香港を中心としたアジア諸国でキャラクターやフィギュア熱が高まる中、日本の制作プロダクション デビルロボッツ に所属するキタイシンイチロウさんという日本人デザイナーのキャラクターに注目が集まっています。

キタイさんはこれまで数多くのキャラクターを手がけ、フィギュアやLINEスタンプなどとして販売されているものもありますが、その中でも代表作と言えるのが「トーフ親子」というフィギュアやキャラクターです。



トーフ親子

トーフ親子は最近では「うまい棒」を始めとした様々な商品とコラボ企画を行っており、10年以上前からその活動範囲をアジア各国にまで広げています。その際、キタイさんはプロモーションツールとして缶バッジを活用しているのだそうです。

今回はキタイさんと共同で活動しているアーティスト、メルヘンりえこさんも交えて缶バッジの活用方法に関してお話を伺いました。



缶バッジとキャラクターと掛け合わせると、強力な非言語コミュニケーションツールになる

今回はお話を伺ったキタイシンイチロウさん(右)と、メルヘンりえこさん(左)

近年、アジアのキャラクターファンの間ではお気に入りのキャラクターフィギュアを常に持ち歩き、外出先で風景や食べた食事などと一緒にフィギュアを撮影して、それをインスタグラムにアップすることがブームになっているのだそうです。

こうした流れを受け、キタイさんはPRのためアジア各国で開催されるキャラクタートイイベントに積極的に出展しているのですが、その際に缶バッジをコミュニケーションツールとして活用していると話します。






「日本のマンガやアニメのおかげで、アジア諸国ではキャラクターが受け入れられる土壌が整っています。近年は香港、台湾、そしてインドネシアなどでキャラクター熱が高まっており、最近は出張でそうした国にイベントでそうした国に訪れる機会も増えました」

「そこで自分たちのキャラクターをPRするために、コミュニケーションツールの一つとして缶バッジを導入したのですが、それはキャラクターと缶バッジの相性が良いからなんです」

「キャラクターは非言語なものなので、日本語という言語の壁を超えてコミュニケーションができるんですよ。『かわいい』という感情は例え言語が異なっていても理解できますよね」



キタイさんの代表作「トーフ親子」(左)と、メルヘンりえこさんの「リボンちゃん」(右)

コラボイベントでの様子(写真提供:キタイシンイチロウさん)

キタイさんと共同で活動しているメルヘンりえこさんもコミュニケーションに関して、あるイベントでの出来事を話してくださいました。

「私は『リボンちゃん』というキャラクターを新しく作って、キタイさんのトーフくんとコラボさせて頂いているのですが、イベントに出展する際に缶バッジがコミュニケーションの橋渡しをしてくれるんです」

「私が服につけている缶バッジを見て反応してくださる方がいると、その場で取り外してプレゼントするんです。仮に言葉が理解できなくても、すごく喜んでくれて、ちょっとしたコミュニケーションができていると思います」



デザイナーが見せ方を工夫すれば、必ず缶バッジを手にとってもらえる


海外のアートイベントにも多数出展するキタイさんですが、缶バッジの「見せ方」にはデザイナー特有のこだわりが垣間見えました。

もともとフィギュアを購入してくれたお客さんに対して、無料で缶バッジをお配りしていたキタイさん。

現在は缶バッジ単体でも販売を行っており、一つあたり150円前後が相場のところ、「500円」という少し高めの値段設定をしていますが、それでもお客さんが手にとってくれるのだそうです。キタイさんはその理由を次のように話します。

「少し高めの値段設定をしていてもお客さんに買っていただけるのは見せ方に工夫をしているからだと思います。缶バッジに台紙をつけて見栄えが良くなるようにしているのですが、これだけで全然売れ行きが変わってきます。缶バッジというのは裸の状態で置いているとなんだか安っぽく見えてしまうんです」



同じ缶バッジなのに全く違って見える

「そこで考えついたのが台紙の活用です。デザイナー視点で考えれば、やはり缶バッジは情報量が多すぎるとシンプルではなくなってしまって『かわいさ』が失われてしまうんです。なので、本当に必要な情報のみを缶バッジに入れて、足りない情報は台紙で補完するというアイデアを考えました」

「また、台紙は缶バッジを映させる意味もあって活用しています。缶バッジの色に応じて、缶バッジを引き立てる色を選んだり、デザインを台紙に施して、缶バッジの良さを最大限引き立たせるようなデザインを心がけていますね」



クリエイター同士のコラボが活発化する時代に缶バッジの存在が垣間見える

あるイベントでのコラボの様子(写真提供:キタイシンイチロウさん)

缶バッジや台紙のデザインに最大限の工夫を仕掛けることによって、缶バッジを手に取る人が増えたと話すキタイさん。

そのかいもあって、缶バッジを起点にお客さんや他のアーティストたちとのコミュニケーションも活発化しつつあるのだそうです。

「イベント中やサイン会などで、お客さんが話しかけてくれることが増えましたね。会話の中で『キャラクターのここがもっとこうなったら嬉しい』といった感想も多く聞けたりして、少しずつトーフ親子のデザインもアップデートされてきたのだと思います」

「また、アーティスト同士のコラボレーションもよく行うようになりました。メルヘンりえことのコラボに関しても、イベントを通じて知り合ったことが理由なんです」



サイン会での様子(写真提供:キタイシンイチロウさん)

続けてメルヘンりえこさんはキタイさんと知り合った当時のことをこう話します。

「今でこそ『リボンちゃん』というキャラクターをデザインするようになりましたが、実はキタイさんに出会うまでは絵画を描いていて、キャラクター制作とは無縁だったんです」

「あるアートイベントで、トーフ親子のプロモーションをしていたキタイさんと出会って、この世界に飛び込みました。そこから私も缶バッジを使って、自分のキャラクターであるリボンちゃんの宣伝をやるようになったんです」




このように話す2人は、今後活動を続けながら新しい缶バッジの活用方法を模索していきたいと話してくださり、キタイさんはデザイナー教育として缶バッジを導入しても面白いかもしれないと話していました。

「デザイン学生の授業に取り入れても良いかもしれませんね。『缶バッジのような限られたスペースの中でいかにデザインするか』を考えることは良い勉強になると思います」

キャラクターの営業、言語を超えた相互理解、アーティストとのコラボレーション、そして未来のデザイナー教育にいたるまで、様々な側面で缶バッジをコミュニケーションツールと捉えて使いこなすキタイさんとメルヘンりえこさんの活躍に今後も注目です。