千葉県鎌ヶ谷市に、「顧客の要望」と「自分の趣味」をかけあわせて、20年以上も事業を拡大し続ける「まなまき」という、ちょっと変わったお店があります。
同社代表の遠藤さんは、もともと趣味だった鉄道模型制作が高じて、鉄道模型のビジネスを始め、そこから次第に、キャンプや釣りなどの他の趣味も仕事に繋がったという異色の経歴の持ち主です。
現在、遠藤さんが手がける事業領域は、鉄道模型部品、Tシャツ、ロゴ印刷、コースター、ステッカー、マグカップ、そして缶バッジの制作に至るまで、多岐に渡ります。
そんな遠藤さんは、顧客との関係構築の一環として、缶バッジを活用しているのだそうで、今回は、「自身の趣味」と「顧客の要望」をかけ合わせて、独自の発展を遂げてきた同社の取り組みに関してお話を伺いました。
営業はせず、口コミで仕事をする「営業するということは、自らハードルを上げることになる」
多品種多品目を扱い、これだけ業務範囲が広いとなると、社外に対する自社アピールが難しいようにも感じますが、興味深いことに、遠藤さんは「営業活動」を全く行わないのだそうです。
「うちは、営業活動を行わないんですよ。その代わりに、うちが重視しているのは、お客さんを通じての『口コミ』での依頼です」
「なぜ営業しないかと言うと、営業すると押し売りになってしまうのはもちろんのこと、営業したからには相手は必要以上にこちらに期待をしてしまう。だから、せっかく良い商品を届けても感動は薄れてしまいます」
「一方で、相手から依頼があった場合、頼まれた以上の仕事を提案すれば、すごく喜んでくださりますし、『コレが出来るなら、アレも出来ますか?』といった具合に次の仕事に繋がるんです」
こうして顧客から求められている以上の提案を重ねる中で、様々な品目を取り扱うようになり、それが現在の多品種多品目という業種に繋がったのだそうです。そして、顧客の要望に応える過程で、缶バッジも活用するようになったと遠藤さんは話します。
「顧客の要望に合わせてどんどん取扱品目を増やしていったのですが、付き合いの長いお客様の中には『何かイベントをやりたいけど、予算があまりない』という方が少なくないんですよ。どうしようかと考えた結果、缶バッジを導入することになりました」
「イベントを開くとなると、電気設備など様々なものを準備しなければなりません。でも、缶バッジは電気がない場所でも簡単に実施できますし、子供向けのワークショップを開けば、親子で参加できて、参加者も依頼主も喜んでくれる。缶バッジを活用することで、提案の幅が広がるんです」
「そんな流れで、釣り具メーカー主催イベントの参加賞や、キャンプメーカーの会員証として缶バッジを活用してきました。そうやって顧客の要望に応えて、信頼関係を構築していくと、新しい仕事の紹介などに繋がっていったりするんです」
趣味を仕事にしてきた秘訣「趣味が仕事になったら、その趣味から離れて、“次の趣味”を見つけることです」
このようにして趣味の延長線上で仕事をしつつも、常に顧客目線で事業拡大を行なってきた遠藤さんは、趣味を仕事にする秘訣を教えてくださいました。
「趣味の延長に仕事があることは素晴らしいことですが、ある時点で趣味が仕事になったら、その趣味から少し距離を置くというのが、私が考える『趣味を仕事にする秘訣』なんです」
「まずは自分が好きじゃないと良いモノは絶対に作れません。しかし、それが自分の趣味となると、どうしても自分のエゴやこだわりが製品に出てきてしまう。そうなると、それはもう顧客のためではなくなってしまうんです。その結果、顧客が求めるものから遠ざかってしまう」
「なので、趣味が仕事になったら、一旦そこから少し距離をおいて、次の趣味を探すことをオススメします。私のケースですと、趣味の鉄道模型が仕事になったら、次はキャンプと釣りを趣味にしました。幸運にも今はキャンプメーカーと釣りメーカーから仕事を頂いているので、最近は料理を趣味にするようになりました」
そんな遠藤さんは常連客を集めた「常連会」を運営していて、月に一度、店舗にて飲み会を開くと話していました。
「趣味が仕事になったら、その趣味から距離を置きますが、趣味で繋がったお客様とは店で開催する飲み会で繋がりを保っています。実は、常連さんを招いて飲み会を開くのは常連さんのためでもあり、“一見さんのため”でもあります。やはり一見さんは、店に入って、常連客がたむろしていると疎外感を感じるんですね」
「なので、それを避けるために、店の奥で飲み会を開いて、常連客が店にたむろしないように心がけているんです。好きなことを大切にしつつも、一歩引いて、顧客目線を大切にしているんです。缶バッジなどのハード面だけでなく、コミュニケーションというソフト面でも顧客の気持ちに寄り添いたいんです」
取扱商品を絞ってエッジを効かせた専門店やセレクトショップが増える時代に、多品種多品目を扱う。店主の世界観が前面に押し出された個性的な店が増える時代に、あえて自分の個性を抑えて顧客の声に耳を傾ける。
そんな一風変わったお店を経営する遠藤さんの経営スタイルの中に、缶バッジの存在を見出すことができて嬉しい限りです。