絵を描くことの一番の利点は、ストレス解消なのだとも言われ、最近では「アート・セラピー」という言葉も使われ始めています。
絵を描くことは、常時挿しっぱなしになっている心のコンセントを抜き、精神に「プチ・メンタル・バケーション」を与えることができるのです。
ピカソは「芸術は日々の生活のほこりを魂から洗い流してくれる」と言いました。
世の中の動きはどんどん早くなり、いまやスケジュールがパンパンである事に安心する人達がいるなかで、スローフード、スローリーディング、スローライフなどと、周りよりもゆっくり進むことに勇気がいる時代になりつつあります。
奈良県葛城市では文化芸術月間のスタンプラリーの参加賞として渡される缶バッジのデザインを一般の人たちから募集しました。
ピカソが芸術は日々のほこりを魂から洗い流すと言ったように、ストレス社会の現代は、世の中のあらゆる場所で、芸術が必要とされているのでしょう。
そもそも、私たちが暮らす「earth(地球)」という単語の語源は、「e」+ 「art」+ 「h」で成り立っているのだと言います。
「e」の意味は「eden」、つまりは人間界を表し、「h」は「heaven」で天国を表しています。
そして、人間界と天国の間に入って、人間界と天国をつなぐものが「art」であり、「art」を表現すべき場所が「earth(地球)」ということなのだろう。
そういった意味では、絵が上手いとか下手だということではなく、地球上に生まれた時点で、誰もがアーティストなのでしょう。
何かストレスが溜まっていると感じるのは、地球人としての役割である
「art」を表現していないということかもしれません。
「24時間働けますか?」から「24時間思考し続けられますか?」の時代へ
レオナルド・ダ・ヴィンチは絵を描くことは、目の10個の機能のすべて、暗さ、明るさ、体、色、形、位置、距離、近さ、動き、静止を含んでいると言いました。
もしかすると、絵を描くことによって、本当の意味で、何かをしっかりと「観ている」のだと言えるのかもしれません。
現代は、常に新しいアイディアが求められ「24時間働けますか?」の時代から「24時間思考し続けられますか?」の時代にシフトしつつあり、スポーツ選手が身体を鍛えるのと同じように、ビジネスパーソンは、脳を常にアクティブに保ち続けておく必要があります。
絵を描くことで、脳の左脳と右脳に橋がかかり、新しい脳細胞が育つとも言われます。
また、人間が何を描こうかと考えている最中は、自分自身の記憶の「アルバム」にアクセスする傾向にあり、これは凝り固まっていた脳の筋肉をほぐしてあげることができるのです。
人の生き様を表現するのがアーティストであり、実際は、ある意味、現実離れした生活を送っている成功したアーティストと呼ばれる人たちよりも、毎日会社勤めをしたり、忙しい子育てに追われている人たちの方が、「人の生き様」をより多く観ているのだともいえる。
また、ゴッホやピカソなどを観ても分かるように、精神的に辛い時の方が、新しいアイデアを生み出す生産性が上がっています。
そういった意味では、心が不安定な時だからこそ、より人の心を動かす芸術を描けるのかもしれませんし、自分の不安定な心を安定させるために、何か人々の心を安定させるものを芸術の中に生み出せるのかもしれません。
新海誠監督は、大ヒット映画「君の名は。」は、震災がなければ決して生まれなかった作品なのだと述べています。
ピカソの有名な「ゲルニカ」もある悲劇がもとになって描かれたものですが、クリエイターと呼ばれる人たちは、目の前の絶望を乗り切っていくために、作品を作り続けていくのかもしれない。
芸術を描くということが、今を生きるということ。
最近では、何に関しても、「量」よりも「質」にこだわることが大切なのだと言われます。
しかし、芸術やクリエイティビティという分野においては、「量」→「質」→「想」という順番で作品が変化していくため、まず最初はとにかく量を意識して作品を作り続けていかなければなりません。
創造性を開花させるためには、とにかく何度も何度も作品をつくって、サイコロを振り続ける必要があり、大切なのは何か「正解」や「解決策」を見つけようとするのではなく、自分が正しいと思う方向に、ひたすら動き続けることだと言えます。
2023年に亡くなられた坂本龍一さんは、人間の生きる時間など、芸術が生きる時間と比べれば、あまりにも短すぎるという意味の、「Ars longa,vita brevis (芸術は長く、人生は短し)」という言葉が好きだったのだと言います。
どれだけビジネスで成功しようと、有名になって富や名声を手に入れてようと、最終的に歴史に名を残せるのは、その時代にしか表現できないわび・さびのようなものを表現した芸術家と呼ばれる人達なのでしょう。
人間界と天国をつなぐものが「art」であるならば、答えのない時代に、人々に受け入れられる芸術を追求するということ自体が、「今を生きる」ということなのかもしれません。
そういった意味では、芸術を表現することは、人間がすべき最初の仕事であり、そして、人間が追求すべき最後の仕事と言えるのでしょう。
缶バッジは、芸術を表現するキャンバスとして最も身近なものです。
「芸術は長く、人生は短し」、芸術を表現した缶バッジが増えただけ、その人の魂の寿命が伸びていくのかもしれません。