2027年に創立100周年を迎える新渡戸文化学園。
こども園(幼稚園)から短大まで複合的な教育を提供する同校は次の100年を見据えて学校改革に着手し、外部から積極的に教職員を採用することで新しい教育のあり方を模索しています。
今回お話を伺った同校の山内佑輔先生もその一人。山内先生は、ワークショップの手法を用いて実社会と学びを繋ぐ授業を実践しており、現在はクリエイティブコミュニティ「VIVITA」と連携して子供たちのクリエイティビティを育む環境づくりに注力しています。
そんな山内先生は教育現場で缶バッジを活用しているそうで、今回は教育現場における缶バッジの活用方法について詳しくお話を伺ってきました。
バッジマンネット:
教室にお邪魔すると、放課後にも関わらず小学生たちがプロ仕様缶バッジマシンの周りに集まって作業をしている様子が印象的でした。教室にはプロ仕様缶バッジマシンだけでなく、レーザーカッターなど普段あまり見かけない道具がたくさんありますが、山内先生の活動について教えていただけますか?
山内:
私は図画工作科の授業を担当しているのですが、お手本通りに制作するような授業は行っていません。材料や道具に触れて、悩んで、考えて、と思考がぐるぐる回るような制作過程のプロセスに価値をおいています。
普段の授業では本当に様々な道具を使っていて、缶バッジもその一つなのですが、基本的に美術や図工の授業はテクニックを磨くものではないと考えています。学校としての目標でもある「社会に繋がる学びをデザインする」ことを念頭に授業を行っています。
バッジマンネット:
誰しもが学校での教育に対して「これは社会に出てから役に立つのだろうか」と疑問を抱いていると思います。山内先生が考える、社会に繋がる学びとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
山内:
学校で学んだ結果、世の中の見方が変わるような教育をしたいと考えています。そのためには、まずは自分の頭で考えるクセを付けることが重要だと考えていて、「余白」がある授業を心がけています。
余白とは自分で考える「余地」を残してあげることだと私は考えていて、例えば、「どうやったら新聞紙を長くすることができるかな?」と生徒たちに聞いてみるんです。
「新聞紙を長くする」というゴールだけ設定してあげて、そこに辿り着くまでのプロセスは自分たちで考えてもらうのです。新聞紙を細長く切る生徒もいれば、テープで繋げる生徒もいる。そうやって自分で考えて手を動かすことを意識して授業をしています。
バッジマンネット:
山内先生がゴールやテーマをあらかじめ設定して、そこに至るプロセスは生徒に任せることで、自分たちで考える「余白」を作ってあげるということなんですね。ちなみに、こうしたプロセスの中で缶バッジはどのように活用されているのでしょうか?
山内:
自分で考えるクセがつくと、何かアウトプットしたくなると思うんです。アウトプットの手段の一つとして缶バッジを使っています。
以前、生徒が社会科見学で和紙を作ってきたのですが、単に記念品として持ち帰るのではなく、自分たちが学んだ缶バッジのノウハウを使って、和紙の缶バッジを作ることにしたんです。
バッジマンネット:
和紙の缶バッジは素敵ですね。以前、和紙の缶バッジを制作されたお客様のお話を伺った際、和紙を缶バッジに使うのは難しく、商品開発に長い期間を要したとお聞きしました。制作の過程で和紙は破れませんでしたか?
山内:
もう、破れまくりましたよ(笑)プロ仕様缶バッジマシンで圧力をかけると、和紙がその圧力に耐えきれなくて破れてしまうんです。生徒たちは「なんで破れるんだろう」と考えて、何度も何度も繰り返し缶バッジ制作に取り組んでしました。
でも、これは失敗じゃないんです。「どうして破れるのか」と考えるプロセスが学びになるんです。
バッジマンネット:
やはり破れてしまいますよね(笑)缶バッジの台紙に和紙を使って、何度も和紙が破れる過程で生徒さんの行動に変化はありましたか?
山内:
短期的には目に見える成果が得られないかもしれませんが、長期的に見れば彼らにとって大切な学びになっていると思います。
缶バッジ一つとってもそうですが、今の世の中はブラックボックス化していると思うのです。どういう仕組みで機能しているのかが分からないものがあまりにも多すぎると思うのです。でも、こうやって缶バッジ制作で何度も失敗する過程で、缶バッジがどのように作られているのかを「見える化」することができます。
そうすると世の中の見方も変わってくると思います。例えば、今話題の鬼滅の刃の缶バッジの景品だって、一消費者ではなく、製造側や販売側の立場で缶バッジと向き合うことができるようになる。普段自分たちで缶バッジを作っているので、缶バッジが500円で売られていたら「なんで500円もするんだろう?」と考える子もでてくるんです。
その過程で、「そっか、材料費もそうだけど利益分もプラスされているのかも」と、一消費者の目線では気付かないことにたくさん気付けるようになったりします。もちろん、クラス全員がそういった視点を持てることを期待しているわけではありませんが、一人一人が自分なりの「視点」を持てるようになればと願っています。
バッジマンネット:
単に缶バッジを作るのではなく、缶バッジ制作を通じて得た知見を実生活に結び付けていくプロセスは非常に興味深いです。生徒たちの新たな「視点づくり」のツールとしてプロ仕様缶バッジマシンが使われていることを嬉しく思います。
山内:
今は何でも与えられるのが当たり前の時代です。そんな時代だからこそ、仕組まれた学びではなく、自ら獲得した学びの価値が高くなっていると思います。
今後も、プロ仕様缶バッジマシンをはじめ様々なツールを使って、生徒たちの学びを誘発する補助線を引いていきたいと思います。