従来の学校運営において、学校は学生に授業を提供していれば何の問題もありませんでしたが、少子化や学びの選択肢が多様になったことで、学校は余りはじめ、学校そのものの「存在意義」が問われる時代になりました。
そんな中、アニメを始めとしたサブカルチャーの聖地、東京・池袋に校舎を構える専門学校デジタルアーツ東京は、クリエイターの育成はもちろんのこと、在学中の学生に企業案件を任せるなど、従来の学校を枠を超えて活動を行なっています。
そこで今回は、専門学校デジタルアーツ東京のイラスト学科長、三井田大樹さんにお話を伺いました。
専門学校デジタルアーツ東京のイラスト学科長、三井田大樹さん。三井田さんが手に持っているのは、同校で缶バッジを製作する際に使用する缶バッジマシン
「うちは専門学校ですが、よく企業様や自治体から相談を受けるんです。例えば、ある企業様からイラストを書いてほしいという相談がありました」
「どういうことかと言いますと、これまで自社の製品を文章で紹介していたのが、もっと面白く分かりやすくするために、イラストやマンガを描いてほしいというのです。他にも取扱説明書の代わりに、マンガで使い方を説明したいなど、相談内容は多岐に渡ります」
これまでは考えられなかった分野にクリエイティブコンテンツが受け入れられるようになり、産業として成り立つようになった現在、高校生を始めとした若い人たちが、クリエイターを志すハードルは大きく下がりつつあると三井田さんは話します。
宣伝色を弱くすれば弱くするほど、絶大な宣伝効果を生み出す不思議なアイテム、缶バッジ
実際、専門学校デジタルアーツ東京が定期的に開催する体験授業には大勢の高校生が参加し、2回、3回と続けて参加する高校生が少なくありません。実は、この体験授業で缶バッジが活用されているのです。
「体験授業の際に、本校の学生がデザインした缶バッジを参加者の高校生たちに無料配布しているのですが、2回目以降に訪れる高校生の中には、前回配布した缶バッジをカバンに付けている方が少なくありません」
「彼らに話を聞いたところ、缶バッジを付けていると周りの友達から『それ何?』と聞かれるのだそうで、『デジタルアーツ東京でもらった』と伝えると、その友達も興味を持って一緒に体験授業に来てくれることもありました」
普通の宣伝チラシはすぐに捨てられてしまいますし、学校の名前が入った缶バッジも宣伝色が強すぎて使ってもらえません。
しかし宣伝色を取り払い、純粋にアイテムとしての価値を高めようとデザインされた缶バッジは、「グッズ」として受け取ってもらえ、結果的にそれが宣伝効果を発揮したのです。
缶バッジを配布・販売している学生たちの様子(写真提供:専門学校デジタルアーツ東京)
一見、何の缶バッジか分からないデザイン。しかし、分からないからこそ、それが会話のキッカケになり、結果的に学校の宣伝になる。(写真提供:専門学校デジタルアーツ東京)
こうして缶バッジをキッカケに集まった学生たちを2年間でプロのクリエイターに育成し、業界と繋げるのが専門学校デジタルアーツ東京の役目。
専門学校デジタルアーツ東京は、アニメ学科、声優学科、イラスト学科、コミックイラスト学科、ゲーム学科、ITソリューション学科、ノベルス・シナリオ学科、そしてフィギュア原型学科と、業界直結の8学科を擁する総合学園としての特徴を活かし、他学科との共同製作「学内コラボ」というちょっと変わった取り組みを行なっています。
「うちは実際の制作会社と同じことを学生にやらせるんです。例えば、ノベルス・シナリオ学科の学生が物語を書き、声優学科の学生が台本に声を当て、録音した音源のCDジャケットのデザインをイラスト学科の学生がデザイン、そして登場キャラクターのフィギュアをフィギュア原型学科の学生が作る、といった具合にです。これは総合学園としての強みですね」
クリエイターになりたい人と、クリエイターを求める企業が今後も増え続ける。学校の役割は彼らを繋げるコト。
学科を超えて他学科の学生たちが共同製作したアニメがエントランスに展示されていた
こうした実際の製作現場と同じ作業フローを在学中から経験する学生たちのレベルは非常に高く、そこに目をつけた企業や自治体が、学校を通して学生たちに仕事を依頼する機会が多いと三井田さんは話します。
「去年は目白警察から缶バッジを作って欲しいという依頼がありました。池袋周辺には外国人の方が大勢住んでいらっしゃるので、災害などの緊急時に外国語が話せる通訳スタッフが必要になるんですね」
「そこで、留学生に学生ボランティアの協力をお願いし、その際に一目でその人が『通訳』だと分かる缶バッジが欲しいとの依頼でした。その缶バッジのデザインを本校の学生が担当させて頂いたというわけなんです」
学業の合間に、同時並行で仕事も引き受けて短期間でスキルアップする学生たち
こうした仕事の依頼は学生だけでなく、すでに卒業したOBの元にも学校を通じて相談があるのだそうで、その意味では、教育、仕事そしてクリエイターが集まる専門学校デジタルアーツ東京は、クリエイティブ産業のハブのような存在だと言えます。
このことに関して三井田さんは次のように話していました。
「これまでは考えられなかった分野にクリエイターたちが求められるようになってきました。こうした動きは今後ますます加速し、『マンガにはこんな使い方があったのか!』というようなケースが増えてくると思います」
「『まさかこれがウケるなんて』ということが世の中にはまだまだあります。我々の役目は、学生に絵の描き方を教えるだけでなく、伸び代がある分野を見つけ出し、学生や企業様に提案していくこと。そして、クリエイターと企業様を結ぶ、そんな学校を目指しています」
クリエイティブ産業のハブ的な存在として、クリエイターを育て、彼らを必要とする企業に繋いでいく、専門学校デジタルアーツ東京。
従来の学校の枠組みを超えた新しい学校運営の中に、缶バッジの存在を垣間見ることができました。