ここ最近、スーツの襟元に、カラフルな17色の輪っかのバッジを身につけた人を見かけるようになりました。

この17色の輪っかはSDGsの公式ロゴで、このバッジをつけることにより「サステナブルな活動をしています」「SDGsに積極的に取り組んでいる会社に勤めています」など示すことができるそうです。

とはいえ二酸化炭素排出量においても、そもそも20年以上も前から減らさないといけないといわれてきたのに、ここにきてどうしてブームのように関心が高まっているのでしょうか…。



「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」は、2015年の国連総会で先進国・途上国を問わず、2030年の達成を目指す行動指針として採択された

その背景には、投資家による「サステナブル投資」が無視できないほどに大きくなってきていることがあります。

サステナブル投資とは、社会や環境にポジティブな影響を与える活動をしている企業や団体に投資することを言い、モルガン・スタンレーの最新の報告でも、投資家の85%がサスティナブル投資に関心があると答えたそうです。



SDGsは一時的なブームではなく、企業の価値を大きく左右する。

事実、SDGsにおいて大胆な取り組みを続けてきた「ウォルマート」は、今年コロナ禍にありながら株価最高値を更新し、世界を驚かせました。

かつてのウォルマートといえば、アメリカの大きなスーパーマーケットチェーンで、街の商店街の敵であり、地方の「ファスト風土化」を進めるような存在としてネガティブなイメージを持たれがちでした。



ショッピングモールやコンビニ、ファーストフードチェーンが地方の景色をどこに行っても変わらないテンプレートのように塗り替えていく

しかし現在はというと、例えばウォルマートのスタッフはビジネスやIT、サプライチェーンなどの資格が取得できるコースを、1日1ドルで受講でき、こうした教育プログラムを含め、ウォルマートは地域コミュニティをサポートする企業として受け入れられているようです。

続々とSDGsのアイデアを実践しているウォルマートは先月も、2040年までに配送トラックなどを全て電気自動車にすること、2025年までにパーム油や牛肉、大豆、紙、木材などの供給において森林破壊をゼロにすることなど、新たな目標を宣言しました。



今年9月、2040年までにゼロエミッション、2030年までに5,000万エーカーの土地と100万平方マイルの海を保護、管理、回復すると目標を宣言したウォルマート

振り返るとすでに8年も前の時点でウォルマートは、二酸化炭素排出量1000万トン以上の削減になったと言われるほど、膨大な量の廃棄物を再利用しています。

そして、この見返りとしてウォルマートにもたらされた事業価値はなんと、2億3000万ドル(約242億円)にもなったそうです。

SDGsにおける先駆的な企業となり、インターネット販売でアマゾンを猛追する勢力として注目されてきたウォルマート。

昨年、アメリカではついに消費者の過半数が、ショッピングの場所としてアマゾンよりもウォルマートを選ぶと答えたという調査結果も発表されました。



徹底的にゴミを出さないウォルマートは、2025年までにパッケージリサイクル100%を達成する。

2050年までに地球が3つ必要だというくらい資源の枯渇は迫っています。

従来の成長モデルのままでは上がり続ける原料コストで企業は消耗する一方でしょう。

「成長の限界」がささやかれる時代に、これまで破棄してきたもの、排出してきたもの、そして活かしきれていないものなど「無駄」になってきたもので「利益」を得ることが、成長へのたった一つの道だということは常識になり始めています。



ゴミの山ではない。富の山。

ほんの5年ほど前まで、日本での雇用の問題や温暖化などに対するサステナブルな活動は「企業のイメージアップ」のような枠で捉えられがちでした。

しかし、国際的な投資家の大半が、企業活動が及ぼす未来に対するリスクをシビアに見極めるようになったことで、ビジネスにおけるサステナブルの見方は「企業の死活問題」に転換したと言わざるを得ません。

加えて、例えばマスク一つを取っても「抗ウイルス」商品が数えきれないくらいあるように、商品力では大きな差がつかず、商品に“無関心な消費者”は今後ますます増えるという予測もあります。

企業がどこで消費者の信頼を得るか、誠実に向き合わなければならない時期に来ているようです。



質の悪いものはもうほとんどない。消費者が見ているのは「モノ」ではなくて「未来」になる

実際、ウォルマートの本国アメリカは、世界の主要国を対象に行われた相対的貧困率の調査(2017年)においてトップ5にランクし、先進国の中ではイスラエルに次いで困窮している人の多い国と言えます。

最上位0.1%の家庭が保有する富の量は、下から90%という大多数の家庭の富を合わせた量と同じというほどの所得格差があるアメリカ。

さてそこに、アメリカ人口の90%が店舗から16km範囲に住んでいる世界最大のスーパーチェーンで、雇用された人々が1日たった1ドルで勉強し資格を取得するようになり、人財としての価値を上げていくことができたらどうでしょうか。



ウォルマートはアメリカ全土で約600店。アメリカに暮らす人の90%が簡単にアクセスできる場所にある。

振り返れば1980年代までのアメリカでは、ハイテク企業の集まるカリフォルニアのようなリッチな州に人が押し寄せ、他の州を大幅に上回る人口増加率で成長していました。

ところが、90年を越えたあたりから、高所得を目指す移住のパターンよりもむしろ、技能の低い人たちが貧しい州へと出て行く方が顕著になっていったそうです。

例えば清掃の仕事にしても、都会の高騰した家賃や生活費に合わせて清掃員の収入は伸びていません。

都会の方がより多く稼げるとしても手元に残る金額を考えれば、貧しい州の方が豊かに暮らせるのです。



高技能・低技能で労働市場がくっきりと二分され、格差問題が硬直しているアメリカ

貧しい州には世界に名の知れた教育機関はありませんが、多くの人が仕事を得やすい“スーパーマーケット”はあります。

そこがこれまで学ぶ機会を得られなかった人の成長の場になれば、眠っていた能力はどんどん活用されていくでしょう。

2017年、フォーチュン500社の最上位にある企業は半分以上、移民が設立した会社だったそうです。

この国の成長は再び、貧しさをバネに人々が成功を掴み取ろうとするアメリカに戻れるかどうかにかかっているのかもしれません。



地方のスーパーからイノベーションが起こり、格差が縮まっていくかもしれない

無駄にしない「もったいない」は日本人の誇る素晴らしい精神として知られる一方で、モノの剰包装や「労死」など多くを求めすぎる現代の日本社会への批判は大きくなりました。

成長において「より多く」の価値観ではもう未来がありません。

私たちは「もったいない」が刷り込まれているためにかえってその影響力を掴みにくいのかもしれませんが、全ての面における無駄を徹底的になくす以外に成長への方法がないと、世界が実感しつつあります。



無駄によって、資源もお金も流れ出ていく

SDGsバッジの輪が17色で彩られているように、無駄にしないというコンセプトは水にも、食べ物にも、エネルギーにも、そして人にも当てはまります。

まだ活用できる状態で眠っている、捨てられる。それらを着実に無くすことで一歩ずつ、企業は存在価値を大きくしていく時代です。

SDGsバッジをつけてこれからの成長に対する意思表明をしてみるのはいかがでしょうか。




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