アイスクリームやポテトチップスの成分表示表を見ると「植物油脂」という成分がよく目に入ります。
大豆油やひまわり油、オリーブ油など、細かく分けると様々な種類がある植物油ですが、世界で一番大量に生産されているのがアブラヤシの木から取れるパーム油という植物油で、人口の増加にしたがって今後も需要が増えると言われています。
しかし、アブラヤシは熱帯地方でしか育たないため、栽培量を増やすために熱帯雨林の伐採が進んでいるのです。
その中でも特に、オランウータンやゾウの生息地として有名なボルネオ島では、アブラヤシのプランテーションが拡大し続けています。
私たち日本人も、毎日大さじ一杯分ほどのパーム油を消費していると言われており、間接的に森林伐採に関与しているわけですが、そのことを認識している方は少ないのではないでしょうか。
その事実を、講演会やシンポジウムを通して日本の人々に伝えたり、実際にボルネオの森を買い取って、森林を守る活動をしているのが、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンです。
そこで今回は、事務局長の青木崇史さんにお話を伺いました。
活動内容を明確にするほど、共感して寄付してくれる人も増える「缶バッジ1つ分の寄付で、畳1畳分の森を守ることができます」
利益を生むことを目的とする企業に比べて、NPO法人の目的は社会問題を解決することであるため、必要な資金は、個人や企業からの寄付金などによって集められることが一般的です。
青木さんたちは、寄付金を募る際のグッズとして缶バッジを利用しているそうで、その理由について以下のように語ります。
「現地の方が持っている土地を寄付金で買い取って森を繋いでいく、緑の回廊プロジェクトっていうのをやっているんです。それを一般の方にどうやって協力してもらうか考えたときに、この缶バッジが役に立っています」
「土地の所有者と交渉して買っていくんですけど、1回につき、だいたい2ヘクタールくらいの土地を買うんですね。それにはまとまったお金が必要で、日本円でだいたい240万円くらいかかるんです」
「それを日本人の方にも分かりやすく計算すると、畳1畳分がちょうど200円くらいでした。それで、『缶バッジ1つ分200円の寄付で、畳1畳分の森が守れます』っていうキャッチコピーで缶バッジ募金をやっていたんです」
「なんのための寄付金かっていうことを理解していただきたいので、バッジ200円でいかがですか?という売り方ではなくて、我々の活動を理解していただいた上で缶バッジをお渡しするようにしています。一回のイベントで100個とか、200個くらいは出ていますね」
一般的に、寄付をする文化が日本は弱いと言われていて、イギリスのチャリティー団体である、Charities Aid Foundation(CAF)が「寄付金の額」などを指標に行なった調査によると、寄付指数は調査対象の137カ国中で111位だったそうです。
寄付に関心が集まらない理由の一つとしてよくあがるのが「寄付金がどのように使われているか分からない」という意見であり、NPO法人は、自分たちの行なっている活動内容を具体的に伝えることが大事だと言われています。
そういった意味で、缶バッジの200円という価格は、寄付金の利用先を明確にイメージしてもらうことに役立つため、寄付する方々も安心してお金を託してくれているのでしょう。
自由にデザインを変えることができる缶バッジは、飽きられることがなく、売れ残らないチャリティーアイテム
NPO法人の中には、多種多様なチャリティーアイテムを数多く販売することで、活動資金を得ている団体もあります。
しかし、ボルネオ保全トラスト・ジャパンは、物販を拡大していこうとは考えていないそうで、その理由について以下のように語ります。
「物販っていうのは、頂いた寄付金を活用して商品を制作し、利益を活動資金にするために行うんですけど、もしプラスにならなかったら、寄付金をうまく活用できなかったということになると思うんです」
例えば、作ったTシャツが売れ残って手元に残ると、その分使用した寄付金は無駄になってしまいますし、在庫管理も大変なのでしょう。それに比べて缶バッジは、売れ残りを気にすることがなく、安心してチャリティーグッズとして利用できるのだそうです。
「あたり前の話ですが、缶バッジは腐らないのでずっと持っておくことができます。缶バッジマシンをイベント会場に持っていき、支援者の方に好きなデザインを選んで作ってもらう、なんてこともできるんです」
「そうすると、前にイベントに来てくださった方がまた缶バッジを買ってくれることもありますし、大人の方とかはデザインを別々にして、5個とか、10個買ってくださいます」
そのように、柔軟にデザインを変えることができ、長い目で見れば売れ残ることがほとんどない缶バッジは、利用した活動資金を無駄にすることのない、優れたチャリティーアイテムだと言えるかもしれません。
また、缶バッジは寄付してくれた方の手元に残り続けるため、後から活動内容に興味を持ってくださる方もいらっしゃるのだそうです。
「パーム油は日本人も毎日のように使っているので、ボルネオの森林破壊の問題は、僕たちにも無関係ではないと理解していただくことが大事」と語る青木さん。
缶バッジ一つ一つはとても小さなものですが、支援してくださる方がボルネオの環境問題に想いを寄せるための、大きな役割を担っているようです。