企業が行うモノづくりの現場においては、継続的な生産性の向上と収益の確実な確保が求められます。TPMはその実現に向けた取り組みです。TPMの実践により人と設備のすべてにおいて、ロスをゼロにし、生産現場の理想的な姿を目指します。
ここではTPMの基本的な知識、生産活動におけるロス構造、ロスを防ぐための考え方とその活用について解説します。
TPMとは?
初めにTPMの基本的な知識を解説します。
TPMとは何か
TPMとは“Total Productive Maintenance”の略語で、製造工場および設備におけるロスをゼロにすることを目的とした、生産設備や機械、人による作業を最適化するための継続的な改善活動、マネジメントシステムを指します。
日本語では「総合的生産保全」や「全員参加の生産保全」と呼ばれ、社団法人日本プラントメンテナンス協会(JIPM)によって、1971年に提唱されました。
同協会ではTPMについて「生産システム効率化の極限追求(総合的効率化)をする企業の体質づくりを目標にして、生産システムのライフサイクルを対象とし、“災害ゼロ・不良ゼロ・故障ゼロ”などあらゆるロスを未然防止する仕組みを現場現物で構築し、生産部門をはじめ、開発、営業、管理などの全部門にわたって、トップから第一線従業員に至るまで全員が参加し、重複小集団活動によって、ロス・ゼロを達成すること」と定義しています。
TPMの目的
TPMの主な目的は以下の通りです。
・生産能力の向上
生産設備を最適化し、生産能力を向上させることで生産性を高めます。
・機械の故障やトラブルの減少
予防保全活動を通じて、機械の故障やトラブルの発生を減らし、生産停止時間を短縮します。
・従業員のスキルアップ
生産設備の点検や保守などの作業にあたる従業員に、技術や知識を身につける機会を提供し、スキルアップを図ります。
TPMが注目される理由や背景
TPMが現代社会で注目される理由としては、以下のようなものがあげられます。
・競争激化
グローバル化や技術革新の進展により、製品の品質やコスト競争力が過去の時代にも増して求められるようになりました。そのため、企業においては生産設備を最適化し、生産性を高めることが急務とされています。
・経費削減の必要性
利益向上のためには、コストの見直しも重要です。生産停止や故障による損失を減らすことで、経費削減を図る必要が生じています。
・人手不足
社会的な労働力不足が慢性化するなか、生産現場においても熟練技術者の不足が大きな課題となっています。生産設備の保守・点検作業に必要な技術や知識を持つ人材が不足する状況においては、個々の従業員に対してのスキルアップが求められます。
TPM活動で得られる効果やメリット
TPM活動に取り組むことにより、以下のような効果やメリットが期待されます。
・機械の故障率の低下
定期的なメンテナンスにより機械の故障率が低下すると、生産ラインの停止時間が減り、生産性向上につながります。
・設備の寿命の延長
適切なメンテナンス、正しい扱いによる動作を維持することで設備の寿命を延ばすことができ、設備費用の削減に貢献します。
・品質の向上
品質管理の徹底により不良品の発生を防止することで、不良品の廃棄費用の削減、顧客満足度の向上に貢献します。
・生産性の向上
生産ラインの稼働率維持、個々の従業員の習熟度上昇により、生産性が向上します。
TPMの16大ロス
TPMにおいて潜在するロスを洗い出す「16大ロス」について解説します。生産活動において効率化を阻むロスは、以下の3分野に分けて考えることができます。
設備の効率化のロス
- 故障ロス:
設備が故障した場合に生じるロス - 段取り・調整ロス:
設備の調整や準備などによって生じるロス - 刃具交換ロス:
刃具が切れなくなる、破損するなどにより、交換のためにかかる時間から生じるロス - 立ち上がりロス:
作動するまでの時間から生じるロス - チョコ停・空転ロス:
短時間の停止が重なる、空転によることで生じるロス - 速度低下ロス:
生産速度が低下してしまうことによって生じるロス - 手直し・不良ロス:
トラブルの修正のために生じるロス - シャットダウン(SD)ロス:
機器の立ち上げ直しのための時間から生じるロス
人の効率化のロス
- 管理ロス:
材料待ち、指示待ち、修正待ちなどから発生するロス - 動作ロス:
作業回りで発生するムダな動作によるロス - 編成ロス:
作業工程の編成ミスで生じるロス - 自動化置換ロス:
自動化できる作業を人力で行うことによるロス - 測定調整ロス:
非合理的な検査や測量による時間的なロス
原単位の効率化のロス
原単位とは物理量を測定するために使用される、他の単位に基づかない基本的な単位です。具体的には、必要な時間やエネルギー、モノなどがあげられます。
- エネルギーロス:
電気、燃料などのエネルギー費用について適正化されていないため生じるロス - 型・治工具ロス:
型・治工具の制作、調整について生じる金銭的なロス - 歩留りロス:
原材料を加工・処理する過程で生じるロス
TPMの8本柱
ロスの排除と予防のための「8本柱」について解説します。
生産ロス削減に直接関係する重要な柱
□ 個別改善
特定の機械や装置、プロセスなどの個別の問題の修正を指します。例えば、故障した機械の修理や、効率の低下している生産ラインの改善などがあげられます。
□ 自主保全
作業員が日常的に行う点検やメンテナンスなど、自主的に設備を保全することです。事前に問題を発見し、早期に対処することで、予期せぬ故障や生産停止を防ぎます。
□ 計画保全
保全計画を策定し、定期的に点検・メンテナンスを実施することで、設備の寿命を延ばします。定期点検や予防交換の実施により、故障や停止を未然に防げます。
□ 品質保全
製品やサービスの品質維持のため、完成品の品質管理や生産ラインの改善、品質管理システムの導入などを行います。品質保全の実施により、不良品の発生を減らし、顧客満足度向上につながります。
TPM実施において必要な柱
□ 教育・訓練
従業員に対し、必要な知識や技能、職務に必要なスキルを習得させるため、新人研修や定期的なトレーニング、職場での実地教育などを行います。教育・訓練を通じて、従業員の能力向上やモチベーションアップ、生産性向上などが期待できます。
□ 安全・衛生・環境
事故や災害、病気などから従業員を守るための対策を施します。具体的には安全装置の設置、危険物の取り扱いに関する指導、定期的な衛生管理などがあげられます。また、企業活動においては、環境への影響を最小限に抑えるための対策も重要です。
排出物の削減や再利用、省エネルギーの導入、環境への配慮を考慮した製品開発などにより、環境への負荷を軽減することで、社会的責任の達成やコスト削減、ブランドイメージの向上などが期待できます。
適宜追加・修正が可能な柱
□ 設備初期管理
設備の設置・据付、点検・調整、試運転・検証、保守計画の策定など、新設備を導入した際に、初期の段階から正しく管理することを意識します。
□ 管理・間接部門の保全
建物や配管、エアコン、電気設備、ITシステムなどの設備管理や保全を行うことで、作業環境の向上や業務の円滑化、コスト削減などが期待できます。
缶バッジ製作におけるTPM活動とは?
ここまでの情報を踏まえ、缶バッジ製作現場におけるロスとロスの軽減・予防について解説します。
缶バッジ製作で想定されるロス
- 材料ロス:
材料の不良品や使用量の過剰が原因となり、余剰材料が発生することによるロス - 加工ロス:
生産ラインのトラブルや不良品の発生によって、加工済み製品を廃棄するロス - 人的ロス:
作業員の不注意や疲労、トラブルの発生によって、作業時間が増加し、労働力を浪費するロス - 設備ロス:
生産ラインの故障やメンテナンス、検査機器の調整や校正作業による生産ラインの停止時間によるロス - 品質ロス:
製品の不良品やクレーム品の発生によって、廃棄や再生産によるコスト増加、ブランド価値の低下が生じ、引き起こされるロス
ロス軽減のためのTPM活動
缶バッジ製作において、ロス軽減を図るためのTPM活動には以下のようなものがあります。
- 定期的なメンテナンス:
生産設備や検査機器などの点検や修理を定期的に行い、故障やトラブルを未然に防止することで稼働停止によるロスを回避できます。 - クリーンアップ:
生産ラインや作業場を清潔に保ち、異物混入やクリーンルーム内の粉塵などによる不良品の発生を防ぎます。 - 現場のトレーニング:
従業員に正しい操作方法や保全の仕方を指導、学習の機会を提供し、製品品質の維持を目指します。 - 自主点検活動:
従業員自身による日常的な設備や機器の点検を実施することにより、異常を早期に発見し、修理することで、生産ラインの停止や不良品の発生を防ぎます。 - 生産機器の見直し:
手動よりも生産スピードとクオリティが高い自動缶バッジマシンの導入や、サイズごとのマシン導入により、安全かつ安定的な生産が実現します。 - 材料の適切な管理:
不良品の少ない仕入を必要量に合わせて適切に行うことで、余剰在庫を防ぎます。また保管中にサビや不具合が発生しないよう管理体制を徹底し、品質維持に努めます。
自社の生産体制に合わせたTPM活動の実施が重要
TPM活動とは現場に関わるすべての人員により、生産設備の保全を総合的に行うことでロスをなくし、生産性の向上や故障発生の予防を目的とした取り組みです。自社の生産現場において機器類の適切な取り扱いやメンテナンスを日常的に行うことで、生産性向上とともに、生産に関わる従業員のスキルアップにも貢献します。
缶バッジ製造においては、ロス削減にはマシンの選定も重要です。扱いやすく失敗の少ない自動缶バッジマシンの導入により、TPM活動の推進が容易になります。
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