日本の宇宙開発の最前線に立つJAXA(宇宙航空研究開発機構)。

そのJAXA施設の立地が縁となり、北海道から鹿児島県に及ぶ自治体で、自治体間で交流をする枠組みがつくられました。

その枠組みはユーモアをもって 「銀河連邦」 と名付けられ、現在5市2町の自治体が参加し、宇宙への夢とロマンを育むために活動をしています。



「銀河連邦」を組織する、7つの「共和国」とは?


銀河連邦では、「共和国によって銀河連邦を組織する」というSFのような設定のもと、5市2町の各自治体が共和国としての呼び名を携えて加入しています。

銀河連邦を組織している共和国(自治体)は北から、タイキ共和国(北海道大樹町)、ノシロ共和国(秋田県能代市)、カクダ共和国(宮城県角田市)、サンリクオオフナト共和国(岩手県大船渡市)、サガミハラ共和国(神奈川県相模原市)、サク共和国(長野県佐久市)、ウチノウラキモツキ共和国(鹿児島県肝付町)。




例えば2011年の東日本大震災では、甚大な被害を受けたサンリクオオフナト共和国に対し、他の共和国からすぐさま物資が供給され、多くの人員が応援に駆けつけたそうです。

「もうすぐ震災から10年が経ちますが、今も相模原市の職員が大船渡市の市役所で働くという形で復興支援を続けています。」

そうお話ししてくださったのは、銀河連邦本部 サガミハラ共和国専門官こと、相模原市観光・シティプロモーション課 久保田修平さんです。



銀河連邦本部 サガミハラ共和国(相模原市役所)久保田修平さん

久保田さんによると、銀河連邦の交流活動は、子ども留学交流事業、スポーツ交流事業、経済交流事業という三本の柱で成り立っているそうです。

スポーツや経済など、宇宙とは別の分野のようにも感じられるかもしれませんが、銀河連邦は、子どもの教育やスポーツの大会、あるいはそれぞれの地域の特産品といった、市民の方たちの暮らしに近いところから宇宙への興味を持ってもらうことを目指して活動されています。



「銀河連邦こどもワールドサミット」に世界中の宇宙に縁のある街から、子どもたちが集まった


子ども留学交流事業では、2泊3日の宿泊交流が、銀河連邦の設立初期から30年近くにわたり行われています。

各共和国の小学校5年生約40名が一堂に会して、JAXAの施設で職員から話を聞いたり、星空観望会で宇宙に関する知識を増やしたりといったプログラムを体験します。

北海道から鹿児島まで、遠く離れたところに暮らす子どもたちが触れ合う機会もなかなかないことですが、2017年度は銀河連邦建国30周年を記念してその範囲を世界へと広げ、ウクライナやフランス領ギアナなど海外の子どもたちも参加した「銀河連邦こどもワールドサミット」が開かれました。




その内容について、久保田さんは次のように言います。

「銀河連邦と海外の子どもたちが『宇宙や地球の未来』をテーマにサミットを行い、一つの意見にまとめ、『未来へのメッセージ』を発表しました。」

「銀河連邦には、未来を担う子どもたちに宇宙や科学に興味を持ってもらえる環境があります。近い将来、銀河連邦育ちの科学者や宇宙飛行士が多く活躍してくれることを楽しみにしています。」



地域の特産品を集めた物産展から、宇宙への興味を呼び込む


7つの共和国には、例えば日本一の大きさを誇るパラボラアンテナや、大気球を用いた宇宙科学実験場など、特色のあるJAXA施設があるとともに、各共和国の特産品にも特徴があります。

銀河連邦では、そうした各共和国の特産品を持ち寄った「銀河連邦物産展」を、経済交流事業として長年実施しています。

久保田さんは次のようにお話ししてくれました。

「秋田県のノシロ共和国は、白神ねぎが有名で、市役所にねぎ科があるほどなんです。甘くて美味しいんですよ。宮城県のカクダ共和国は『3め』と言われる米、豆、梅を中心とした農作物の産地で、特に梅干しは銀河連邦物産展でも人気を博しています。また、鹿児島県のウチノウラキモツキ共和国は和牛コンクールの情報が町の広報に載るくらいに食肉の酪農が盛んなんですね。」

「探査機『はやぶさ2』が帰還したタイミングで銀河連邦物産展を開催したら、色々な人が興味を持ってくれるかなと思います。」



JAXA相模原キャンパスでは、2010年に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」の開発・運用が行われていた。実物大模型が展示されている。

サガミハラ共和国内のJAXA相模原キャンパスでは、宇宙探査機「はやぶさ2」の開発が行われました。

「はやぶさ2」は今年の年末にも、小惑星リュウグウの地表サンプルを持って帰ってくる予定です。サンプルや、サンプルを格納したカプセルは、ぜひ相模原で一般公開できれば、と考えているそうです。

そうした一般を対象としたイベント開催時には、缶バッジを入場券代わりに来場者に配って身につけてもらっているとのこと。

その理由を久保田さんは次のように教えてくださいました。

「チケットを印刷してお渡しする、郵送するとなると、経費がかかってしまうんですね。市で開催する無料のイベントですので、コストをなるべく抑えたい。」

「缶バッジは材料を在庫で持っておけば、バッジのデザインはこちらで自由に変えることができます。イベントによって必要な数量だけを自分たちの手でつくることができる。200個くらいなら、一晩あれば間に合います。」




「偶然だったんですけど、缶バッジを記念品としてお渡していたら、その場で皆さんが身につけてくださったんですね。それを見て、缶バッジを入場確認に使えると思いついきました。」

「イベントにお申込みいただいたら、当日お名前を確認して缶バッジをお渡しする。あとは『バッジを見やすいところにつけておいてくださいね』とアナウンスすれば済んでしまいます。缶バッジなら、合わせて記念品としてもお持ち帰りいただけますしね。」



2010年小惑星探査機「はやぶさ」帰還カプセル初公開イベント時にはたくさんの人が相模原に詰め掛けた

銀河連邦の缶バッジは、所属する7つの共和国それぞれの「銀河連邦ヒーロー」の写真など子ども向けのものだけでなく、探査機などがデザインされているものもあるので、大人の背負うバックパックに着けても違和感がありません。

毎年イベントで2種類は作成しているという入場確認の缶バッジ。現時点で20種類以上もあり、これからもどんどん増えていく見込みです。

これから銀河連邦では、缶バッジをコレクションしてくださっている方が「バッジを取っておいてよかったな」と思えるような活用の仕方も考えていきたいというお話です。




銀河連邦では、それぞれの共和国の首脳が集まってフォーラムを開催するなどして30年以上もの間、協力関係が維持され、様々なイベントが企画されてきました。

そうした取り組みの効果もあってか、相模原市の酒屋さんが、大船渡市の地酒をお店で扱い「酒援」という取り組みをスタートさせるなど、民間レベルでも交流が行われるようになってきています。

気づけば、最初に銀河連邦の子ども留学交流事業に参加したお子さんは今年40歳。その子ども、孫、ひ孫の世代まで見据えて、銀河連邦は人々の宇宙への夢を支えながら活動の幅を広げ続けていくことでしょう。