地域振興向けに、多くの人を多方面から呼び込める手段として成功している例に鉄印帳があります。鉄印帳は、いわば御朱印帳の鉄道版で、各駅をまわって鉄印を記帳するというものです。

鉄道マニアはもちろん、旅行好きな人にとって大きな魅力となり、コレクション心を刺激します。今回は鉄印帳の概要、人気の理由を紹介しながら鉄道会社における地域振興や集客のポイントを解説します。

鉄印帳とは?

初めに鉄印帳の基本的な知識を解説します。

鉄印帳の概要

「鉄印帳」とは、鉄道会社のオリジナル証明として押印される印章印影の、「鉄印」を記帳する冊子です。神社や仏閣の御朱印帳にならい、駅を訪れた人が押印を受けるために作られました。

鉄印帳の対象となるものとして、現在は、第三セクター鉄道40社の鉄印があります。

鉄印を受けるためには、専用の鉄印帳をあらかじめ購入しておく必要があります。該当する各鉄道会社の駅の窓口で乗車券を提示し、記帳料を支払うと記帳されます。

ちなみに「鉄印帳」は、株式会社旅行読売出版社の登録商標であり、鉄道関連の一般的な名称ではありません。

鉄印帳が誕生した背景

鉄印帳が誕生した背景にあるのは、第三セクター鉄道の赤字の常態化です。2021年度は、加盟40社のうち39社が経常赤字となっています。

第三セクター鉄道の多くは、かねてから資金的にあまり余裕がなく、少子高齢化による地域利用者の減少に頭を悩ませていました。そこに新型コロナウイルス感染症の拡大という大きなマイナス要因が重なり、いまだ回復できていません。

第三セクター鉄道存続に向け、経営を安定させるためには、ローカル客以外の集客が必要です。

そこで、地域鉄道の魅力に注目してもらうための施策として、熊本県にある「くま川鉄道」の社長から御朱印長の鉄道版が発案されました。40社ある鉄道会社に着目し、独自の鉄印を発行することで全国の第三セクター鉄道を楽しんでまわってもらおうという試みです。

もともと鉄道会社の施策としては、スタンプラリーや鉄カードなど「集める」手法が多く見られました。こうして、鉄印帳を通じて、御朱印のように巡る楽しみを感じてもらえるのではないかというアイデアが実現したのです。

鉄印帳の効果

鉄印帳による鉄印の収集という話題は大きな反響を呼び、企画スタート後には鉄印帳の完売が相次ぎました。

初版5,000部を各社に110部ずつ配布しても、即日完売の会社もあったといいます。

2020年7月10日から開始した企画の効果として、同年末12月には累計販売部数が3万部超となりました。開始2ヵ月後には早くもコンプリート達成者が続出し、関心の高さが伺われます。

コロナ禍による「三密回避」目的で、地方をまわりながら集める人も多く、これまで特に鉄道に興味のなかった層までをも取り込む一大ブームとなりました。

鉄印帳が入荷してもすぐに完売する状態は長く続いており、大手旅行会社が鉄印を集めるツアーを販売するなど、社会的にも鉄印帳の効果が出ています。

YouTubeのくま鉄公式チャンネルによると、鉄印帳の購入、記帳料に加え、移動にかかる費用などをあわせ、数百億円単位の経済効果が見込めるとされています。鉄印を集めるために、これまで訪れたことのない地まで足を運ぼうとする人が増え、各鉄道会社だけではなく地域への波及効果が期待できます。

鉄印帳はなぜこれほど人気になったのか?

鉄印帳が大きな人気を集める理由としては、以下のことが考えられます。

・コロナ禍での旅の事情にマッチしていた

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、混雑を避けることが求められるなか、密を避けて人の少ない地方への旅行が人気となりました。鉄印を集める旅は、日常生活の閉塞感から抜け出すのに絶好の機会として受け入れられたことも、要因のひとつです。

・「集める」「コレクター心をくすぐる」といった心理的要因

鉄印帳は熱烈な鉄道ファンにとって、コレクター心を刺激される魅力あるアイテムです。全国の小さな駅をまわり、そこでしか手に入れられない鉄印を集めるのは、手間と時間がかかるため価値があるのです。

・応援の気持ちが行動につながる

鉄印帳の大きな特徴のひとつに、鉄道に関心がなかった人にも注目された点があります。鉄印帳の購入者は主に鉄道好きの人ですが、これまで鉄道に関心がなかった人も少なくありません。

鉄印帳は、ローカル鉄道に対する憧れと、ニュースで苦境が伝えられていた地方鉄道を応援する気持ちを、呼び起こすきっかけとなったと考えられます。

・旅の思い出に「記録」がプラスされる

鉄印帳はいわば自分のたどった足跡でもあります。旅の思い出が記録となり、ページをめくるたびに出来事がよみがえります。鉄印帳があれば家族や友人との話題作りにも役立ち、「今度は一緒に行ってみよう」など会話が弾むきっかけとなるのです。

・「次はどこへ」という継続性がある

鉄印帳のポイントは、「次」の駅への誘いです。全国に散らばる第三セクター鉄道を一度にまわることは難しいのですが、鉄印獲得を目指すため目的地を決めやすく、わくわく感がもたらされます。事前に周辺情報やグルメ情報を調べるなどしながら、旅気分を継続できます。

・達成感を得られる

鉄印のすべてを集めると、シリアルナンバー入りの「鉄印帳マイスターカード」が希望によって発行されます。有料ですが、マイスターの称号と同時に大きな達成感と充足感が得られます。

鉄道会社における地域振興や集客のポイント

鉄印帳の魅力を紐とき、分析すると自社の地域振興や集客のアイデアにつながります。鉄印帳の成功例をふまえながら、鉄道会社における集客のポイントを解説します。

パートナーシップの構築

鉄印帳では全国展開したことが大きな成功要因となりました。一社だけでは限りがある企画でも、地元の観光施設やホテル、旅行代理店などとのパートナーシップ構築を通じて大がかりに広げられます。自社のみでの実施で物足りなさを感じられる場合には、パートナーシップに注目することで、より魅力的な施策が実現できる可能性があります。

自社の魅力を徹底的に洗い出す

利点や特徴を魅力的に伝えるプロモーションするために、景観、特徴、安全性、快適性、観光地へのアクセスなど、消費者が求める利点となる要素を把握することが大切です。地の利を活かした特別なイベントや特産物とのコラボレーションなど、活用できるものがないか「外側からの視点」をもって探索していくとよいでしょう。

オリジナルグッズや限定グッズの製作

鉄印の収集は、その土地でなければ得られないところに大きな魅力があります。そうした意味では、オリジナルグッズや限定グッズは地域振興や集客の有効策となり得ます。オリジナルグッズや限定グッズの製作にあたっては、以下の点を考慮することが大切です。

  • デザインの独自性・豊富なバリエーションを提供する
  • 集める楽しさを強化するためにストーリー性を与える
  • 後から見たときに「その場所」の思い出を想起させる
  • コレクションとしての価値を重視する

上記の条件を満たすアイテムとして、缶バッジがあります。実際に鉄道会社では、電車の丸いヘッドマークをそのまま缶バッジ化するなどのグッズ展開例もあります。

缶バッジは、コレクション価値が高いにも関わらず価格帯が手頃であるのも魅力です。製作する側での事業効果が高く、また購入する側も多く集めるのに負担を感じません。

多種多様で独自性のあるデザインにできるうえ、コレクションが増えてもかさばらないなど継続的に集めてもらうための条件がそろっており、おすすめのグッズといえます。

鉄印帳から成功要因を学んでビジネスに活かそう

鉄印帳が成功したのは、時節的な社会傾向や消費者が魅力を感じる方向性をうまくとらえたからです。鉄道会社が集客を考えるときには、「訪れたくなる理由」に着目する必要があります。鉄道そのものの魅力とともに、駅、周辺地域、環境などすべての要因に目を向けながら集客戦略を考えることで、効果的なアイデアが生まれます。

また、オリジナルグッズの提供も、有効な施策のひとつです。鉄道会社のグッズとしては、デザインのバリエーションが豊富で、安価で気軽に購入できる缶バッジがおすすめです。独自性を出すことができ、コレクションアイテムとしての価値が高い缶バッジを作るためには、高品質なマシンとパーツがそろうバッジマンネットをぜひご利用ください。