缶バッジを本格的にマーケティングに使う企業が増えています。
従来は、何かのおまけのグッズ程度の認識でしたが、デジタルとフィジカルの組み合わせやすさと、手軽ながらも奥が深く、創造力が存分に発揮できることなどが、マーケッターに缶バッジが愛用される理由なのかもしれません。
SEO(検索エンジン最適化)の専門家は、自分たちが売りたいプロダクトやサービスの名前がネット検索で引っかかるようにしてくれます。
SNSのコンサルタントは、細かくセグメントされた特定のユーザーの関心を引く方法を教えてますし、広告のプロは、UI/UXがきれいにデザインされたランディングページを作ってくれるかもしれません。
しかし、こういった小手先のテクニックは、もはやマーケティングではありません。
マーケティングとは、自然にモノが売れていく状態をつくることであり、ピーター・ドラッカーは「マーケティングが完璧であれば、営業という職種は必要ない。」と述べています。
ネットやスマホが普及し、日常的に触れる情報が一気に増えたことで、消費者は本当に欲しいものではなく、ただ単に一番目立つものを選ぶようになってしまいました。
基本的に、ビジネスという壮大な海には、真っ赤な海(レッドオーシャン)か真っ青な海(ブルーオーシャン)のどちらかしか存在しません。
とにかく目立つことだけを意識し、何も考えずレッドオーシャンに飛び込んでいけば、気づかないうちに会社の体力をどんどん消耗していってしまいます。
広告費という燃料を毎回注ぎ込まなくても、自然にモノが売れる環境をつくるブルーオーシャン戦略は、まずは徹底的に狭く濃くマーケティングしていくことで、忠実なファンを一人、また一人と見つけていきます。
こういった忠実なファンはアップル信者、パタゴニア信者のように、こちらからお願いしなくてもプロダクトやサービスを周りに広げてくれる人達です。
一人の忠実なファンの後ろには、100人の知人・友人がいて、その100人の後ろにも、100人の知人・友人がいます。
マーケティング業界には、1万人の中途半端なファンよりも、100人の忠実なファンの方が圧倒的に強いという言葉があります。
短期間の間に大衆に理解されなかったとしても、100人の忠実なファンはあなたのプロダクトを広める最強のマーケティング部隊になってくれることでしょう。
マーケティングとはまずはセンスを受け入れてもらって、その後、ビジネスの帳尻を合わせる。
マーケティングの本質は、顧客の欲望をどう掻き立てられるかという部分にかかっています。
「欲望の見つけ方」の著者であるルーク・バージス氏は、欲望は情報のようには広がらず、コンサート会場や政治集会で少しずつ湧き上がるエネルギーのように、少しずつ、ゆっくりと人から人へ伝わっていくのだと述べています。
フランスのタイヤ製造企業であるミシュランは、遠出をして移動に時間がかかったとしても、美味しいものを食べたいという顧客の欲望を掻き立てるためにミシュラン・ガイドをつくりました。
美味しいものを食べるために車に乗って遠出をすれば、タイヤが減るため、ミシュランのタイヤがどんどん売れていきます。
ミシュラン・ガイドは1900年の発行が始まりで、100年経った今でこそ名前がよく知られていますが、発行当初は、一部の特定の人達に対して、「高級なレストランと旅」というマーケティングの世界観を作り出しました。
マーケティングとは、まずはセンスを顧客に受け入れてもらい、その後でビジネスの帳尻を合わせていくのが鉄則です。
いまや様々なマーケティング・プロモーションがオンライン上で行われますが、何か手で触れるものがないと人はなかなかアクションを起こしません。
アメリカのコンピューター科学者であるアレックス・ペントランドは、リアルの世界で接点のある人からのメッセージは、オンラインのみで交流がある人からメッセージよりも、4倍影響力があると述べていますが、やはりオンラインだけではなく、リアルの世界に物理的に何かが存在しているということが重要なのでしょう。
そういった意味で、缶バッジは、リアルの世界でさりげなく自社の世界観を伝えるための持ってこいのツールなのだと言えます。
ブランディングの業界では、基本的にプロダクトのグレードが上がれば上がるほどロゴやエンブレムのサイズは小さくなる傾向にあります。
高いお金を払ってブランドを所有するのであれば、ロゴやエンブレムは大きい方が良いのではないかと思うかもしれません。
しかし、ロゴやエンブレムが大きいことは、ある意味、ブランドへの依存を表します。
本物の忠実なファンは、「分かる人にだけ分かってもらえればいい。」という気持ちで、ロゴやエンブレムが小さいものを好む傾向にあるのでしょう。
そういった意味では、缶バッジくらいの大きさでさりげなくプロダクトやサービスとの繋がりをアピールする方が、濃い忠実なファンを獲得していくためには効果的なのかもしれません。
多くの顧客が広告やプッシュ型の営業に嫌気が指している現在、持続的にビジネスを成長させていくという意味で、マーケティングほど重要視されるものはないでしょう。
缶バッジを上手く活用することで、リアルとオンラインの交差点を上手く作り出すことができるのではないでしょうか。
缶バッジは、デジタルの世界からリアルの世界に最初の一歩を踏み出すツールになっていくのかもしれません。