いま、印刷産業は厳しい状況にあります。一般社団法人日本印刷産業連合会によれば、2020年の印刷産業の出荷額は約4兆6,630億円であり、3年連続で5兆円を下回っています。そのため、印刷会社の中には新たにオリジナルグッズビジネスへの参入を検討している企業もあるでしょう。
しかしながら、オリジナルグッズの制作や販売に取り組む際には、注意点を把握しないまま行うと予期しないリスクが生じる可能性もあります。そこで、以下ではオリジナルグッズの制作や販売における注意点についてご説明いたします。
オリジナルグッズの制作・販売は権利関係に注意が必要
オリジナルグッズの大きな強みは、個人や企業が好きなデザインで製作・販売できることです。さらに、オリジナルグッズはマグカップや文具などの雑貨からバッグやポーチ、アパレル、タオル、缶バッジなど、多種多様なアイテムがあり、市場の規模も大きいという特徴があります。しかし、実際にビジネスとして参入するにはいくつかの注意点があります。その中でも特に重要なのが権利関係です。
オリジナルグッズの制作・販売で権利侵害となるケース
オリジナルグッズの制作や販売において、特に注意すべき権利は、著作権・肖像権・商標権です。それぞれの概要とどのような場合に権利を侵害していると判断されているかについて解説します。
・著作権
著作権は、「著作者人格権」と「著作権(財産権)」の2つに分けられます。「著作者人格権」とは、小説や脚本、音楽、舞踊、絵画など、主に文芸や学術、美術、音楽などの著作者の人格を守るためのもの。一方、「著作権(財産権)」は、著作権者が著作物の利用を許可して使用料を受け取る権利です。
著作権者の利用許可を得ずに著作物を使用して利益を得た場合、それは「著作権(財産権)」の侵害となります。したがって、自分でキャラクターに似せたイラストを描いた場合でも、著作権侵害とみなされるケースが多いため注意が必要です。
著作権について詳しくは、「グッズ製作で知っておくべき著作権の基本知識と対応策について」をご覧ください。
・肖像権
肖像権とは、自分の顔や姿態を「撮影」や「公表」されないための権利です。一般人も含む「プライバシー権(人格権)」と、有名人を対象とした「パブリシティ権(財産権)」があります。
肖像権自体は法律で定められた権利ではありません。ただし、憲法第13条の「幸福追求権」を根拠にして多くの判例で認められています。
オリジナルグッズの製作においては、有名人の許可を得ずに写真や動画を使用して商品を製作し販売すると、パブリシティ権の侵害となる可能性があるため注意が必要です。
・商標権
商標権とは、商品やサービスに使用する商標に対して与えられる権利で、商標登録されているキャラクターのイラストやロゴなどを無断で使用すると、商標権の侵害となります。
ここまで挙げた権利で侵害と判断されるのは、すべて商用利用した場合です。販売をせずに個人で楽しむために製作するのであれば、著作権・肖像権・商標権などの権利侵害とはなりません。
権利侵害となるかどうかの判断が難しいケース
以前からあるものを模したものや、パロディやオマージュでも権利侵害となるのでしょうか。ここでは、それぞれについて権利侵害と判断されるかどうかを解説します。
・以前からある柄やデザインを模したもの
チェック柄や市松模様などに関しては単なる配色であるため、著作物には該当せず侵害になる可能性はないといえるでしょう。ただし、バーバリーチェックのように、配色であっても商標登録されているものを模してオリジナルグッズを製作・販売すると、商標権の侵害となる場合があるので注意が必要です。
・パロディやオマージュ
パロディやオマージュは主観が大きな要素を占めることもあり、権利侵害に当たるかどうかは法律上も明確には定められていません。また、著作権法では、パロディそのものについては、創作価値があるとして、保護の対象にもなっています。
ただ、これまでの判例から、元になる著作物に対する敬意があるかどうか、市場の住み分けができているかどうかは重要な判断材料となるようです。ここで、「面白い恋人」事件の事例を紹介します。
「面白い恋人」事件とは、北海道土産として有名な「白い恋人」の製造販売を手掛ける石屋製菓が、「面白い恋人」の販売をした吉本興業を商標権侵害で訴えた事件です。
白と青を基調としたパッケージデザインも似ているということで訴訟となりましたが、2013年2月、吉本興業がパッケージデザインを変え販売地域を限定することで和解が成立しました。
このように著作者や商標登録を行った当事者が侵害されているとして訴えれば、裁判となる可能性が高まります。そのため、基本的にはパロディやオマージュも避けた方が無難だといえるでしょう。
権利侵害以外に注意すべきポイント
オリジナルグッズの制作・販売で注意しなければならないのは、権利侵害だけではありません。商品によっては、販売するのに資格や権利が必要なものもあります。
例えば、オリジナルのラベルを付けたお酒を販売する場合では、販売する場所を管轄する所轄税務署長から酒類小売業免許を受ける必要があります。また、通信販売もする場合は、通信販売酒類小売業免許も必要です。
ほかにもオリジナルグッズで食品を扱う場合は、食材によっても異なりますが、基本的には販売する場所を管轄する保健所に届け出を行います。その際、食品衛生責任者の資格を持った人が最低1人はいなくてはなりません。また、製造・加工を行う場所を調査してもらい、認可を受けることも必要です。
これらの販売に関しては、都道府県によって条例が異なる場合もあるため、販売をする前に必ずそれぞれの自治体で確認してください。
ノベルティや景品など販売目的でない場合の注意点
オリジナルグッズは販売に限らず、さまざまな用途に活用されます。たとえば、企業の周年記念のノベルティとして配布されたり、新製品の購入時に景品として提供されたりすることもあります。
前項で触れたように、個人利用でない限りは、有料であろうと無料であろうと権利侵害が発生する可能性があります。そのため、ノベルティや景品として利用する場合にも著作者に許可を得る必要があります。
また、さらに注意が必要な点があります。それは、景品表示法です。
景品表示法とは?
景品表示法とは、商品やサービスの不当表示や不当景品から、消費者の利益を保護するための法律です。具体的には、商品・サービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことへの規制。そして、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額などを制限するものです。
ノベルティや景品など、販売目的ではない場合には、後者の景品類の最高額制限が該当します。
例えば、全国展開するスーパーやコンビニなどの商品購入で一定の金額を使った場合にくじを引き、その懸賞としてオリジナルグッズを出す場合は、一般懸賞に該当します。使った金額が5,000円未満での景品類の限度額は、取引価額の20倍まで、5,000円以上では10万円が最高額という条件があります。
また、商店街や一定の地域のみで全店舗が共同で景品を出す場合は、共同懸賞に該当し、取引価額に限らず30万円が最高額です。
そのほか、金額に関わらず商品やサービスを利用した人や店舗に来店した人を対象に、もれなく景品を出す総付景品の場合は、取引価額が1,000円未満なら200円まで、取引価額が1,000円以上なら取引価額の10分の2までの条件があります。
これらの金額を上回る景品としてオリジナルグッズを提供すると、景品表示法違反となるため、注意しなくてはなりません。
オリジナルグッズとしてのおすすめは缶バッジ
もし印刷会社がオリジナルグッズの製作・販売を検討しているのであれば、権利侵害や資格・認可の取得、景品表示法違反などには十分な注意が必要です。新たな事業として展開する際に、法的な問題を引き起こしてしまうと、本業である印刷業においても取引先からの信頼を失ってしまうおそれがあります。
ひと口にオリジナルグッズといっても、その種類は多様で何を選択すべきか悩ましいところではありますが、おすすめは缶バッジです。単価が安く、ノベルティや景品としても景品表示法に違反するリスクはほぼありません。
また、缶バッジは、キーホルダー型、ストラップ型、メダル型などさまざまな種類があり、多様な用途に対応できるのもおすすめする理由の一つです。
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