高度経済成長期、増加する人口に対応する福祉サービスを提供するために、体育館や市民プール、そして図書館や博物館などの公共施設が一斉に整備されました。
しかし現在、人口が減少している地域の施設では利用者が減っていたり、老朽化により維持コストが膨らんだりしていることで、公共施設が地域の財政状態を圧迫していることが問題となっています。
その解決策として注目を浴びたのが、指定管理者制度でした。
指定管理者制度は、それまで自治体などに限定されていた公の施設の運営を、代わりに民間企業やNPOに任せることができる制度です。
導入の背景には、企業が持っている独自の経営技術を活かすことで、市民サービスの向上や、施設の維持コスト削減を図るためという理由があります。
つまり、指定管理を担当する団体は、自治体での管理が難しくなった施設を運営するための、高いビジネススキルを持っていることが必要とされる訳ですが、静岡県で18箇所もの施設の指定管理施設を担当しているのが、遠鉄アシスト株式会社です。
興味深いことに、遠鉄アシスト株式会社では施設の経営に缶バッジを利用しています。そこで今回は、特に缶バッジの利用が進む「浜名湖体験学習施設 ウォット」の担当者である木村英之さんにお話を伺いました。
デジタルでの集客とアナログでの物販は、相性が良いプロモーション活動
木村さんによると、ウォットはもともと利用者が少なく、小学生や幼稚園での遠足で来てもらった後、大人になってから、もう一度子どもを連れて来てもらうというように、一生の間に2回ほど来てもらえれば良いというような水族館だったのだそうです。
そのウォットの運営において、よりお客さんに足を運んでもらうために木村さんたちが力を入れたのが、SNSを利用したプロモーション活動でした。
特徴的なのは、ウォットが情報発信をするだけではなく、お客さんに情報発信を手伝ってもらえるように、館内にSNSにアップしてもらえるような工夫が仕掛けられている点です。
「例えばなんですけど、水槽についている説明書きって普通は魚の紹介が書かれていますよね。でもそれだと面白くないから、飼育を担当しているスタッフの苦労話とか、浜松の方言を織り交ぜたりして、クスッと笑えるような説明書きに変えたんです」
「この前なんかは、『クラゲの手入れが大変で、放っておいたら地獄絵図みたいになります』ってスタッフが書いたら、それを見たお客さんがSNSにアップしてくれて、いいねが18万も付くほどバズったんですよ」
「あと、うちは毎週日曜日に、カメラとマスクを持ったダイバーが水槽に潜ってお客さんとのやりとりをするんです。それも工夫して、この前は令和って文字を額縁に入れて、それを持ってダイバーに潜ってもらったりしました」
「そういう繰り返しがSNS上で話題になって、徐々にお客さんが増えてきています」
もともと、高校生までのお客さんは無料で入館できるということもあり、SNSを利用したプロモーション活動を続けることで、3年前には7万人ほどだった年間利用者数が、去年には12万人ほどまで増えました。
木村さんによると、来場者が増えるに従って、オリジナルグッズが欲しいという声がお客さんから聞こえるようになったのだそうです。
また、経営の観点からも、物販などを通して来館者にお金を落としてもらうための工夫は必要とされることなのでしょう。
オリジナルグッズの販売を開始した経緯に関して、木村さんは次のように語ります。
「浜松なので、ウナギを全面に打ち出して、Tシャツとか、タオルでオリジナルグッズを作ったんです」
「でも、Tシャツとかタオルって、1000円とか、1500円しますよね。そうすると、小さい子どもたちは手が出せないんですよ」
「そこで役立ったのが缶バッジです。200円だから子どもでも手が出ますよね。それに、缶バッジって若干アナログな感じがありますけど、それって子どもにすごく受けるんです」
「だから今では、タオルとかTシャツに関しては大人向けのアイテムで、缶バッジは小さなお子さん向けのアイテムっていう風に分けて、オリジナルグッズの販売を考えています」
遠鉄アシストのプロモーション活動が成功しているのは、デジタルを利用するSNSと、缶バッジなどのアナログ商品の良さをうまく組み合わせることができているからでしょう。
というのも、お客さんを呼び込む入り口の部分でSNSが活躍しても、オリジナルグッズなどを購入してもらわないと収益は上がりませんし、逆にいくらアナログの物販商品を用意しても、SNSでの集客力がなければ、そもそも販売することができません。
その意味では、デジタル機器を利用するSNSと、缶バッジなどのアナログ商品は、プロモーション活動においては相性が良いものなのかもしれません。
子どもたちにまた来たいと思ってもらうことが、プラスの循環を生み出す
木村さんによると、缶バッジは販売しているだけではなく、イベントなどでは無料の配布もしているそうで、その経緯に関して次のように語ります。
「お客さんが増えるようになってから、クリスマスのイベントの時や、夜間営業の時に、地域の学生にボランティアとして、ウォットの活動を手伝ってもらうようになりました」
「その活動の中で、来館してくれた子どもたちに塗り絵をさせて缶バッジを作ったり、イベントやゲームの景品として、作った缶バッジを配ったりしているんですね」
「そういう機会に作ったオリジナルの缶バッジは、子どもたちとスタッフたちとのコミュニケーションツールになるんです。缶バッジはそんなところでも活用させてもらっていますね」
経営の視点からいうと、無料で缶バッジを配布することはあまり意味のないことのように思えますが、遠鉄アシストがコミュニケーションツールとして缶バッジを利用しているのは、子どもたちに、また遊びに来たいと思わせる動機を提供することができるからなのかもしれません。
というのも、そのイベントを楽しんだ子どもたちは、またウォットに来たいと思ってくれます。
さらに、子どもが一人で水族館に来ることは考えにくく、必ず家族や友達を誘って来館してくれるため、最終的には来場者数を増やし、オリジナルグッズなどでマネタイズできる機会を増やすことに繋がるのです。
ウォットでは、SNSや缶バッジを利用して来場者数を増やし、最終的にはオリジナルグッズでマネタイズするというような、プラスの循環が生まれ始めています。
デジタルとアナログをそれぞれ有効に活用することで生まれたこのプラスの循環ですが、これはウォットのような水族館だけではなく、動物園や博物館、そしてテーマパークなどのレジャー施設でも応用できるものなのではないでしょうか。
そのプラスの循環において欠かせない役割を担っている缶バッジ。
アナログならではの力に、目を向けていただけると幸いです。