昨年ひっそりと開設されていた「さかなクン」のYouTubeチャネルが、登録者数を増やしているそうです。20年6月に開設されてから8ヶ月間で登録者は18万を超え、人気の動画は視聴回数100万まであと少し、というところまで来ています。

そのチャネルの動画では、さかなクンが300匹のお魚と暮らす日常を垣間見れたりもします。

「好きに勝るものはなし」を地で行くさかなクンを見て、もし何か心から情熱を傾けられるものがあったら、そしてそれを仕事にできたら…と思う人も少なくないでしょう。

昨今、仕事の多くが人工知能に奪われるというのが真実味を帯びていますが、実は、さかなクンのお魚好きのような、個人の嗜好性は人工知能にも代替不可能といいます。

というのも、人工知能は効率や最適解などを求めるものであるのに対し、個人の嗜好は無駄や偏りがあるものだからです。

実際、他人から見れば「こだわり」や「ストイック」に見えることも、それを心から楽しんでいる個人にとってはそれが好きだから真剣に取り組んだり、無意識に時間を費やしているに過ぎません。



好きという感情は、AIにも人にも教えることはできない。

人の脳にはもともと「仲間になりたい」という本能があるそうですが、YouTubeをはじめ、SNSで個性が人の心を動かす時代になり、ビジネスにおいても個人の嗜好で仲間を増やす取り組みが熱いようです。

例えば、HONDAが昨年新たにオープンしたウェブサイトは、その名も「バイクが、好きだ」。

自動車広告に押されてきたところもあり、バイクに特化して大々的に発信されるものは珍しかった中で、今回の「バイクが、好きだ」では、キャンプYouTuberのヒロシを始め、映像監督や声優などいろいろな分野の著名人が登場してバイク愛を堂々と語っています。

「あの人もバイクが好きだったのか」と、仲間意識を感じられる内容に興奮したバイクファンは少なくありません。



ウェブサイト「バイクが、好きだ」には、映像監督からお笑い芸人、冒険家、タレント、声優などさまざまな人が動画で登場する

実は「バイクが、好きだ」はこれまでもキャッチコピーとして使われていました。

「バイクが、好きだ」と一言書かれた缶バッジやステッカーなどのグッズもバイク好きの間では知られていたようで、ヘルメットにステッカーを貼った写真などSNSに共有され、バイク愛は語り合われています。

HONDAが新たにウェブサイトを設けたように、これからますます、「__が、好きだ」を軸に仲間を増やす戦略に重点が置かれ、個人の嗜好が生み出すビジネスは盛り上がっていきそうな気配がします。



「__が、好きだ」と言える場をいかにわかりやすく、さまざまに設けるか

バイク愛が人をつなげているのはHONDAに限らず、Ninjaなどのシリーズが人気のオートバイメーカー カワサキには「俺たちカワサキが好きだ」というキャッチコピーがあります。

カワサキのイベントでは「俺たちカワサキが好きだ」のコピーの入ったTシャツにパーカー、リストバンドと普段身につけられるようなグッズも販売され、これを合言葉に盛り上がっているようです。

「好きだ」と伝える場はSNSの世界からリアルな世界へ、缶バッジといった誰もが身につけやすいグッズを通じて身近なところでも仲間を増やす勢いを加速させています。



好きなものは、リアルな世界でも仲間を広げる

とはいえ、仕事が中心の生活において私たちは、平均的な服装に「社会人」の顔を身につける暮らしに慣れすぎて、個人的な嗜好を追いかける心の隙間はほとんどないかもしれません。

理性が働いている仕事モードで「__が、好きだ」という感情は発動し難いでしょうが、例えば、シンプルに缶バッジで「__が、好きだ」と身につけておくだけでも、身近に仲間を発見し、世界を広げる可能性を引き寄せられるのではないでしょうか。

企業においても「性能がいい」とか「新しい」ではなく、「好きだ」という感情で仲間を増やし、ビジネスを広め、ファンの人生を豊かにしている時代なのです。



ただバッジをつけているだけで、日常生活の中で仲間をつくるチャンスは自ずと増える

今すぐに「好きだ」と言えることがない場合、「子どもの頃に大好きだったこと」と思い出したり、「自分は何をうらやましいと思うのか」に注意してみてみると、心踊るような何かに近づけるかもしれません。

ちょっとした付き合いで食事をするくらいでも数時間と数千円が飛んでいくと思えば、もっと自分の好きなことのためにお金や時間を使い楽しむ方が、人工知能の進歩する未来も踏まえ、人の将来の可能性を広げるのに間違いなさそうです。



「努力」は「夢中」には敵わない。

世界におけるInstagramの月間アクティブユーザー数は10億人と言い、SNSによって世界中で好きなことを軸に見知らぬ人同士がつながっています。

そこからさらに、「__が、好きだ」という気持ちを缶バッジに託して身につければ、リアルな場で一緒に何かに打ち込める仲間が思うよりも近くに見つかるかもしれません。

さかなクンのようにハコフグの帽子をかぶるには勇気がいりますが、好きなことを示した小さな缶バッジをカバンにつけるところから、一歩踏み出してみるのはいかがでしょうか。