動物園というと、子どもの時に両親に連れて行ってもらったり、小学校の遠足で行ったりなど、子どものための施設というイメージがあります。

それは動物園が、ただ楽しむためのレジャー施設ではなく、子どもたちに対して、「教育の場」としての意味合いを持つからなのかもしれません。

例えば、絵本などを通じて知った動物の大きさ、声、そして匂いなどを実際に体感できることに加えて、その動物が暮らしている自然環境や、生きものの命について考えるきっかけとして、世界各地から生き物が集まる動物園は、最適な場所となります。



伊豆シャボテン動物公園で人気の、ハシビロコウのビル。

静岡県にある伊豆シャボテン動物公園も、動物を放し飼いにするなどの展示方法の工夫を通して、動物のことをお客さんに伝える教育活動に力を入れている動物園の一つです。

その中のツールの一つとして缶バッジが使われているとのことで、今回は飼育員の白井悠人さんと、飼育補助で園内のデザインワークを担当している梅澤靖道さんにお話を伺います。



缶バッジを利用することで、プラスアルファの情報を伝えることができる

画面右手に座るのが、飼育員を務める白井悠人さん。左手に座るのが、園内のデザインワークを担当されている梅澤靖道さん。

伊豆シャボテン動物公園の特徴は、動物とお客さんとの距離が近いということで、動物とのふれあい体験や、エサやり体験が充実していることに加えて、インドクジャクや、リスザルなどの人間に危害がない動物は、園内に放し飼いにされています。

白井さんによると、放し飼いにすることによって、間近で動物を観察することができるお客さんの楽しさが増したり、檻やケースで飼育している時には見ることができない動物の生態を、お客さんに知ってもらうことができるのだそうです。



園内の木々や建物の上を自由に動き回るリスザル。

園内数カ所に設置されている放し飼いについての注意書き。

足の筋肉が発達しているインドクジャクは、ジャンプしながら木々の上を移動し、体を休める。

動物園は「教育」のためになる場所でもありながら、訪れた人に楽しんでもらうためのレジャー施設でもあります。

そのため、放し飼いのように、お客さんに楽しい気持ちで時間を過ごしてもらいつつ、動物に関心を持ってもらうための工夫が、動物園の取り組みには必要になってくるのでしょう。

そのような取り組みのひとつとして、伊豆シャボテン動物公園で役立っているツールの一つが缶バッジでした。



白井さんが手に持つのは、イベントの際にスタッフが身にまとう、缶バッジがたくさん付けられたマント。

現在缶バッジは、イベントでの物販や、ガチャガチャを利用して販売しているそうで、動物のことを知ってもらうために工夫している点に関して、白井さんは次のように語ります。

「購入してくださる方は、缶バッジ自体を欲しいと思って買ってくださるので、ガチャガチャのカプセルの中に缶バッジが入っているだけでも喜んでくれますよね」

「でも私たちは、そこにプラスアルファとして勉強になるようなものを入れることができるんです。例えば、コンゴウインコの缶バッジのところに、その動物を紹介する紙を入れれば、コンゴウインコってこういう動物なんですよって、詳しく伝えることができます」



園内の出入り口付近に設置されているガチャガチャマシーン。季節やイベントに合わせて中に入っているバッジの種類は変わる。

白井さんが手に持つのは、以前、コンゴウインコのイベントの際に缶バッジとセットで利用していたコンゴウインコの紹介用紙。

「ガチャガチャのカプセルの中には『全部でこんな種類の缶バッジがありますよ』っていう紙が入っていることがよくあると思うんです。だから、代わりにこのような紙を一緒に入れても、違和感なく受けとってもらえます」

「イベントや、その時の担当次第で変わることはあるのですが、缶バッジをガチャガチャで購入すること自体を楽しんでいただきながら、動物のことも学んでいただける。そんなことができるのが、缶バッジの面白さかなと思いますね」



動物の表情を意識してデザインすることで、小さくても人の目を惹く、インパクトのある缶バッジになる



ガチャガチャやイベントの物販などを通して缶バッジを購入してもらうためには、お客さんに欲しいと思ってもらえるような缶バッジのデザインを考えることが欠かせません。

そこで、白井さんが缶バッジを利用したいと思った時に協力を依頼しているのが、デザイナーの梅澤靖道さんです。



絵コンテの制作事務所に勤めていた経歴があり、今でも地域で絵画の教室を持たれている梅澤さんは、獣舎の背景や、園内を走るカートのカラーリングなど、伊豆シャボテン動物公園のデザインワークを主に担当されています。

普段は、水彩絵の具や色鉛筆、そしてアクリル絵の具などの画材を使って、大きな紙や、材木に絵を書いている梅澤さんですが、それらの絵をカメラで撮影しデータ化することで、缶バッジにも、その絵を活かすことができるのだそうです。

最近では、文字だけをパソコンの画像編集ソフトで追加したり、初めからパソコンを使いフルデジタルで絵を描いたりなど、缶バッジの絵にバリエーションを持たせているそうで、絵を書く際に心がけていることに関して、以下のように教えてくださいました。



梅澤さんが手に持つのは、ハシビロコウのビルの来園記念35周年のイベントの際に利用された、缶バッジのデザイン。

梅澤さんはデザインを担当する時に備えて、園内を歩き回ったり、写真をとったりして、普段から動物の様子を観察し続けている。

「同じ値段の缶バッジでも、デザイン一つ違うだけで、欲しくなる缶バッジとそうでない缶バッジがあると思うので、付けたくなる、持っていたくなる、誰かにあげたくなる。そんな缶バッジを作るようにしています」

「その時に大事なのが、動物の顔と表情、そして特に、魅力的な目を持っているかどうかなんです」

「魅力的な目を描ければ、その時の動物の感情だったり、性格だったりを表現できますし、小さい缶バッジが、インパクトを持ったアイテムに変わります」

「そんな風に、小さくてもインパクトを持たせられるのが、缶バッジの強みだと思うんです。帽子やカバンなど、色々なものに2個、3個とつけることができますし、身につけている時でも販売している時も、人の目を惹きつけますよね」





デザインにこだわったことが功を奏したのか、ゴールデンウィークなどの繁忙期には、ガチャガチャの機械にいれた缶バッジのカプセルが、一日程度でなくなってしまうほど、伊豆シャボテン動物公園の缶バッジには人気があると言います。

また、ハシビロコウのビルのように、来園記念のイベントが毎年行われている動物に関しては、その年によって違うデザインの缶バッジが販売されるため、何度も通ってコレクションのように集めてくれる方もいるのだそうです。

楽しい時間を提供するレジャー施設でもありながら、教育の場として、動物に関心を持ってもらうための取り組みが行われている伊豆シャボテン動物公園。

動物のことを伝える一つのツールとして、小さくてもインパクトのある缶バッジたちが活躍しているようです。