1991年のピークを境に印刷業界は右肩下がりを続け、現在ではその市場規模がピーク時の半分にまで落ち込むなど、印刷会社各社は次の時代を生き抜く上で岐路に立たされています。
そんな中、愛知県名古屋市に拠点を構える 株式会社シー・アール・エム は自社の印刷技術を缶バッジやアクリルグッズなどに応用することで次の時代に活路を見出したようです。
今回は同社の水谷克治さん、大倉達憲さん、そして小倉帆志さんにお話を伺ってきました。
株式会社シー・アール・エムの前身である有限会社松村印刷所は、1948年に名古屋市大須で創業し、官公庁の冊子やチラシ制作を主に行っていました。
ところが2002年に現在の3代目社長が後継者として就任した当時、官公庁の仕事だけに頼っていればいずれ経営が厳しくなるとして、オンデマンドやインクジェットといった多品種小ロットのスタイルを確立していったと言います。
それに加えて同社が近年積極的に取り組んでいるのが缶バッジやアクリルグッズといった商品。
印刷会社が缶バッジ事業に参入するワケ
缶バッジを事業として始めた当時のことを、それぞれ次のようにお話いただきました。
「缶バッジ事業に参入する際、周囲の反応は『え?缶バッジやるの?』といった反応でした(笑)しかし、よく考えてみると世代を問わず缶バッジを知らない人はいませんよね。そういった意味で可能性がある商品だと思ったんです」(小倉さん)
「オタク文化が社会に認められたことも追い風になっていると思います。ガチャガチャ用の缶バッジをよく制作するのですが、ガチャガチャは自分が欲しいものがでるまでやり続けるものなので、皆さんが思っている以上にビジネスとして成り立ちやすいのです」(水谷さん)
「メッセージのビジュアル化も影響していると思います。今はご当地キャラクターなど町の魅力をビジュアルで表現する時代になりましたよね。そのアウトプット先として缶バッジが採用されることが増えてきました。実際、これまで個人で使われることの多かった缶バッジが、今では企業や自治体などが使い始めました。近年は中学校や役場からの注文が増えています」(大倉さん)
缶バッジの需要が拡大傾向にあることに加え、缶バッジは同社の印刷技術の応用先としてが相性が良かったことも、缶バッジ事業を始めた背景に挙げられると水谷さんは振り返ります。
しかし同時に缶バッジを事業として継続し続けることの難しさもあると大倉さんは指摘します。
「弊社には高い印刷技術があるものの、缶バッジ自体はマシンさえ導入してしまえば、正直なところ誰がつくっても同じというところがあります。そのため、自社の強みとして付加価値を付けなければならないと考えています」
「それは商品の質を高めることはもちろんのこと、新商品を出す頻度を高めるとか、その会社でしかできない取り組みが重要になってきます。これまで印刷会社が消費者に対して提供してきた付加価値というのは『圧倒的な安さ』なんです。しかし、安さで勝負をしてしまうと必ずどこかで疲弊してしまう。だからこそ、値段以外の部分で付加価値を付けなければなりません」
CRMの競争力を担保するのは“横軸”の組織体制「クロスファンクション(CF)」
値段以外のところで付加価値をつけるという意味で、CRMでは和紙を始めとした従来の缶バッジでは使われてこなかった素材を使用するなど、紙を専門に扱ってきたCRMならではの技術で缶バッジを作ってきたと小倉さんは話してくださいました。
缶バッジに付加価値をつけるためのこうした取り組みは、同社が採用する「クロスファンクション(CF)」という組織体制によって生まれたと水谷さんは話します。
「弊社ではクロスファンクションと呼ばれる横軸の組織体制を採用しているんです。一般的な企業には営業部やマーケティング部といった縦軸の組織図があると思うのですが、弊社では一般的な縦軸の組織様式を維持しつつも、企画開発などの際には部署関係なく全員でアイデアを出し合うんです」
続けて大倉さんも次のように話します。
「マネージャーとして現場を歩いていると、制作現場の人間がマーケティング的視点に優れていたり、一方で営業部の人間が制作現場が欲しがるような知識を持っていたりするなど、部署の枠を超えた知識を持っているスタッフが大勢いることが分かったんです。だったら一緒にアイデアを考えた方が効率的なのではと思い始めた取り組みです」
「開発専門の部署をおいても良いのですが、一部署で開発しようと思うとどうしてもアイデアがマンネリ化してきてしまう。それに素晴らしい案を考えても、実際にそれを商品化できるかどうかは制作部門の人間がいないと分かりませんよね。だからこそ、部署間を横断した企画開発が重要なのです」
CRMでは、「缶バッジ」「アクリルグッズ」「メニュー」「大判」の4つの商品が売り上げの多くを占めており、クロスファンクションを通じて毎月それぞれ1つ新しい商品の開発が行われています。
1ヶ月に4つの新商品、1年間で48個の新商品が作られることになり、これがCRMの圧倒的な競争力の源泉になっているようです。
缶バッジに力を入れたら、缶バッジ以外の商品がよく売れるようになったワケ
ここで興味深いのが缶バッジなど、本業の印刷以外の事業に力を入れれば入れるほど印刷の仕事が舞い込むという点です。
その点に関して水谷さんは次のように話します。
「実は弊社は、缶バッジのご注文やお問い合わせを頂いたお客様にアクリルグッズやポスターなどの印刷物のご紹介もさせて頂いているのです。これは従来の営業とは大きく異なるものです。と言うのは、缶バッジと弊社の商品は親和性が高いのです」
「例えば、缶バッジを注文されるお客様というのは、イベントに出展したり、展示会に参加するといったケースが多いんですね。なので、実は缶バッジだけではなく、その他グッズ、ポスター、バナーといった商品もお探しの方が多いのです」
「そのため、缶バッジを起点にして様々な商品をご提案する中で『じゃあ展示会で使うもの一式セットでお願いします』といったご注文を受けるようになりました」
印刷会社として缶バッジやグッズ商品に次の時代の活路を見出し、クロスファンクションという組織体制で競争力を担保してきたことに関して、水谷さんは次のように話します。
「新しい商品を開発することが、それ以外の商品の売り上げを伸ばすことに繋がった。プリントビジネスの世界で、多品種小ロットで様々なものが提案できることが自社の強みです。少しでも気になることがあればお気軽にご相談いただきたいです」
岐路に立たされている印刷業者にとって、CRMの取り組みは次の時代を生き抜くための重要なモデルケースとして今後注目されていくはずです。今後も同社から目が離せません。