
ハンドメイド商品やプレミアムグッズ、伝統工芸品などの販売ページでは、しばしば「完全受注生産」という言葉を目にする機会があります。特別感の演出できるこの生産方式について、通常の受注生産との違いやメリットが気になる人も少なくありません。本記事では、完全受注生産の基本情報から、通常の受注生産との違い、メリット・デメリットを解説します。最後に、完全受注生産に取り組むうえでのポイントについても紹介します。
完全受注生産とは
完全受注生産とは、顧客からの注文を受けてから初めて、原材料の調達や部品の製造を含む全ての生産工程を開始する方式です。
この方式の最大の特徴のひとつは、事前に在庫をほとんど持たないことにあります。顧客の要望に応える高度なカスタマイズが可能となる一方、通常は前払いや一部前払いといった特殊な支払い形態が採用されることが一般的です。
例えば、伝統工芸品である輪島塗では、顧客の注文を受けてから木地の形成、漆の塗り、装飾に至るまでの全工程を順次進めていきます。同様の生産方式は、高級家具やハイエンドオーディオ機器、スーツ、靴といった高品質で個別性の高い商品にも採用されています。
一般的な受注生産との違い
一般的な受注生産は、顧客からの注文を受けてから生産を開始する方式ですが、一般的には部品や半製品を事前に在庫として保有しています。
一方、完全受注生産は受注生産の一形態ではありますが、その名の通り「完全に」受注後の生産にこだわった、より徹底したアプローチです。受注生産をさらに進化させた形態として、原材料の調達段階から全工程を注文ごとに行い、事前の在庫をほとんど持たない点が特徴的です。
一般的な受注生産については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 受注生産とは?メリット・デメリットや注意点、グッズ制作に役立つ情報も <<
完全受注生産方式とC2M
完全受注生産は、C2M(Consumer to Manufacturer:消費者から製造業者へ直接つながる)ビジネスモデルで多く採用されています。C2Mとは、オンラインプラットフォームを通じて消費者のニーズを直接メーカーに伝え、それに基づいた生産を行うことで無駄のない効率的な製造を実現するシステムです。従来のD2C(Direct to Consumer:メーカーが消費者に直接販売する)モデルをさらに進化させた形態といえるでしょう。
D2Cについては、以下の記事でくわしく解説しています。
>> D2Cとは?従来の販売方法との違いやメリット・デメリット、成功事例を解説 <<
完全受注生産が注目される背景
大量生産・大量消費の時代からモノの本質的価値が見直される現代において、パーソナライズ商品への需要が急速に高まっています。自分だけの特別な製品を求める消費傾向が強まり、この価値観の変化が完全受注生産に注目が集まる大きな要因となっています。
企業側も、過剰在庫リスクを回避しながら資金効率を高められるという経営面でのメリットから、この生産方式を採用するケースもあります。
パーソナライズ商品については、以下の記事でくわしく解説しています。
>> パーソナライズ商品とは?基礎から成功例、缶バッジビジネスへの活用法も <<
完全受注生産のメリット
完全受注生産方式の採用には、企業側に次のようなメリットがあります。
在庫リスクの完全な排除
原材料や部品を含めて事前の在庫を持たないため、市場のトレンド変化や需要予測の誤りによる過剰在庫の損失を防げます。季節商品やトレンド変化の激しい商品カテゴリーでは、この利点が大きな経営安定化要因となります。
また、倉庫スペースの確保や在庫管理にかかるコストも削減できるため、経営資源を他の重要な領域に振り向けることが可能です。
資金効率の向上
製品を作る前に代金の一部または全額を受け取るビジネスモデルなので、自己資金だけに頼らない生産活動が可能になり、キャッシュフローの改善につながります。小規模事業者やスタートアップ企業にとっては、初期投資を抑えながら、ビジネスを展開できる点も魅力といえるでしょう。
個別対応による高付加価値化
一つひとつのオーダーに完全対応することで、顧客固有の価値を提供でき、価格競争に巻き込まれにくい独自のポジションを確立できます。顧客中心のアプローチは、顧客満足度の向上にもつながり、リピート購入の促進やロイヤルカスタマーの獲得が期待できます。さらに、顧客との対話を通じて得られる情報は、製品開発や市場分析にも活用できる貴重な資源となるでしょう。
完全受注生産のデメリット
一方で、完全受注生産方式にはデメリットもあります。
生産効率の低下
完全受注生産では製品ごとに一から生産を行うため、大量生産と比較して効率性が大幅に低下します。製品単価が上昇し、価格競争力の低下を招く可能性があります。特に、価格感応度の高い市場では、これが課題となり、ターゲット顧客層を限定せざるを得ない状況も生じるでしょう。また、製造プロセスの標準化が難しく、品質管理にもより多くの労力が必要となります。
リードタイムの長期化
完全受注生産では原材料の調達から製造までを注文後に行うため、必然的にリードタイムが長期化します。このリードタイムの長さは、急ぎの案件への対応を困難にし、スピードを求める顧客の獲得を妨げるため、潜在的なビジネス機会を逃す要因となります。
リードタイムについては、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 製造業のリードタイムとは?短縮させるメリットや方法、注意点を解説 <<
完全受注生産を成功させるポイント
完全受注生産には、確かにデメリットがありますが、適切な戦略と準備によって、そのメリットを最大限に生かすことも可能です。ここでは、完全受注生産を成功させるポイントを解説します。
完全受注生産に適した商品選定
完全受注生産方式は、全ての製品に適しているわけではありません。高い付加価値を持つ高級品、カスタマイズ性が重視される特注品、デザイン性や個性が重要なグッズなどが特に相性が良いでしょう。顧客が納期の長さより、品質や独自性を重視する商品カテゴリーを選ぶことが、成功への第一歩となります。量産効果が低い商品や、一点ものとしての価値が高まる商品も完全受注生産の候補として検討する価値があります。市場のニーズとのマッチングを慎重に見極めることが重要です。
商品価値を伝える丁寧なコミュニケーション
完全受注生産の特性を生かすためには、一般的な量産品より高価格になりがちな商品の価値を、顧客に十分理解してもらうことが不可欠です。例えば、品質の高さ、細部へのこだわり、職人の技術力など、目に見えにくい価値をしっかりと伝える丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
また、リードタイムが長くなることについても事前に明確に説明し、その時間がどのように価値創造につながるかを具体的に伝えることで、顧客の理解と共感を得ることができます。製作過程の定期的な進捗報告や丁寧な説明が、顧客の不安を軽減し、信頼関係の構築につながります。
生産プロセスの効率化
受注から納品までの生産プロセスを可能な限り効率化することが必要です。オンラインプラットフォームの活用、一部工程の標準化、自動化設備の導入などにより、品質を損なわずに生産性を高めることができるでしょう。効率化によって生まれた余裕は、品質向上やさらなる付加価値の創出に振り向けることができます。
また、リードタイムの短縮は、受注可能な案件数の増加にも直結するため、ビジネスの拡大にもつながります。
emoji_objects 完全受注生産方式の活用には製品との相性と市場ニーズの見極めが必要
完全受注生産は、在庫リスクを排除しながら顧客のニーズに徹底的に応える生産方式として、特定の商品カテゴリーで大きな価値を発揮します。しかし、リードタイムの長期化や生産効率の低下といったデメリットも存在するため、製品特性や市場環境、自社の強みを見極めたうえで導入を検討することが重要です。
カスタマイズ需要の高いグッズは、完全受注生産の特性を生かしやすい商品のひとつです。なかでも缶バッジは、デザインのカスタマイズ性が高く、小ロットでも製作可能なため、完全受注生産と相性が良い製品といえるでしょう。例えば、アニメやゲームのキャラクターをあしらったイベント限定グッズや、ファンの名前入りオリジナルデザインなど、一人ひとりの好みや要望に応える商品では、完全受注生産の強みを発揮できます。
バッジマンネットでは、小ロットの受注生産に適したマシンから、大量生産向けのマシンまでさまざまなマシンを取り揃えています。具体的な製作方法やマシンの選定については、バッジマンネットにてくわしくご紹介していますので、ご覧になったうえで、お気軽にお問い合わせください。