
近年よく「推し」や「推し活」といった言葉を耳にします。「推し」は、昔でいう「ご贔屓(ひいき)」に近い意味合いで使われていますが、その対象は人だけでなく、さまざまなジャンルに広がり、幅広い年齢層で楽しまれています。この「推し活」市場は急速に拡大し、今や無視できないビジネスチャンスとして注目されています。本記事では、推し活の市場規模や実態、その特徴について紹介しながら、推し活グッズビジネスのポイントを解説します。
推し活とは
推し活とは、自分がイチオシする対象を応援する活動全般を指します。以前はアイドルやアニメ・漫画のキャラクターなど限られた対象が中心でしたが、最近では音楽アーティスト、スポーツ選手、俳優、さらには動物、鉄道、建築物まで、応援の対象が大きく広がっています。
もともと「推す」という言葉には、「価値あるものとして推薦する」という意味があります。そこから派生して、何か自分の好きなものに対して支持している姿勢を示す活動を推し活というようになりました。熱烈なアイドルファンがお気に入りのアイドルを「推し」と呼んでいたことから、一般に広まった表現とされています。
推し活の具体的な行動としては、「推し」となる対象のライブやイベントに参加する、グッズを購入する、愛好家同士で集うなどがあります。推し活という言葉には「推しを応援する熱心な活動」というニュアンスが含まれるため、これまでの一般的なファン活動よりも、より個人的でディープな意味合いを感じさせます。
推し活の主な対象
推しの対象は非常に多様化しており、従来のアイドルやアニメキャラクターにとどまらず、あらゆる分野に広がっています。
- 音楽系:
アイドル、K-POP、地下アイドル、ソロアーティスト、バンド、音楽ユニット - 俳優 / 声優:
俳優、声優、ナレーター - アニメ / ゲームキャラクター:
アニメキャラクター、漫画キャラクター、ゲームキャラクター - VTuber / YouTuber / 配信者:
VTuber、ゲーム実況者、ライバー、ストリーマー - スポーツ関連:
プロ選手、アマチュア選手、チーム、eスポーツ選手、eスポーツチーム - クリエイター / 作家:
イラストレーター、漫画家、小説家、映画監督、作曲家、デザイナー - キャラクター / マスコット:
サンリオキャラクター、ディズニーキャラクター、ご当地キャラクター、企業マスコット - 動物:
動物園や水族館の動物や生き物、ペット - カルチャー系:
乗り物(鉄道、バスなど)、刀剣、建築物、仏像、アミューズメントパーク、伝統芸能、文化財
このように、推し活は特定のジャンルに限定されない幅広い現象であり、その多様性がビジネスチャンスの広がりにもつながっています。
推し活の市場規模や実態について
推し活の市場規模
推し活は、従来の「オタク市場」の枠を超えた新しい文化現象として注目されています。推し活の市場規模をとらえることは難しいですが、株式会社矢野経済研究所の「オタク」市場に関する調査(2024年調査)から、「オタク市場」の規模を知ることができます。
この調査によると、主要16分野の市場規模は2023年度に約9,700億円に達しています。2024年度は1兆円超と見込まれており、さらなる市場の拡大が期待されています。
分野別にみると、2023年度は市場規模が最も大きい「アニメ(345億円)」を筆頭に14市場が成長していることがわかります。なかでも「同人誌」は、コロナ禍の反動もあり最も高い成長率を記録しました。
同人誌については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 即売会とは?同人誌イベントの基礎知識から参加方法までわかりやすく解説 <<
※調査対象となった主要16分野
「アニメ」「同人誌」「インディーゲーム」「プラモデル」「フィギュア」「ドール」「鉄道模型(ジオラマ等周辺商材含む)」「サバイバルゲーム」「アイドル」「プロレス」「コスプレ衣装」「メイド・コンセプトカフェ、コスプレ関連サービス」「音声合成」「2.5次元ミュージカル」「トイガン」「ボーイズラブ」

出典:「オタク」市場に関する調査を実施(2024年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
推し活の世代別実態
株式会社博報堂と博報堂DYグループの株式会社 SIGNINGが2024年2月に発表した「オシノミクス レポート」によると、約3分の1の人が推しを持っていると回答しています。この調査では、男性よりも女性の方が推しを持つ傾向が高く、また年齢が若くなるほど推しを持つ割合が増加する結果となりました。
特に注目すべきは、Z世代(1990年代後半~2010年代前半生まれ)を中心とした若年層のデータです。10代では、女性の8割以上、男性の約6割が推しを持っていると回答しています。20代になると若干減少するものの、女性では約6割、男性でも約半数が推しを持ち続けており、若年層における推し活の浸透度の高さがうかがえます。
一方、50,60代でも10%以上の割合で推しがいると回答しており、年齢層を超えた文化として根付きつつあるともいえるでしょう。
出典:HAKUHODO HUMANOMICS 「オシノミクス レポート」 [PDF]
具体的な推し活の種類
博報堂と博報堂DYグループのSIGNINGが発表した「オシノミクス レポート」によると、推し活の形は、大きく「オフィシャルな直接的な活動」と「ファン同士の間接的な活動」に分けられます。
最も一般的な推し活動は、公式グッズの購入(46.7%)や公式SNSのフォロー(46.2%)など、推しを直接的に応援する行動であることがわかります。これらに加えて、ライブやイベントへの参加(30.4%)、公式ファンクラブへの入会(31.0%)など、より深い関わりを持つファンも多く存在します。
一方で、同じ推しを持つ人との交流(23.1%)や、SNSで推しについて情報交換(17.5%)といった、コミュニティを通じた活動もみられます。さらに、オリジナルアイテムの制作(9.7%)や二次創作・同人誌の制作(4.0%)など、より創造的な形での活動も一定数存在していることが調査結果から明らかになっています。

出典:HAKUHODO HUMANOMICS 「オシノミクス レポート」 [PDF]
推し活市場の3つの特徴
推し活市場にはどんな特徴があるのでしょうか。ここでは3つの特徴を紹介します。
幅広い年齢層への定着
かつてはアイドルファンの若者文化とされていた推し活は、今や幅広い年齢層に浸透しています。10、20代の若年層では、SNSでの情報発信や共有を重視した活発な活動が特徴となっている一方、30代以上の層では商品の品質や実用性を重視するなど、世代特有の消費行動がみられます。
また、年齢層の拡大によって、親子でのイベント参加といった世代を超えた新しいファン文化も生まれています。かつてのアイドルファンだった親世代が子どもと一緒にコンサートに参加したり、共通の推しについて語り合ったりする光景も珍しくありません。このような世代間の交流が、市場に深みと安定性を与えているといえるでしょう。
活動の多様化
推し活における活動は、商品購入やイベント参加といった直接的な消費活動から、SNSでの情報発信、オリジナルグッズの制作、二次創作まで、多岐にわたっています。オンラインとオフラインの境界を超えた活動展開が一般化し、デジタルプラットフォームでの応援とリアルイベントへの参加が相互に影響し合う形で市場を活性化させています。
ライブやイベント参加など推しとの「つながり」を実感できる体験に対する投資は、「モノ消費」から「コト消費」へのシフトを表す典型的な例といえるでしょう。
モノ消費・コト消費については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> コト消費とは? モノ消費との違いや注目される理由、主な例を解説 <<
>> モノ消費からコト消費へ変化する消費行動に企業はどう対応すべきか <<
コミュニティの形成
推し活市場の成長を支える重要な柱として、同じ対象を推す人々のコミュニティの存在があります。SNSでの情報交換やファン同士の交流が活発化し、それが新たな消費機会を生み出しています。公式商品の消費だけでなく、ファンコミュニティ発の商品開発や、二次創作市場の形成など、コミュニティを起点とした新しい経済活動も生まれています。
【ジャンル別・年代別】推し活グッズの種類
先ほど紹介した「オシノミクス レポート」からもわかるように、多様な推し活のなかでも、グッズ購入は最も一般的な活動となっています。自分でオリジナルのアイテムを作るなど、より積極的な形でグッズに関わる活動もみられます。
ここでは、推しの対象となるジャンル別の特徴的なグッズ、そして10代から30代以上までの推し活を楽しむ人々の年代別のグッズ消費傾向に焦点を当て解説します。
ジャンル別の推し活グッズ
まず、推しの対象ジャンル別に代表的なグッズを紹介します。
アイドル、音楽関連
昔から熱狂的にアイドルを応援するファンは存在しましたが、最近ではグッズが多様化しており、それぞれの楽しみ方も広がっています。例えば、次のようなものがあります。
- 肖像グッズ:
写真集、ブロマイド、カレンダー、DVD、アクリルスタンド - 実用品:
雑貨、文房具、アクセサリー、Tシャツ - コンサート / ライブグッズ:
うちわ、ペンライト、タオル
アニメ、漫画、ゲーム関連
キャラクターの推し活グッズは日常生活に取り入れやすいものが多く、自分の好きなキャラクターを身近に感じられる工夫が施されています。ぬいぐるみを部屋に飾ったり持ち歩いたり、バッグにキャラクターをプリントしたりと、推し活を日常に取り入れる方法もさまざまです。例えば、次のようなものがあります。
- キャラクターグッズ:
フィギュア、ぬいぐるみ、缶バッジ - コレクション品:
アクリルスタンド、トレーディングカード、ガチャ商品 - 実用品:
文具、マグカップ、クリアファイル、キーホルダー、コラボ菓子、痛バッグ、ハンドタオル、スマホグッズ
このジャンルのグッズについては、以下の記事でくわしく解説しています。
>> アニメ・漫画やキャラクターのグッズの種類や製作のポイントを紹介 <<
>> 同人グッズの種類とは? オタク需要をビジネスにするためのポイントを解説 <<
その他(鉄道、観光地、動物園・水族館、スポーツチームなど)
愛好家、ファンはさまざまなジャンルで以前から存在していましたが、近年はこうした対象にも推し活という言葉が適用されています。例えば、次のようなグッズがあります。
- 記念品:
ピンバッジ、缶バッジ、キーホルダー、マグネット 、ステッカー - オリジナルグッズ:
Tシャツ、トートバッグ、ステッカー - スポーツ用品(スポーツチームの推し活の場合):
ユニフォーム、タオル、応援グッズ
このジャンルのグッズ購入は、好きな地域や施設、チームの経済的支援につながる「応援消費」の意味合いを持つことも少なくありません。
応援消費については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 応援消費とは?特徴や種類、ビジネスにつなげるポイントを解説 <<
年代別の推し活グッズ
次に、推し活を行う人の年代別に、どのようなグッズが好まれる傾向にあるかをみていきましょう。
- 10代:
10代は、推し活に使える金額が限られているため、手ごろな価格でありながら満足感の高い商品が好まれる傾向にあります。カラフルで目を引くデザインのグッズが人気で、友人との共有や話題作りにつながるアイテムが重視されています。
また、独自のこだわりを表現するため、購入したグッズを自分流にアレンジしたり、自作のポーチやケースに収納したりするなど、クリエイティブな楽しみ方も特徴的です。SNS映えする小物も人気があります。 - 20代:
20代になると経済的な自由度が増し、より高額なグッズや限定品にも手が届くようになります。ファッション性が高く、トレンド感があるグッズで、SNS映えするものに人気があります。
また、職場でも違和感なく使える「推しカラー」のアイテムや、さりげなくファン心を表現できるネーム入りオフィス用品、スマホアクセサリーなど、大人の推し活を楽しむためのグッズも人気です。 - 30代以上:
30代以上になると、推し活グッズに対する価値観はさらに多様化します。
より長く使えるクオリティの高いグッズや、デザイン性・希少性を重視した商品が好まれる傾向があります。多少高額であっても、作りの良さや細部へのこだわりを感じられるグッズに投資する傾向がみられます。
推し活市場におけるグッズビジネス成功のポイント
推し活市場でグッズビジネスを成功させるためのポイントを紹介します。
カスタマイズ需要への対応
現代の推し活では、自分らしさや自己表現の手段として、個人の好みや使用シーンに合わせたカスタマイズ需要が高まっています。単なる量産品ではなく、個人の名前や好みのデザインを反映したパーソナライズ商品やオリジナルデザインの受注生産など、小ロットかつ個別ニーズに対応したサービスが市場で求められています。
例えば、「概念グッズ」は、公式グッズとは異なり、個人的な解釈や思い入れを形にした商品であり、カスタマイズ需要の代表例といえるでしょう。こうしたニーズに対応するには柔軟な生産・受注体制の構築が必要です。
カスタマイズ需要への対応にについてくわしく知りたい方は、以下の記事が参考になります。
>> パーソナライズ商品とは?基礎から成功例、缶バッジビジネスへの活用法も <<
>> 小ロットでもできるグッズ制作!注文手順や費用、失敗を防ぐポイントも <<
>> 概念グッズとは? 自分だけの推し活をしたい人におすすめのアイテムを紹介 <<
>> 受注生産とは?メリット・デメリットや注意点、グッズ制作に役立つ情報も <<
年齢層・コミュニティの特性に応じた商品戦略
推し活市場では、コミュニティを通じた情報共有や交流が消費行動に大きな影響を持ちます。同じコミュニティ内にもさまざまな年齢層のファンが存在するため、多様な推し活スタイルが共存していることも理解しておく必要があります。手ごろな価格帯の商品から高付加価値商品まで、コミュニティ内での評価や用途に応じた価格戦略が必要です。
また、ファン同士の交流を促す商品はコミュニティ特性を理解した商品企画も好まれやすいでしょう。商品展開をコミュニティ活動と連動させることで、推し仲間との一体感や特別な推し活体験を共有したいというファン心理に応えられます。
適切なマーケティングチャネルの活用
ターゲット層の情報収集や購買行動の特性に応じて、SNSやECサイト、リアル店舗など、適切なチャネルを選択することが重要です。世代だけでなく、ライフスタイルによっても好まれる接点が異なるため、ターゲット層に合わせたチャネル戦略の構築が求められています。
推し活に取り組むファンへの効果的なアプローチ方法については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 推し活マーケティングとは? 注目の理由と高い効果を得るためのポイント <<
>> ファンマーケティングとは?基礎知識や実践のポイント、成功事例を解説 <<
emoji_objects 推し活グッズを新たな事業展開の切り口に
推し活市場は、対象の多様化と世代を超えた広がりをみせながら、着実な成長を続けています。この市場で成功するためには、コミュニティの特性を理解し、それぞれの層に適した商品開発とマーケティングが重要となります。特に、カスタマイズ需要への対応や、コミュニティ活動と連動した商品展開は、市場参入の重要なポイントとなるでしょう。
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