ヘアメイクアーティストとして芸能人のCDジャケットなども手掛け、都内でサロンを経営し、第一線で美容業界を牽引してきた石渡チカさん。

実家である千葉県市川市を経て、現在は豊かな勝浦の自然のなかで、ようやく心から仕事が楽しめる境地に辿り着いたそうです。

今回は、石渡チカさんに缶バッジとの出会いと可能性、仕事のあり方などについてお話を伺いました。



「1匹でも多くのピットブルを救いたい」という想いが、缶バッジと私を引き合わせた。


バッジマンネット:
缶バッジの制作を始めたきっかけを教えてください。

石渡チカ:
ベックさんの缶バッジとは、アメリカン・ピットブルテリア(通称ピットブル)を保護する活動を通じて出会いました。私は、ピットブルという犬種が大好きで、今も6匹のピットブルと暮らしています。

ピットブルは、忠誠心が強くとても良い犬です。でも、闘犬として使われていることもあって、危険な犬というレッテルを貼られて、虐待されたり、随分ひどい扱いを受けてきました。

命令に必ず従うというピットブルの忠実な性質を利用して、人間が危険な犬に仕立て上げたのですから、ピットブルは何も悪くありません。それなのに、多くのピットブルが殺処分されています。




バッジマンネット:
ピットブルは、普通にペットとて飼うのは難しいのですか?

石渡チカ:
そうですね。日本では、ペットとして飼う人は少ないかもしれません。でも、アメリカではかなり前から、多くのピットブルが家族として迎え入れられてきました。飼い主が愛情をかけて育てれば、必ず応えてくれる素晴らしい犬なんです。

ある時、Facebookに掲載されていた殺処分を待つピットブルの記事を見て「これは私が何とかしなくては。日本からできるサポートを今すぐ始めよう」という強烈な直感に動かされて、ピットブルを保護する活動を開始しました。




バッジマンネット:
具体的にはどのような活動をされたのですか?

石渡チカ:
最初は、自腹でピットブルの里親になってくれた人に寄付をしていましたが、もっと活動を広めたいという想いから、経営していたヘアサロンで、Tシャツなどオリジナルアイテムを作成し、販売したお金を寄付することにしました。

グッズを購入することで寄付に協力してくれた方には、里親の家族と幸せに暮らすピットブルの写真を送っています。この活動は今も継続して行っています。




バッジマンネット:
ピッドブルが里親と幸せに暮らす様子が分かると寄付された方は嬉しいでしょうね。オリジナルグッズはどんなものを制作したのですか?

石渡チカ:
ピットブルを保護する活動を始めようと決めた時、真っ先に相談したのが、Badge-Design-Labo(BDL)の缶バッジデザインも手掛けるキタイシンイチロウさんでした。

私とキタイさんは、仕事を通じて知り合って何十年も親交があります。「こんな活動をするんだけど、どうしたら良いかな」と相談したら「作りたいものを作りなよ。僕がサポートするから」と言って頂けました。

最初に作ったのはキャップでした。ある時、キタイさんから「缶バッジなんてどうですか」というお話を頂いて「ああ、缶バッジって昔、カバンに付けてたな。そういうのあったな」と衝撃を受けたのを覚えています。

ベースになる絵は私が描いて、デザインは全てキタイさんにお任せしています。お願いして直ぐにデザインした缶バッジが出来上がります。とにかく缶バッジの制作は楽しいです。





田舎に移り住んだことで、より自分のやりたいことが明確になってきた。

バッジマンネット:
石渡さんは普段どのようなお仕事をされているのですか?

石渡チカ:
今は勝浦に住んでいるので、遠隔でヘアメイクのコンサルをしたり、ミュージシャンやアーティストのツアー写真の撮影などを行っています。それから、年に何回かは都内に行って「日本のヘアスタイルの流行を作る委員会」の仕事や昔のお客さんの髪を切っています。

最近、芸能界の方だけでなく一般の方のSNSのアイコンなどに使う写真を撮る仕事も始めました。写真を撮られるのは苦手という人は結構多いですよね。

私は、職業柄もありますが被写体の魅力を引き出す写真を撮るのが得意なんです。出来上がった写真を見て「こんなにカッコよく撮って貰えるなんて」「みんなに自慢したい」と喜んでもらえるとすごく嬉しいです。




バッジマンネット:
技術的に優れた写真と感動を与える写真は違いますか?

石渡チカ:
そうですね。技術だけではどうにもならない部分があると思います。SNSの撮影もそうですが、最近は「自分にしかできないことを恥ずかしがらずに仕事にしよう」と決めて、やりたいことは躊躇せず挑戦しています。

バッジマンネット:
石渡さんは都内で長年お仕事されていたそうですが、勝浦に住んで変わったことはありますか?

石渡チカ:
今までずっと「何時に起きて、何をどこまでやらなければいけない」という焦りや制約の中で仕事を続けてきた気がします。そういう身体に染み付いた柵を一枚ずつ脱いでいって、今になってようやく楽に生きられるようになりました。やっぱり、ワクワクして可能性に向かっていくことが大事だと思います。






缶バッジに関しても「この人が缶バッジを作ったら周囲に影響を与えそうだな」というミュージシャンや美容師さんみんなに声をかけてみたんです。そしたら、アルバムのノベルティや美容室の記念に作りたいということで300個以上の缶バッジが出来ました。

数字や利益を追求するのも大事ですが、それを超えたところにある「好きなこと」「やってみたいこと」に正直に向かうことで、仲間とのつながりや未来につながっていくのかなと思います。



マスクに隠れていた「最高の笑顔」を缶バッジに。止まっていた恋が動きだす。


バッジマンネット:
缶バッジに関して、何か印象に残っているエピソードなどはありますか?

石渡チカ:
ピットブルの保護活動では缶バッジに助けられました。レスキューの方々とのつながりを深めるために、オリジナルの缶バッジを作って渡米したのですが、その時は「ワーオー!!」と非常に喜んで頂くことができました。

缶バッジにはメッセージ性もありますし、気軽に缶バッジを渡す文化がアメリカでは既に根付いているのかもしれません。

缶バッジのノスタルジックなイメージや、いい意味でのアナログ感は「無駄の美学」を象徴していて大好きです。コストも安くて簡単に作成できるのも良いですね。




今思いついたのですが、名刺の代わりに缶バッジを渡したら面白いかもしれません。

缶バッジは、一度デザインすれば、何個でも簡単に制作することができます。名刺は仕事で必要なので持っていますが、保管場所にも困りますし、そもそも「名刺文化」自体があまり好きではありません。

オリジナルの缶バッジは貰っても嬉しいですし、引き出しを開けてお洒落な缶バッチが並んでいたら楽しい気分になるのではないでしょうか。「缶バッジ名刺計画」凄く良いと思います。

特に最近は、コロナ禍でオンライン会議が多いですが、何十人も参加すると誰が誰なのか全然分からないことが多いです。そんな時に、オリジナルの缶バッジを付けていたらすぐに覚えてもらえるし重宝されるのではないでしょうか。

バッジマンネット:
コロナ禍といえば、最近はマスクで顔が半分見えず恋愛が始まらない、結婚しない、子供が増えないことが深刻な問題になっているようです。

石渡チカ:
確かに、マスクの下の顔が分からない状態で恋に落ちるのは不安ですね。コロナ禍で外出も減ってファッションに対するモチベーションが下がるという声も聞きます。

「缶バッジ名刺計画」に続いて思いついたんですが、自分の一番可愛い顔を缶バッジにして洋服に付けるのはどうでしょう。恋愛が始まるかもしれません。とびきり可愛く撮ったり、モデルみたいにカッコ良く撮るのは私の得意分野です。缶バッジ作りませんかってInstagramで提案してみます。




バッジマンネット:
缶バッジの使い方は無限にありそうですね。

石渡チカ:
今、知人が「石垣島プリン本舗」という会社を譲り受けた関係で、キタイさんとデザインチームを組んで商品のプロディースを手がけています。スイーツ自体は凄く美味しいので、デザイン次第で絶対に売れると思います。

例えば、プリンを買ってくれた人に「プリン食べました」という缶バッジを渡したら楽しいですよね。報酬は今の段階ではもらっていません。「石垣島プリン」がミリオンセラーになった時で良いか、なんて話しています。




バッジマンネット:
利益や数字を超えたつながりは素敵ですね。コロナ後は特にそういう「つながり」が主流になりそうですね。

石渡チカ:
そうですね。特に、都内はコロナ禍で夜の外出も制限されて、鬱々している人が多いのかもしれません。髪を切りに都内からいらっしゃるお客さんは、古民家など案内して、ゆっくりと過ごしてもらいますが「すごく元気になった」「必ずまた来るから」と言われます。

勝浦でリフレッシュしてもらえたら私も嬉しいですし、ピットブルの保護もそうですが、自分にしか出来ないことに楽しく挑戦する。これこそが私が本当にやりたかったことなんだと気が付きました。

ゼロスタートでも楽しくやっていればいつか形になる。缶バッジと私の仕事への心意気って凄く似ている気がします。これからも、缶バッジと一緒に楽しく進んでいけたら良いなと思います。