楽器をいくつか挙げてみると、ピアノやギターなどメジャーな楽器はすぐに頭に浮かぶかもしれませんが、スネアドラムといった打楽器が頭に浮かぶ人はあまり多くないかもしれません。

それもそのはず。打楽器は演奏人口が極端に少なく、中学校や高校の吹奏楽部でも、学校によれば60人バンドのうち打楽器を担当するのは4〜5人程度しかおらず、習い事としても一般的ではないからです。

そうした中、全国でも珍しい打楽器専門店として大阪で約30年に渡って営業を続けてきた Drum Shop ACT は、「どらむ村」の愛称で長年ファンから親しまれており、打楽器の販売、修理、レンタルに至るまで包括的なサービスを行う打楽器の駆け込み寺として親しまれています。




関西で「打楽器といえば、どらむ村」と絶大な信頼を誇る同店。実は約半年ほど前からお店で缶バッジを活用した「未来のお客さんづくり」に取り組んでいるようです。

そこで今回は、どらむ村副店長の瀬部愛子さんに詳しくお話を伺いました。



未来の顧客である中高生と繋がりを作る缶バッジ「何も買わずに帰っていくお客さんが減った」

今回お話を伺った瀬部愛子さん。缶バッジは店頭のガチャガチャで販売しているそうだ。

従来、コアなファンから支持を集めてきたどらむ村が缶バッジを導入するキッカケとなったのは中高生との関わりからだったと瀬部さんは話します。

「これまでロックを演奏されるお客様が中心だったのですが、最近は中学校や高校などの吹奏楽部とも関わりが増えてきました。毎年春に行われる学生の打楽器イベントにも参加するようになったんです」




「そのイベントには大勢の中高生が参加していて、物販コーナーで中高生たちがドラムのスティックやスティックケースを参加記念として購入していくのですが、あまりお金を持っていない学生たちの中にはせっかくイベントに来たのにも関わらず、何も買えずに帰ってしまう子たちもいるんです」

「そこで学生でも気軽に買えるものを作ろうと思いついたのが缶バッジだったんです。自分が担当している打楽器の缶バッジがあったら嬉しいだろうと思い、様々な打楽器の缶バッジを作成しました」



どらむ村の缶バッジはポップなカラーが特徴的。学生たちが持ち歩くスティックケースは黒一色で地味なものが多いため、缶バッジをつけると色が映えることから、学生に人気だと瀬部さんは話す。

打楽器イベントで販売した缶バッジが好評だったことから、瀬部さんは店頭に缶バッジのガチャガチャを設置して、常時販売することを決めたと言います。

「弊社には中高生がグループで買い物に来ることがよくあるんです。だいたい5月ごろになると、吹奏楽部の先輩が1年生を連れて、スティックの選び方とかを後輩に教えるんです」

「缶バッジを導入してから変わったのは、何も買わずに帰っていく学生が減ったことでしょうか。スティックは1セット1000円くらいするのですが、中高生にしてみれば決して安い買い物ではありません。でも、缶バッジであれば買っていけるんです。『ガチャガチャやりたいので両替してください』と言ってくる学生が本当に増えましたね」



演奏人口が少ない打楽器。未来の演奏人口を缶バッジで増やしたい。


このように学生たちから好評の缶バッジですが、ここまで缶バッジに反響があるのは、そもそも打楽器のグッズがほとんどないことに理由があるようです。

「音楽をやっている人は、自分が演奏する楽器がデザインされたグッズを持ちたがります。キーホルダー、クリアファイル、トートバッグなど様々なグッズがありますが、打楽器のグッズってほとんど売っていないんです」

「それは演奏人口が少ないことが理由の一つだと思います。習い事ではピアノ、バンドではギター、吹奏楽部ではクラリネットやトランペットといったように、音楽に携わる人の中でも打楽器と接点がある人ってほとんどいないですよね。そもそも市場が小さいから、打楽器のグッズで作られないんだと思うんです」

「グッズを作ろうと思えば、ある程度大きなロットで発注しなければなりません。そうなると、あまり人気のない打楽器のデザインは採算を考えるとどうしても作られなくなるんです。でも、缶バッジであれば1個から作ることができるので、他社では作ることのできない打楽器のグッズを用意することができると言うことなんです」




これまでコアなファンから愛されてきたどらむ村。しかし今後は、従来のファンを大切にしつつも、缶バッジを活用して未来のお客さんづくりに繋げていきたいと考えているそうです。

「缶バッジで中高生たちに喜んでもらうことは、次の世代を開拓することに繋がると思っています。今の若い世代に打楽器の魅力をしっかりと伝えていかないと、大人になってお金を使う年齢になったときに、打楽器を辞めてしまっているかもしれません」




「打楽器はピアノやギターと違って続けにくい楽器です。小学校のときに音楽室で初めて打楽器に触れて、興味がある子は中学高校と続けますが、そもそも大きい楽器だから購入して自宅で練習するような楽器ではありません」

「なので、高校を卒業すると自然と打楽器から離れていく子も少なくないんです。だからこそ、中高生の彼らが打楽器に触れている今、その魅力をしっかりと伝えたいんです」

関西屈指の打楽器店として既存のファンを大切にしつつ、長期的な目線で、未来の顧客づくりに力を注ぐどらむ村。そんな同社の試みに缶バッジが使われていることを知れて嬉しく思います。