千葉県野田市に拠点を構える「あそびとくらすラボ」。
かつて地域の学年トップの優秀な生徒が集まる、知る人ぞ知る学習塾として活動していたあそびとくらすラボ(旧:じゅくFORZA)は現在、大人から子どもまでを巻き込んだ知のエンターテイメントを提供する場を提供しています。
そんなあそびとくらすラボでは、活動の一環として、缶バッジを活用しているそうです。そこで今回は、代表の岡田晃次さんに詳しくお話を伺ってきました。
バッジマンネット:
もともと子どもたちを相手にした学習塾として活動されていたとのことですが、どのような経緯で現在のような総合的な学びの場所を作ることになったのでしょうか?
岡田:
塾の役割って簡単なんですよ。生徒を学年1番にすれば良いだけですから。でも、子どもが生まれて「今やっていることを同じように自分の子どもにもやらせたいか?」と考えたとき、答えはノーだったんです。
そうした葛藤と戦う中、娘が生まれたのを機に学習塾をやめ現在の活動に方向転換しました。そして、子どもが巣立ったのを機に、子ども対象から、子どもから大人までを対象とした「あそびとくらすラボ」を立ち上げることになったんです。
バッジマンネット:
ちなみに、あそびとくらすラボさんではどのように缶バッジを活用されているのでしょうか?
岡田:
缶バッジは主に小学生を対象に使っています。どんな紙でも良いので、その中から自分が気になった部分を切り抜いてもらうんです。38mmの缶バッジに収めたい部分をとにかく一生懸命に探せと言っています。
正直なところ、別に缶バッジでなくても良いんです。結局ここで何をさせているかというと、「視点探し」なんですよ。
バッジマンネット:
視点探しですか?それは何か教育と関係あるのでしょうか?
岡田:
長年教育に携わってきた経験から、「歴史に詳しい」とか「計算がよくできる」とか…◯◯ができるということはあまり意味がなくて、大切なのは一見関係ないようなものの間に共通項を見つけて、それらを繋ぎ合わせて、新しい発想を生み出すことだと考えています。
バッジマンネット:
その入り口として、缶バッジを使われているということでしょうか?
岡田:
恐らく、現段階では、缶バッジの活用意図が見えてこないと思うので、いま取り組んでいることを説明しながらご説明しますね。
今は、大人を対象に「糸かけ」というアート作品のようなものを作っています。これはあらかじめ計算して、板に規則的に釘を打ち、順番に糸をかけていくと立体物ができるというものです。平面から三次元に発展するこの過程を「視点」と捉えて、大人に楽しんでもらいます。
岡田:
じゃあ、糸かけにおける「視点」とは何かというと、糸という直線が交わると曲面ができるということなんです。
実は、この法則っていろんなところに応用できます。例えば、スペインの世界遺産サグラダファミリアってクネクネとした曲線で作られていますが、あれは数学的にものすごく考えられているもので、直線を掛け合わせて作られているんです。
バッジマンネット:
糸かけって小さなお子さんから高齢の方まで楽しめるアナログな遊びというイメージがありましたが、糸かけからサグラダファミリアを説明できるって面白いですね。
岡田:
サグラダファミリアだけではありません。金沢駅前にある有名な鼓門や東京スカイツリーなど、曲線が印象的な有名な建築物は全て「直線」によって作られているんです。
何が言いたいかというと、どれだけ個性的に見えるものや特徴的なものであっても、必ず共通点があるということ。一見、共通項がないように思えるサグラダファミリア、金沢の鼓門、東京スカイツリーの共通点は「直線で作られていること」って考えると、世の中の見え方が面白くなりませんか?
缶バッジが上手に作れる、糸かけが上手にできる…それって意味ないんですよ。知識は断片的にあっても価値がないんです。今、自分が見ている景色をくり抜いて、そこからどこに繋げられるかを考えないと本質的な価値は生まれないんです。
本当は糸かけを通じて、子どもたちにもこう言った話ができれば良いのですが、子どもたち相手では限界があるのも事実です。そこで缶バッジを導入したのです。
バッジマンネット:
そういう事だったのですね。どんなものにも共通項がある、それを知るキッカケとして缶バッジが使われているのですね。
岡田:
あらゆるものは繋がっているので、正直なところ入り口はどこでも大丈夫なんです。でも、その肝心な入り口を見つけるには、まずは「自分はここが気になる」という視点がないと始まりません。
大人の場合はその入り口が「糸かけ」なのですが、子どもたちには視点探しとして缶バッジを作らせているという事なんです。
バッジマンネット:
缶バッジと一口に言っても、その制作プロセスの中で気になることってたくさん出てきますよね。それを糸口に、知の冒険に突き進んでいくのですね。
岡田:
そうだと嬉しいのですが。いずれにせよ、缶バッジは「物をボーッと見ない」練習になっていると思うんです。自分は何に惹かれるんだろうと一生懸命に何かを探す練習になっていると思います。
バッジマンネット:
総合的な知のエンターテイメントの入り口として、缶バッジが使われていることをすごく嬉しく思います。最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?
岡田:
私が本質的な学びを大切にしているのは、今の社会が何か間違っていると感じているからです。世の中的にいえば、若い世代がイキイキして「日本これから面白くなるぞ!」って勢いを持って生きているべきだと思うのですが、現実ではそうではない。
世の中を変えるのはあまりにも時間がかかるし、個人ではどうすることもできないことの方が多いです。しかし、「世の中の見方」は自分で選べる。先ほど、糸かけとサグラダファミリアの関連性の話をしたら、すごく目をキラキラさせて聞き入ってくださいましたよね?つまりそういうことです。
ありふれた風景も、自分の視点次第で面白くなる。世の中を面白い視点で見られる人をこれからどんどん増やしていくのが当面の目標です。
◆取材協力
あそびとクラスラボ/岡田晃次さん