よくSNSの使用時間が長い人は、幸福度が低いとも言われます。
しかし、これは少し見方に気をつける必要があり、実際は、既にリアルな世界で人間関係がある人とSNSでコミュニケーションを取ることに関しては、幸福度に大きな影響はありません。
問題なのは、リアルな世界で人間関係のない全くの他人のキラキラした日常生活をSNS上で日々見てしまうことで、自分との生活に嫌気が差し、幸福度がどんどん下がっていってしまうのです。
ハーバード大学が84年間にわたり、2000人以上を追跡調査した有名な研究によれば、人生を通じて、幸福度に一番大きな影響を与えるのは、健康でもなければ、資産の大きさでもなく、その人がどれだけ良い人間関係を周りと築いているかということでした。
「友人、親戚、隣人に値段をつける」という経済学の研究によれば、良い社会生活を送るための人間関係から生まれる幸福の価値は、年間約1800万円ほどになるのだと言います。
SNSは確かに、つながりのあり方を変えましたが、同時に、これまで、必然的に近い関係にあった近所の人たちや、地域の友人との付き合い方も変えてしまいました。
福井県小浜市では、小学生が缶バッジを使って、地域の繋がりを取り戻す活動を始めています。
この地域では、4年前に4つの小学校が1つに統合され、それまでは学校単位で地域の大人たちと交流する機会があったのに対し、統合により、学校と地域の結びつきが少なくなってしまいました。
そこで、小浜美郷小学校の4年生が地域の魅力が描かれた10種類の缶バッジをつくり、ガチャガチャの機械に入れて、地元のコミュニティーセンターなど8カ所で販売しました。
全種類集めると、お米や塗箸などの景品がもらえ、地域では子どもとの交流が増えたと、地元の人からも好評なのだと言います。
人間関係が大事なことは分かっていても、人間関係を維持するのは本当に大変で、今回の缶バッジのように、何かアイディアやエンターテイメント性を持たせることで、定期的に対面で接して、人間関係を維持する試みが必要なのでしょう。
若くて動ける時は、どんどん人に会いに行って、SNSは歳を取ってから人間関係を維持するくらいの感覚で使うのがちょうど良いのかもしれません。
「いいね!」を押すだけでは人間関係は維持できない。雑談が増えれば増えるほど生産性が上がる。
SNSの怖いところは、「いいね!」を押すだけで、人間関係が維持できていると錯覚してしまうところです。
もし、SNSが無ければ人間関係が成立しないのであれば、それはもうテクノロジーを使っているのではなく、テクノロジーに使われていると表現した方が正しいのかもしれません。
確かに、日本人の寿命は世界一かもしれませんが、孤独である人が多いため、幸せを感じていない人が多いのが現状です。
米国では、30代以降、幸福度が徐々に上がっていきますが、日本の幸福度は右肩下がりになっていってしまいます。
ビジネスなどにおいても、本当に有益な情報というのは、SNSなどでは共有されず、信頼のある人間関係の中だけで共有されるのです。
特に日本は、家族と会社の人以外の人との関わりが、他の先進国と比べて少ないのだと言います。
結婚相手にしても、転職先にしても、結婚相談所や転職サイトを使って候補を探すことはできますが、どうしても、その人の分かりやすいスペック(年収・スキルなど)で判断されてしまい、なかなか理想の相手や企業にたどりつくことはできないことでしょう。
地域や近所でしっかりとした人間関係が構築されていれば、そこに「おせっかい役」の人が入って、「まぁ、とりあえず一回会ってみなよ!」といった感じで、自然と出会いのチャンスが生まれていく。
結婚相談所や転職サイトが流行るのは、地域のコミュニティの力が弱いからだと言えるのかもしれない。
仕事や日常の悩みを上司や家族に話せば、専門的な助言がもらえたり、親身になって聞いてくれるかもしれません。
しかし、意外と「弱い繋がり」でつながっている人の方が、全く別の視点から解決方法を提案してくれたり、ある意味、遠慮なしに無責任にアドバイスできるからこそ、新しい可能性が開けるのだとも言えます。
また、ビジネスの世界でも、休憩時間に雑談が多いほど、生産性が高くなるという調査もあります。
米国のバンク・オブ・アメリカのコールセンターで、休憩時間にコミュニケーションを促す試作を取ったところ、パフォーマンスが低いチームの生産性は2割上昇し、導入したコールセンター全体でも8%のパフォーマンス上昇に繋がりました。
周りの人全員にあまり強い絆を求めすぎてしまうと、人間関係に疲れてしまいますから、会ったら少し雑談する程度、一年に1〜2回会う程度の「弱いつながり」をしっかり維持していくことが大切なのでしょう。
新しいつながりをもたらす弱い繋がりは、知識、アイディア、感情のフローとなり、より柔軟な考えを持つ多様性を生み出します。
日本人は、カフェの隣の席の人に話しかけるのは得意ではありませんから、今回、小学生が考えた缶バッジを地域の色々な場所に置くというアイディアのように、エンターテイメント性を織り交ぜたアクティビティを通じて、弱い繋がりを生み出していく必要があるのかもしれません。
どれだけお金を貯めて、どれだけ健康を使っても、人生の最後で、人間関係の重要性に気づいても、もう手遅れなのです。