大量消費の時代から一転、「モノを大切にする」や「モノを繰り返し使う」という価値観が浸透している現在、リサイクルビジネスに携わる店舗の数や市場規模が拡大しています。
しかし、扱っている商品が中古品であるがゆえに、購買手段が多様化して市場が膨らむほど、売り手と買い手との信頼関係をどのように構築していくかがますます大事になっていくと言えるかもしれません。
そうした状況の中、千葉県野田市で古着などの中古品を取り扱っている アキオーズ では、缶バッジや店舗の内装を活かしたブランディングから顧客との繋がりが生まれ初めているようです。
そこで今回は、「アキオーズ」オーナーのあきおさんにお話を伺います。
皆に受け入れてもらえる「ステキ」な場所では、お店のファンは生まれない
1986年に古道具屋として開業し、その後の古着ブームに合わせて古着の販売を開始、さらに今ではECにも販売手段を広げ、古着だけではなく古時計やリサイクル品も取り扱うなど、時代に合わせて形を変えてきたアキオーズ。
リサイクルショップのような業態においては一般的に、売り物が無造作に店舗に陳列されているイメージがあるものの、アキオーズでは店内に照明器具が設置されていたり、マイクが設置されているなど、内装に大きく手が加えられていることが特徴的です。
あきおさんによれば、売り上げはECの占める比率が多いそうですが、それでも店舗の内装にこだわっている背景には、アキオーズのブランディングという意図があるとして、次のように教えてくださいました。
「この場所は、私の価値観を発信する場所だと考えているんです。例えば、天井にはライトをたくさんセットしてるんですけど、全て自分で作って配置を考えて、お客さんの目線で見たらどう見えるかなって日々試行錯誤しているんです」
「ちょっと独特でも、こんな風に僕の価値観をここで発信していると、伝わる人には伝わって、お店のファンになってくれる方が生まれます」
「そして、そういう風にお店をすごく好きになってくれる方たちは『野田に面白くてちょっと変なお店があるよ』って、SNSとか口コミで他の方に僕のお店のことを知らせてくれたりするんですよね」
「僕のお店は、もともと人通りの少ないところにあるので、お店を凄く気に入ってくれた方たちが広げてくれる口コミが、本当に助かっているんです」
お店のファンになってくれるような方を増やすためには、誰に対しても好感を抱いてもらえるようにお店を作るのではなく、ちょっとクセの強いくらいが丁度良いと、あきおさんは以下のように続けます。
「僕の空間は、最近よくあるような綺麗なカフェとかと比べて『ステキ』じゃないんです。それよりも、『なんだこりゃー?』っていう雰囲気をわざと作っています」
「それはなんでかと言うと、『綺麗』とか『可愛い』っていう感情は、それで終わってしまう気がするんです。それに比べて『なんだこりゃー?』っていう感情は長く続くし、引っかかる人にはちゃんと引っかかりますよね。それに、僕からしてもそっちの方が面白く感じるんです」
お店の価値観には相性がある一方で、みんなが受け入れてくれるアイテムが缶バッジだった
こうしたお店作りは、価値観の合う人には刺さる一方で、価値観の合わない人には、なかなか受け入れてもらえないようにも思えます。
事実、あきおさんによれば、お客さんに受け入れてもらえないケースの方が多いくらいだそうですが、そんな時に顧客をガッカリさせないために役立っているのが缶バッジなのだと、あきおさんは以下のように語ります。
「『なんだこりゃー?』っていうお店の雰囲気だから、もちろんみんなが喜んでくれる訳じゃないんです。でも僕としては、そういう人を排除するんじゃなくて、来てくれた人みんなに楽しんで欲しいという気持ちも、もちろんあるんですね」
「だから僕は缶バッジを、店舗での販売用だけじゃなくて、無料でもお客さんにお配りすることがあるんです」
「例えばですけど、お店に来てくれて、もし僕の価値観に合わなかった時、お客さんはガッカリしてしまいますよね。でも缶バッジだったら、基本的にはどんな方でも受け取ってくれます」
「だから缶バッジをキーホルダーとかにしたものを、お土産のような形でお渡しするようになりました。そうすると、お店の価値観にはちょっと合わなかったお客さんでも、ニコッと喜んで帰ってくれることが増えるようになったんです」
配布から数年後、缶バッジを渡したお客さんから注文を受けるように
こうした缶バッジの利用方法は、顧客の立場からするとお得に感じる一方で、お店の利益には直接的な繋がりがないため、アキオーズにとってはあまりメリットがないようにも思えるかもしれません。
ですが、時間が経つにつれて、缶バッジが店舗の売り上げにも寄与し始めていると、あきおさんは最後に次のように教えてくださいました。
「最近になって、缶バッジを渡した人が2〜3年経ってから別件で注文をくれることがあるんです。僕のお店では広告活動とかはほとんど行っていないので、この缶バッジたちが宣伝代わりになってくれているみたいですね」
「例えば考えてみると分かりますが、グッチとかヴィトンとかはブランドが付いているだけで買ってもらえますけど、僕が自分のブランドのアイテムを作ったとしても、これを買ってもらうことはなかなか難しいです」
「でも不思議なことに『良ければこれどうぞ』って無料でお渡しすると、僕のブランドのアイテムでもお客さんは喜んで受け取ってくれるんですね。だから今ではどんどん渡すようにしているんです」
他の業種に比べ、ECの比率が高いと言われる中古品販売業界において、ブランディングという形で実店舗を利用しながら、顧客との信頼関係を生み出そうとしているアキオーズ 。
「缶バッジの宣伝効果は、時間がかかります」とあきおさんは苦笑いしますが、そんなアキオーズの取り組みに、缶バッジが着々と貢献し始めているようです。