていました。
ところが、職員が付けている啓蒙缶バッジを見た来館者の方から「それここで買えますか?」とお声がけいただいたのです。ぜひ販売して欲しいという声を多くいただいたので、販売用に缶バッジをデザインし直し、来館者向けに販売を行いました。
バッジマンネット:
それは大変興味深いお話です。確かに、啓蒙とはいえ、「マスクを付けてください」と言われて、怒る人はあまりいないかもしれませんが、少なくとも気分が良い人はいないですよね。
そうした難しい課題をデザインで克服し、缶バッジというメディアを通じて発信することで、お客様を巻き込んだ参加型の啓蒙活動に転換した手法はすごく参考になります。ちなみに価格設定はいくらだったのでしょうか?
麓:
ありがとうございます。コロナの感染が広がる以前から様々なタイプの缶バッジを販売していまして、いずれも価格設定は「100円」にしているんです。今回の啓蒙用缶バッジも同様です。100円にしている理由は、来館してくださった子供さんたちが来館の記念に自分のお小遣いで買える値段設定にしたかったのです。
バッジマンネット:
子供でも気軽に購入できる価格設定が来館者の方々を巻き込んだ啓蒙活動の成功要因だったのでしょうね。尾道市立美術館さんではこうした啓蒙缶バッジに加えて、子供向けのアプローチを数多くご用意していらっしゃると伺っています。今後の展望も含めてお話いただけますか?
麓:
美術館には厳かなイメージがあってなかなか子供が楽しめない場所という雰囲気があると思います。でも、子供の時に「美術館=楽しい場所」という印象が残らないと、大人になってから自分の子供を連れて来館しようという発想にはならないと思うんです。
地域密着型の美術館として、子供たちに美術館は楽しい場所だと思ってもらえる施策は今後もしっかりと行っていくべきだと考えています。コロナ禍でイベント等の開催が制限される中、缶バッジを使った新たな取り組みを今後も模索していきたいと考えています。