キャラクターの顔、生き物や乗り物の顔、そして絵文字の顔など、缶バッジにはさまざまに顔をフィーチャーしたデザインがあります。
絵文字は日本社会では90年代から馴染みがあったものの、世界においては絵文字が実装されたスマートフォンの普及によって「Emoji」として急速に広まりました。
2015年、Twitterで年間60億回という膨大な回数使われていたのが「うれし泣き」の絵文字だったそうで、同年「うれし泣き」絵文字は英国オックスフォード辞典によって毎年発表される「今年の英単語」の第1位に選ばれています。
革命的にコミュニケーションを円滑にしたというこの絵文字は、私たち日本人がもともと、顔に描かれる一粒の汗や怒りのマークなどの共通認識を漫画から学んでいたというベースがあってこそ生まれた文字でもあります。
日本では子ども時代から漫画によって潜在的に、文字だけで表現できないニュアンスを表情の描写から読み取るコミュニケーションが学ばれています。
そう考えると、世界的な絵文字の普及の背景にはスマートフォンの普及だけではなく、漫画そのものが世界に広まっていることによる相乗効果も無視できないのではないでしょうか。
事実、漫画の累計発行部数を見てみると、「ワンピース」は4億7000万部、「ゴルゴ13」「ドラゴンボール」「ナルト」は2億5000部超えと国内の人口を軽く上回っており、日本の漫画をアニメで視聴している海外ファンも少なくありません。
缶バッジにもこれまで多くのキャラクターや絵文字の顔が描かれてきました。
特にアニメのワンシーンを切り取ったキャラクターの缶バッジは、そのシーンの感動を持ち運べるアイテムとしてファンに親しまれ、そんなお気に入りの缶バッジは傷がつかないように缶バッジカバーをかけられて大事に扱われたりもしています。
昨今、日本では絵よりも文字を綺麗に書く未就学児が増えているという話もありますが、文字で表現しきれないイメージを絵で描く力は人間にとって本質的なコミュニケーション能力です。
人間の文化はそもそも絵の方が文字よりも古く、洞窟で絵を描いてコミュニケーションをとっていた時代が1万年ほど続いた後に、ようやく文字が人類史に登場したのです。
実際、漢字の中にも雨や川、木や鳥など、自然の形を象ってできたものが多くあります。絵のような文字を文章に交えることに慣れていたことが、日本人が絵文字を生み出した背景にあるという見方もあります。
缶バッジにおいても顔に描かれる棒線や怒りマーク、涙、汗などの“漫符”と呼ばれる符号は欠かせず、改めて、私たちの文化に共通する絵文字の学びがあることを実感します。
缶バッジに顔を描くにもどこから始めようかと迷うかもしれませんが、目と口の描き方次第で求める表情の表現はほぼ叶います。
特徴的なパーツ1つか2つでメッセージは伝わるもので、目と口の開く大きさ、描く線の角度などを何度か試してみると表情が思うよりも繊細に変化することに気づくでしょう。
実は、このようにしてシンプルな絵で物事の特徴を伝えることに慣れると、仕事上のプレゼン資料などにも絵による表現を取り入れられるようになってきたりするそうです。
グローバル社会においては英語力が問われると同時に、インフォグラフィックに代表されるような世界に通じる絵文字やアイコンが的確に描けることも今後、重要なスキルとなると考えられます。
日本の漫画・アニメの可能性はとどまるところを知らず、中国の動画配信プラットフォームの急成長といった影響も受けながら、そう遠くない未来に国外の市場規模が国内の市場規模を追い越すかもしれないという勢いで成長しています。
日本の漫画・アニメ産業が他国に乗っ取られてしまうと危惧されてもいますが、実のところ日本のように過激な表現にも寛容で、クリエイターの求めるストーリーをかなり自由に表現することができる国は、世界になかなか見当たりません。
缶バッジはこうした表現を支える一つの土台として、これからも漫画やアニメ、そして絵文字といった絵によるコミュニケーションを広めていくこととなるでしょう。