障がい者の社会進出に関する話題を耳にする機会が増えた昨今、積極的に地域社会との接点を見出す取り組みを行う福祉施設が増加傾向にあります。
神奈川県小田原市に拠点をおく社会福祉法人永耕会 デイセンター永耕 もそのうちの一つで、同施設は缶バッジを活用して社会との接点を作り出そうとしているようです。
そこで今回は同施設の所長である関正明さんと支援部長の香川浩志さんにお話を伺ってきました。
実はデイセンター永耕は先日取材した箱根ジオミュージアムから依頼を受けて缶バッジを制作しているのだそうで、今では小田原市の社会福祉協議会からも缶バッジ制作を受託するなど仕事の幅が広がりつつあるようです。そのことに関して香川さんは次のように話していました。
「箱根ジオミュージアムさんから缶バッジの仕事を受注してから、引き受ける仕事の幅が増えました。最近ですと、小田原市の観光ボランティアの修了バッジを缶バッジで作りました」
「小田原は観光地なので観光客を案内する観光ボランティアさんたちが大勢いらっしゃるのですが、中には障害を持たれている観光客の方もいらっしゃるんですね。そこでそうした方に対して福祉的な対応ができるような方を育成するために特別な講座が開かれます」
「車いすの誘導や知的障がい者への配慮の仕方を学び、講座を終了した方に『修了バッジ』をお渡しして観光案内の際に付けてもらうんです。そのバッジを缶バッジで制作しています」
高校卒業と就職をスムーズに繋げるワンクッションを缶バッジが生み出す
福祉施設の利用者たちが制作活動を行うなどして、地域社会へ積極的に関与する取り組みは、地域社会からの理解を促すとともに「障がいを持つ人たちの居場所づくり」にも繋がっているようです。
一般的に、障がい者の方は高校を卒業後の進路が限られており、学校を卒業すると自分の居場所を見出しにくくなると言われています。
そうした中、同施設の所長である関さんはデイセンター永耕を「高校卒業後に社会に出るまでのワンクッション」として機能させたいと話していました。
「高校を卒業した障がい者の多くは進学も就職もしないケースが多いです。中には就職を希望する方もいますが、急激な環境の変化は彼らにとって負担が大きいのです」
「学校の授業というのは1時間の授業ごとに休憩時間がありますが、実際に働きに出ると丸一日働いて休憩は昼休みの1時間のみですよね。生活のリズムが学校と職場では全然違うので、彼らにとっていきなり新しい環境に身を置くことは難しいのです」
「その意味では、学校と会社の間に『デイセンター永耕』のようなワンクッションがあるとスムーズに移行できるかもしれません。もちろん全ての利用者が就職を希望しているわけではありませんが、将来的に働きに出たいと考えている方にとって、就職に必要な心構えや生活リズムを学べる場を提供できればと思っています」
地域の子供たちに喜んでもらうことは、将来の理解者を育むことに繋がる
デイセンター永耕は数々の商品の受託生産を行っているのですが、こと缶バッジに関しては障がい者の方と相性が良いのだそうです。
通常、缶バッジの制作は同じような作業を淡々と続けなければならず、普通では飽きてしまう作業であるものの、障がい者の方にとって、複雑な工程を要する作業よりも、同じ工程を規則的に繰り返す作業の方が得意という特性があると言います。
そうしたことから、デイセンター永耕では彼らの特性を生かせる缶バッジ制作やパンの調理などが主な業務として扱われているのだそうです。
近年では利用者が作った商品を同施設で販売し、休みの日を利用して地域住民の方に物販を行っていると香川さんは話していました。
「本来、デイセンター永耕は障がい者が通う福祉施設ではありますが、地域の方々のご理解を得て地域とどのように結びつけるか、地域の方が気軽に立ち寄れるかというところを重視しています」
「地域の一部としてデイセンター永耕を捉えていただきたいと思っていて、特に地域の子どもたちに楽しんでいただけるよう意識しているんです。やはり子供の時から福祉施設に接点を持っていれば、将来的にこうした施設の理解者になってもらえるからです」
近年、全国各地の福祉施設が地域に開いた施設づくりに取り組む中、缶バッジ制作等を通じて社会と接点を作り出してきたデイセンター永耕の今後の活動に注目です。